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8話 シシリーの才能

「だぁー! はぁはぁはぁ」


 つ、疲れた!

 いつもは1000回もの素振りをしているのに、たかだが数合剣を交えただけでかなり疲れた。これが実際に戦うって事か。

 にしても、勝った? 勝ったよな?

 勝ったと思うんだけど、なんか微妙に釈然としない。


 息を切らしながら顔を上げると、いつも通りの強面で僕らを見下ろしているヴォーデンと、左手に剣を持って息を切らしているシシリーがいた。

 あれ? 左手?

 シシリーは右利きだったはず。さっきも両手か右手で剣を持ってたと思うんだけど。


「ほれ、2人共開始位置に戻らんか」


「あ、はい」


 首を傾げたまま開始位置に戻る。


「胴への一本でソールの勝ちじゃ! 礼!」


「「有難う御座いました!」」


 やっぱり勝ってたらしい。

 けど、さっきのあれはなんだったんだろう?


「ソールは納得いっとらん顔じゃの」


 そんな僕を見透かして、ヴォーデンが嬉しそうというか、にんまりとした顔で聞いてきた。僕からは分からなかったけど、客観的に見ていたヴォーデンなら分かるのだろうか。


「えぇまぁ。最後に胴が入ったのはともかく、その前に確実に取れたと思ったら防がれたものがあったんで、それが引っ掛かりまして」


「うむ、そうじゃろうな」


 がっはっはー。

 そうじゃろうなって、やっぱり知ってるのか。


「何があったか教えていただけませんか?」


「よいじゃろ。シシリーこっちゃ来い」


「はーい」


 負けたことで悔しそうに唸っていたシシリーが呼ばれて来た。


「さっき、ソールの胴への剣を弾いたじゃろ」


「え、当てられましたよ?」


「そっちじゃないわい。その前のやつじゃ」


「ん? んー、あっ、うん。はい」


 もう忘れかけてたらしい。

 俺はかなり驚いているけど、シシリー的には大したことじゃなかったのだろうか。


「あれをどうやったかソールに説明してやってくれ」


「はい、分かりましたっ」


 シシリーがビシッと手を上げて、そして僕の方を向いた。


「えっとね、ソールの剣がこう来たでしょ」


 これは弾いた時の一手前の事か。

 剣を左に、シシリーから見て右に弾き飛ばした時のだ。


「それで、あーこれダメだーって思って、やっぱり剣がこっちにいっちゃたでしょ」


 シシリーの剣が右手ごと後方へと弾き飛ばされる。

 うん、ここまでは僕も分かってる。

 その後、がら空きになった胴の左側へ木剣を叩き込んだんだ。


「それで、後ろでこうするでしょ」


 そしていつの間にかシシリーの木剣が左に――って、


「え、ちょっと待って。もう1回やって!」


「えー、ちゃんと見ててよねー」


「うん、ごめん。でもお願い」


「仕方ないなぁ」


 渋々といった様子でシシリーがもう一度再現してくれた。

 木剣は弾かれて後ろに行き、そして、


「あ」


 背中で左手に持ち替えている。

 そして逆手に持ったまま胴の防御へと回された。


「そうか、そういうことだったんだ」


 そりゃ僕の側、真正面からは見えないはずだ。

 まさか後ろで剣を持ち替えてたなんて。

 どうもシシリーは剣が弾かれる直前に、このままじゃダメだということに気が付いて、弾かれた時にはすでに左手は背中へと回されていた。そして、止めの一撃を防いだんだ。


「そんな事をあの一瞬で思いついたの?」


「うーん、思いついたっていうか、かってに体がうごいたの」


 勝手にって。

 もしかしてシシリーって戦闘センスがかなりあるんじゃないだろうか。

 余裕ぶっこいてたけど、思った以上に緊張感のあるライバルになりそうだ。




 その後も何回か模擬戦をして、一応全勝したものの、最後の方はもうかなり際どかった。

 取った、と思ったら防がれたり、思わぬところから攻撃されたりと、身体に覚えこまされた型も含めて、こちらの攻撃に千変万化の対応をしてくる。

 これは剣術だけだと勝てなくなる日が来るかもしれない。


 それも割と近いうちに。




 翌日、魔術の授業で2人で視力強化の魔術を習得し、剣術の授業は模擬戦こそなかったものの、素振りの他に敷地内でのフリーランニングなどが追加され、より基礎運動能力の強化の度合いが強くなった。

 



 そしてさらにその翌日、防御魔術の授業が始まった。

 魔力を使って直接身体を強化するのはもうちょっと強化魔術に慣れてからだそうだ。


「防御の魔術ですが、私としてはこれが全ての魔術の中で最も大切だと考えています」


 授業開始早々、そんな英語の教科書の例文みたいな言われ方をされてしまった。

 多分、言うことを前もって考えていたせいだろう。用意していた文章を読むと、必要以上に固くなるってやつだ。


「防御のための魔術は、有利属性の魔術で相殺するか、防御障壁を張って防ぐかになります」


 防御障壁とな!

 そんなものがあるのか。


「相殺は何度かやったから分かりますね。シシリー様は覚えていらっしゃいますか?」


「はいっ。ファイアボールを打たれたらウォーターアローを当てて消します」


「そうですね。ただ、ファイアボールの火力が強すぎると、逆に水が負けちゃうので気をつけましょう」


「はーい」


「そして防御障壁ですが、これは術として存在するので詠唱をします。いつも通り私が見本を見せますので、よく観察していて下さいね」


 フローラは両手を前に突き出し、詠唱を開始した。


「其れは全てを拒否し全てを拒絶する、断絶の壁。絶対防壁アブソリュート・ゼロ


 詠唱が終了すると、両手から半透明の白い壁が広がり始めた。やがてそれはフローラをすっぽり隠すほどの大きさになった。


「これが防御障壁を張る魔術、アブソリュート・ゼロよ」


 防御魔法なのに、名前が超カッコイイ。


「これは込める魔力によって強度や形が変化します。今回は結構堅めに張りましたけど……ソール魔術で攻撃してみて。あ、部屋が壊れるといけないから中級は駄目よ」


「はい、分かりました」


「シシリー様は見ていて下さいね」


「はいっ」


 良い返事である。

 よし、とりあえず言われた通り初級魔術を放ってみよう。

 分かりやすくファイアボールでいっか。


「其は創造の源にして、破壊の担い手。火球ファイアボール!」


 僕の手から火の玉が生み出され、そしてフローラ目掛けて射出された。

 初級魔術とはいっても、プロ野球の選手が投げる球ぐらいに速度はあるし、しかもそれが燃えているんだから、当たると相当に痛い。って言うか痛いじゃすまない。当たりどころがよくても重症だ。


 そんな火球は防御障壁に当たると、一瞬燃えて消えた。

 まぁ普通のファイアボールが当たった時と同じ反応だ。

 そしてもちろんフローラは無事だった。防御障壁もいまだ健在だ。


「ほっ」


 大丈夫とは思ってたけど、実は内心ドキドキしていたので、フローラが無事で安心した。

 いや、誰だって母親に火の玉をぶつけるんだから大丈夫と分かっていても不安になるよね? 僕がことさら小心者だとかマザコンだからというわけではないはずだ。


 フローラがかざしていた手を下ろすと防御障壁も消え去った。


「いま見てもらったように、防御障壁は文字通り壁となり術者を護ります。これは魔術師同士の戦いでは絶対に必要になりますし、剣士が相手でもあるのとないのでは雲泥の差があります。応用すれば自分や周囲を覆うように半球状に展開できますし、熟練すれば身体の形にそって発生させることも可能です」


 それはもう考えるまでもなく、重要な魔術だった。


 ファイアボールなどの初級魔術なら避けれないことはないけど、中級以上だと効果範囲も広いので、避けようと思うと結構な距離を移動しないといけない。具体的に火系中級魔術ファイアトルネードは効果範囲が最低でも20mはあるので、避けるために一瞬で半径分10mは移動しないといけないのだ。これは結構というか、かなり厳しい。

 ここで防御障壁を自分を覆うように展開すれば動かずして回避できるというわけだ。


 うん、素晴らしい。

 特に、自分だけじゃなくて一緒にいる人も同時に守れるのが素晴らしい。


「他の魔術は詠唱ありで覚えてもらっていますが、これに関しては咄嗟に張れるように詠唱なしで習得してもらいます」


 確かに、攻撃と違い防御は詠唱の暇がないままに必要になる場面はあるだろう。いくらでも想像できる。

 無詠唱、大賛成だ。


「最低でも咄嗟に自分の体くらいの大きさの壁を発生させられるくらいにはなってもらいます」


 フローラがパッと自分の体分の大きさの盾状の防御障壁を発生させた。

 おお、本当に一瞬で出た。


「あと、覚えておいて欲しいのは、防御障壁の利点や重要性は先ほど挙げた通りですが、これは決して絶対ではありません。より強い魔力での攻撃には破られますし、中には対防御障壁用の武器や魔術があると聞きます。決して過信はしないで下さい」


「分かりました」


 そうだよね。

 絶対破れないのなら誰だってこればかりを極めるし、攻撃用の魔術なんて意味をなさなくなる。大事なのは使い所。

 そして例によって、説明が難しかった為に理解し切れなかったシシリーがフローラに噛み砕いて教えられている。

 その間、僕もいつも通り魔力操作の練習をして待つことにした。




 身体強化魔術や防御障壁、そして模擬戦など新しい訓練を開始してから数日、シシリーが5歳になった事を祝うパーティの日がやってきた。

 この日のことをきっと僕は一生忘れないと思う。

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