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11話 はじめての殺し合い

 夢を見た。


 前世の小学校の時、幼なじみの園山さんが怖い映画を見たっていって、僕んちに駆け込んできた時のだ。

 その時は芹香ちゃんなんて呼んでて、いつから苗字呼ぶようになったんだっけ?

 ともかく、芹香ちゃんはクッションを抱きかかえたまま僕の横から動こうとしなくて、僕も芹香ちゃんにガッチリ服を掴まれてたからその場から動けなくて、トイレとお風呂まで着いてこられたっけ。

 そんで僕も僕で芹香ちゃんが好きだったから「一緒にいて守ってあげる」なんて言ったっけ。

 その日は結局芹香ちゃんは家に帰らずに僕んちに泊まって、手を繋いだまま寝たんだ。

 泊まったことを忘れてたせいで、朝起きた時に芹香ちゃんが目の前にいて驚いたのまで覚えてる。

 そんな昔の懐かしい出来事を、何でか夢で見た。




「ううん」


 目を覚ますと、すぐ傍に女の子の寝顔があった。


 芹香ちゃん?


 何故か直感的にそう思ってしまった。

 けれど、すぐに思い直す。


「そんなわけないよね」


 よく見ると、寝ている女の子はシシリーだった。


「うーんと、何がどうなってるんだ?」


 身体を起こすと、そこは見知らぬ部屋で、見知らぬベッドに僕は寝ていたようだった。

 見覚えがあるものと言ったら、すぐ横で寝息を立てているシシリーくらいだ。


「ここ、何処だ?」


 辺りの様子を窺うために立ち上がろうとして、何かに引っ張られた。

 見ると、シシリーが僕の手をしっかりと握っていた。

 これは簡単には外してくれそうにない。


「えっと、考えろ。どうしてこうなった。最後に残った記憶は……」


 頭を振り絞って振り絞って、ようやくお酒を一気に煽ったことを思い出した。


「あ、そうか。お酒を飲んで倒れて。もしかして、ここ、お城?」


 介抱されて、そのまま泊まったんなら説明がつく。

 ここは客室か、あるいはシシリーの寝室なのかもしれない。

 そう思って部屋をよく観察してみると、なるほど昼間に訪れたシシリーとリーズの部屋との類似点が多く見られる。

 となるとここはやっぱりシシリーの部屋ということになる。

 リーズの口振りからして、リーズとシシリーは一緒に寝てるものと思ったけど、今日は僕を寝かせたせいで、違う部屋に移ったのかもしれない。


「うーん、さてどうしたものか」


 どうしたものかも何も、シシリーが手を離してくれない限りはどうしようもないのだが。

 耳を澄ませても城内は静まり返っている。

 おそらくかなり遅い時間なんだろう。

 今から誰かを呼ぶのはさすがに悪い気がする。


「仕方ない。寝るか」


 ここは大人しく寝て、朝になってからおいとまするとしよう。


「んじゃ、改めておやすみ、シシリー」


 僕はシシリーに小声でそう告げて布団の中へと舞い戻った。

 いつもなら寝てる時間だけに、すぐに眠気が襲ってきた。

 そういえば、なんでシシリーと芹香ちゃんを見間違えたんだろう。

 全然似てないのに……変なの……くぅ



 そうして僕は再び眠りに、




 キィ




 ん?


 眠りにつく寸前、変な物音が聞こえた気がする。

 何かがこすれるような、そんな音。

 それと、さっきまでに比べて風の音が強くなった気がする。

 なんだろ?

 ふと、僕の頬を風がなぞった。



 何かがおかしい。

 僕はそう思って目を開いて、直感的に窓へと顔を向けた。



 窓が、開いていた。



 なっ!?



 僕は異常を察知して跳ね起きた。

 すると、決して見てはいけないモノと目が合った。


 真っ黒な装束に身を包み、小ぶりの刃物を振り上げている、濁った目の男と。


 ――っ!


防御障壁アブソリュート・ゼロ!」


 僕は様々な思考をすっ飛ばして、咄嗟に防御障壁を出来うる硬度で展開。

 と同時に小刀と障壁の間に火花が散った。

 すぐに反撃を試みようとしたが、黒装束の男はすぐさま後方へと飛び退いた。

 こいつは、こんな奴は今まで見たことも会ったこともない。

 だけど、だけどコイツを表す言葉は知っている。




 暗殺者。




 誰がとか何でとか、色々疑問は浮かぶけれど、今はそれを考えてる状況じゃない。

 小刀の軌道からしてコイツは間違いなくシシリーを殺しに来ている。

 ならなんとかして、シシリーは守らないと。


反射強化リアクトブーステッド!」


 動体視力と思考速度の強化魔術を発動。

 少しでも状況に対応できるようにしていかないと。

 暗殺者は時間を与えるとどんどん強化されるのを悟ったのか、様子見から一転、攻勢に打って出た。

 だが小刀の一撃も僕の防御障壁に阻まれる。

 ここで暗殺者に動揺が走ったのが見えた。

 おそらく魔術を同時発動してるとは思わなかったんだろう。


 普通、何か魔術を使ったら防御障壁は消えて、また作り出すまでに間が出来る。

 だが僕は防御障壁をあくまで待機状態スリープにしただけで、消したわけではなかった。

 完全なる同時発動は出来ないが、間髪入れない連続発動なら出来るようになっていた。

 フローラの魔力操作の授業の賜である。


 暗殺者がたじろいだ隙に、僕は魔術を発動させる。


火球ファイアボール!」


 出来るだけの魔力を込めて、可能な限りの破壊力を持たせてファイアボールを放つ。

 本来野球ボールくらいの大きさの火球がサッカーボールくらいになって飛んで行く。

 しかし暗殺者はこともなげにそれを避けた。

 ファイアボールはそのまま窓にあたって爆発し、消えてしまった。


「くっ」


 今のは速度も相当出てたはずだ。それを避けるなんて、どういう反射神経してんだ。

 もしかしたら暗殺者も強化魔術を使っているのかもしれない。


 さぁ、どうする。


 屋内じゃ広範囲魔術は使えない。

 初級魔術じゃ避けられる。

 剣での勝負じゃ絶対に敵いそうにない。そもそも剣もないし、前に出たらきっとシシリーが狙われる。

 くそっ、他に手はないか。


 どうする! どうする!?


「源より生ずる破壊の力よ、我がかいなに無類の剛力を与え給え。腕力強化アームブーステッド


 地の底から響くような低い声での魔術詠唱。

 まさか!

 見ると暗殺者の身体が仄かに光り、その光が腕へと吸い込まれていった。

 やばい! こいつ攻撃力を強化しやがった!


「ムンッ」


 暗殺者は床を蹴り、全体重を乗せて僕の防御障壁へと斬りかかった。

 今までにない強い衝撃が防御障壁に伸し掛かった。

 これは数発で壊れる!

 そう直感できた。 

 実際に3撃目で防御障壁にヒビが入った。


「くそ! させるかよ! 隆起壁アースウォール!」


 攻撃しても当たらないだろう事は予測されたため、足場を崩しに掛かった。

 土だけじゃなく、鉱物でも魔術が作用することは検証済みだ。

 床石を歪に盛り上げて、暗殺者の足場を奪う。

 しかしだから何だと言わんばかりに、暗殺者はあろうことか壁を足場にして跳躍してきた。

 マジかよ。何なのコイツ、NINJAなの? アンサツシャ=サンなの?

 4撃目を入れられた防御障壁はヒビだらけで崩壊寸前だ。


 防御障壁が壊れても張り直すことは出来るが、魔力の生成や術名の発言と、発動までにコンマ以下のタイムラグがある。そこをこの暗殺者が見逃してくれるとは思えない。


 前もって発動用の魔力を生み出せば、と思うかもしれないが、いま防御障壁用の魔力を生み出しても、現在発動している防御障壁おなじまほうに吸われるだけだ。しかも僕が未熟なせいで発動中の再強化は出来ない。


 シシリーも参戦してくれると助かるけど、5歳の女の子が寝起きで混乱せずに冷静に今の状況に対応してくれるわけがない。このまま布団にくるんで音や衝撃からシャットアウトして寝かせておいたほうが護りやすい。


 あーもう、どうしろってんだ!


 対応策が思いつかないまま、暗殺者は再び壁を足場にして攻撃を仕掛けてきた。

 そしてついに防御障壁が破られた。


「だぁぁあ! こいつでどうだ!」


 僕は防御障壁が破られると同時、生み出しておいた魔力を使って魔術を同時発動。


火球ファイアボール! 水矢ウォーターアロー!」


 発動させた魔術は僕の目の前でぶつかり合って、膨大な量の水蒸気を発生させた。

 要は目くらましだ。


(やった、初めて同時発動に成功した)


 人間切羽詰まるとやれるもんだな!

 けど、これも一時凌ぎにすぎない。

 相手が気配で僕らの場所を探れるようなスーパー暗殺者なら、あっという間にやられてしまうだろう。ファンタジックなこの世界なら気配を読むとか普通にありそうだし。


 とりあえず一瞬だけ稼いだ時間で、シシリーをくるんだ布団を持ち上げて退避する。

 一瞬後で、布団に刃物が突き立てられる音がした。


 あ、あぶねー!


 そして僅かでも時間を稼いだ今ならもう1度防御障壁を張れる。

 しかしまた同じように強引に破られるだけだろう。

 じゃあ、どうするか!


 僕らの姿を隠してくれていた水蒸気は、僕がリフォームして大きく開けっぴろげになった窓から吹き込む風のせいで、すぐに霧散してしまった。


 再び対峙する僕と暗殺者。

 彼我の距離は僅か。

 多分、魔術名1つ言うのが精一杯で、それ以上なにかする余裕はない。

 それも相手に先に動かれたら、その隙すら無くなる。


「シッ」

防御障壁アブソリュート・ゼロ!」


 迷った挙句、僕はまたも防御障壁を展開した。

 さっきまで同様に5回も攻撃を当てられれば消えるだろう。

 その時にきっと同じ手は通用しない。確実に殺される。



 ――ただし、さっきと同じものを展開したらだ。



「っ!?」


 今回僕は防御障壁を、暗殺者を覆うように発動した。

 僕らを護るのではなく、暗殺者を閉じ込める・・・・・為に発動したのだ。

 暗殺者は閉じ込められた事実を把握すると、すぐさま防御障壁を破るべく攻撃を開始した。

 おそらくまた5発で破られるであろう。

 だけどそれは裏を返せば、5発までは壊れないということだ。

 そして、それだけの時間があれば僕が魔術を1つ発動するには十分過ぎる。


「これで終わりだ。隆起壁アースウォール!」


 僕の魔力は床の中をつたい、半球状に展開された防御障壁の下を通り・・・・、その中心で発動した。


「なっ――ぐぎゃ」


 防御障壁とアースウォールに挟まれた暗殺者は、短い悲鳴を上げて押しつぶされた。

 同時に衝撃に耐え切れなかった防御障壁が割れるようにして消えていった。


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