12話 事後処理
「やっ……た……?」
もう動かないよな?
相当な圧力で潰したはずだから、生きていたとしてもすぐには起き上がってこれないはず。
「ぶっっはーーーー! やった! やっと倒せた!」
倒せたことを確信したと同時、腰が抜けてへたり込んでしまった。
「あ、はは、今頃かよ。まったく」
その時、ようやく廊下が騒がしくなってきた。
おそらく最初の方に放ったファイアボールの爆発を見てやってきた兵士達だろう。
あれには騒ぎを見た人へのSOSという意味も含まれていたのだ。
ちょっと無駄になった感あるけど。
「姫、姫様! シシリー殿下!」
荒々しく扉が叩かれる。
鍵を開けたいところだけど、生憎僕は腰が抜けてそれどころじゃない。
「おーい!」
なので声だけ上げておく。
「む、その声は誰だ!? 貴様、シシリー殿下の部屋で何をしている!」
何をしているって……何だろう?
答えあぐねていると、扉が強引に蹴破られて、身なりの良い騎士が1人入ってきた。
「殿下! 殿下! むっ、貴様は誰だ!」
騎士は僕を見ると、つかつかと歩み寄ってきた。
「ん? 貴様見たことがあるような?」
「僕はソール=エイダール。殿下はほら無事だよ」
僕は布団をめくってシシリーの無事を教える。
シシリーはなおも眠りから覚めない。どんだけ熟睡してるんだ、この子。
「おお、殿下ご無事で」
「そんな事よりほら、あっちをどうにかしてくれない?」
僕は倒れた暗殺者を指さした。
「む、こやつは……」
と騎士が暗殺者を見た瞬間、暗殺者は予備動作なしでシシリーへと襲いかかった。
「なっ――」
生きてた、つか意識もう戻ったのか!
ヤバい、シシリーが! 間に合わな――。
「下郎が!」
シシリーに小刀が届くと思った瞬間、光が一筋見えた。
そして小刀は砕け、暗殺者の腕は両断された。
目の前の騎士が斬ったんだと気付いたのは、ちょっと遅れてからだった。
な、なんつー速い抜剣だよ。
抜いたトコも納めたトコも見えなかったぞ。
騎士は暗殺者が倒れることすら許さずの、その首を掴み壁へ叩きつけた。
これがかの有名な壁ドンか。※違います。
「貴様、誰に依頼されてこのようなことを――」
騎士がそう問い詰めた所で、暗殺者の様子がおかしくなった。
ガクガク震えたかと思ったら、血を吐いて死んでしまったのだ。
「ちっ、自害したか」
あ、なるほど。
暗殺に失敗したから、依頼主がバレないように仕込んでおいた毒で自殺したのか。
漫画とかでは見たことあるけど、こうして目の当たりにすると、壮絶だな。
「誰か、コイツの処理を頼む。シシリー殿下のお命を狙った不届き者だ」
後から入ってきた兵士に死体を投げて寄越した。
こらこら、遺体なんだから丁寧に扱いなさい。
なんて心にもないことを心のなかで思ってみる。
騎士はしゃがみこんでシシリー殿下の顔を見て、再度安心した表情になると、今度は引き締まった顔で僕を見た。
おお、今まで気が付かなかったけどこの人えらい男前だな。
金髪碧眼でイケメンで、まるで絵に描いたようなヒーローだ。
騎士は僕の目を見た後、頭を下げ、
「先程は失礼いたしました。エイダール家のご子息とは露知らずご無礼を働きました」
先程? あぁ、貴様とか何をしているとか、そういうのかな?
「いえ、貴方もシシリー殿下の身を案じてのことですし、僕は気にしていませんよ」
「はっ。有り難う御座います」
まぁ普通に考えて、お姫様の部屋に子どもとはいえ見知らぬ男がいたら驚くし、詰め寄るよね。
「それで、申し訳ないのですが、お話を伺いたいのですが、宜しいでしょうか?」
「あ、はい」
そりゃ事情は聞かれるだろうさ。
なにせ部屋を見ただけでも、窓は全壊で床はでこぼこ、ベッドはボロボロとなっている。
これで何も聞かれずに返されたら、逆に城の警備について問い詰めたくなるよ。
「でもその前に、場所を移動してもいいですか? さすがにここでは」
「あ、そうですね。では近くの客室を用意させましょう」
そう行って騎士が立ち上がり、僕もシシリーを抱えたまま立ち上がろうとして、腰が抜けていたことに気がついた。
そしてステンと尻餅をついた所で、
「んんぅ、なぁに? もうあさ?」
眠り姫がお目覚めになった。