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7話 はじめての模擬戦

 午前の魔術の授業が終わり、午後の剣術の授業までの間の休憩時間。

 僕とシシリーは大体おやつを食べながらお喋りをして過ごしている。

 今日も例に漏れず、サロンでおかしを食べながら今日の魔術の授業の感想を言い合っていた。




「フローラ先生はキレイで強くてやさしくて。どうやったらあんなにすてきなレディになれるのかな」


 シシリーがうっとりした目でそんな事を言ってきた。

 とは言ってもこれは毎度のことなので、いまさら気になりはしないけども。

 シシリーはどうやらウチの母様が大好きなようで、めちゃめちゃ懐いている。


 まぁでも確かに彼女の言う通り、フローラは美人で優しくて強くてというパーフェクトレディだ。欠点といえば昔やんちゃをしていた事くらいである。

 そんなだからシシリーでなくとも憧れるのは無理からぬ事だ。ウチの母様は世界一だからな。


「シシリーも努力すればきっと素敵なレディになれるよ」


 これもいつも通りの返しだ。そしてこれに対する返事も決まっている。

 今のうちに言っておくと、呼び捨てとタメ口はシシリーから言われたもので、不敬ではない。


「そうよね。きっと、ううん、ぜったいなってみせるわ」


 ぐっと握りこぶしをして決意を固める。

 これもいつも通りだ。


「えっと、ソールもやっぱりお嫁さんにするならフローラ先生みたいな女性がいいよね?」


「へ?」


 あれ? これはいつも通りじゃないぞ。


「どうなの?」


 予定外のことに戸惑って返事ができない僕をシシリーが上目遣いで見てくる。

 頬はほんのり赤くなっていて、それはもう殺人的な可愛さだった。

 僕はロリコンでは決して、決して無いけれど、これにはドキッとせざるを得なかった。


「えぇと」


 こういう時はなんて返すのが正解なんだろう?

 彼女いない歴=年齢のまま死んでしまった僕には見当もつかない。

 いや待て、相手は5歳児だ。適当にはぐらかせばいいんじゃないか。

 って、はぐらかすってどうやるんだ!?

 それすらも思いつかない!

 シシリーはいまも僕の答えを待っている。

 とりあえずなにか答えないと!


「う、うん。母様みたいな人がいいな」


 結局無難な答えが口から出た。


「だよね。うん、がんばる」


 シシリーは何か決意を改たにしたようで怒ったりはしていない。

 一応、選んだ答えは間違いではなかったようだ。正解でもないかもしれないけど。

 にしても、なんでシシリーはいきなりこんな事を聞いてきたんだ?


「そうだ。今度のパーティにソールも来るんでしょう?」


「え?」


 急な話題の転換に、またも思考がついていかなかった。

 本日2回目である。

 僕、5歳児相手に会話で虚をつかれるってどうなんだ?


「あ、うん。シシリーの5歳の誕生パーティだよね? 行かせてもらうよ」


「うん、ぜったいだよ」


「う、うん」


「やくそく」


 シシリーは真剣な目付きでじっと見てくる。


「や、約束するよ」


 思わずそう答えてしまっていた。

 別に断るつもりはないし、ほぼ確実に行くとは思うんだけど。今のは約束させられたって感じだったな。

 5歳児相手に気圧されるって、どうなんだ?




 やがて休憩時間が終わり、剣術の訓練の時間が来た。

 僕らは自分用の木剣を持って、庭の隅にある訓練場へと向かった。

 なお、この時ヴォーデンより遅く着くと訓練用鉄剣(重さ5kg)で素振りをさせられる。

 1回やらかしたけど、その日どころか次の日も腕が上がらなくなってしまったのだった。


 今日もバッチリ先に到着して、ヴォーデンを待った。

 簡単に身体をほぐしながら、シシリーと型を確認しながら待つこと数分、ヴォーデンがいつも通り大声を上げながらやってきた。


「よぉし、揃っておるな! 今日も剣術の訓練を始めるぞい!」


「「宜しくお願いします!」」


「うむ、元気よい返事じゃ!」


 がっはっはーと高らかに笑うヴォーデンおじいちゃん。

 いやいや、貴方の元気には負けますよ。


「昨日は素振りじゃったから、今日は型の練習じゃな」


 素振りと型を交互にやるのは訓練開始時から変わってない。

 ただし、素振りの量は1200回まで増えてる。そして型の練習も、型から逸脱しない中で剣を合わせるようにもなった。たまに型を間違えたことで受け損じて怪我をすることもあったけど。


「と、言いたいところじゃが、今日からは違う練習も加えるでな」


 おお、ついに新しい訓練が!

 正直、同じことの繰り返しでちょっと飽きが来ていたんだよね。


「今日からは模擬戦も始める」


「おおー」


 僕同様ちょっと飽きてたのか、シシリーが目をキラキラとさせている。

 そりゃ幼児に同じ練習を毎日とか辛いよね。僕の幼少時代なら絶対投げてる。

 そう考えるとシシリーの根気って凄いな。


「模擬戦では変わらず木剣を使うんじゃが、それでも怪我はするでの。簡単な防具を付けてもらうぞ。ほれ」


 ヴォーデンが渡してきた防具は革製で、頭や首や胸、それに股間など急所だけを守るようになっているものだった。


「早速着けるんじゃ。まずはそれを来て型の練習じゃ」


 言われるがままに防具を装備する。


 武器や防具は装備しないと意味が無いぞ。


 革製で軽いとはいっても、やはり何も着ていない状態からすると動きにくさを感じる。

 同時に守られてるという安心感もある。

 革製とはいえ、初の防具にちょっとテンションが上がる。

 シシリーもちょっと嬉しそうだ。

 こういうのは女の子は嫌がるかと思ったけど、そもそもシシリーは自分から剣の訓練がしたいと言ってきたような子だし、こういうのも大丈夫なんだな。


「うむ、2人共よく似合っておるぞ。それでは型の練習始めじゃ!」


 号令のままに、決まった順で剣の型を取っていく。

 うーん、やっぱり動きにくい。

 でも、将来金属製の鎧を着るとこんなもんじゃ済まないんだろうな。

 うん、こんなことで弱音吐いてられないな。

 僕は人を守ることが出来るだけの力を付けないと行けないんだから。


「せぇいっ!」


「おぉ、ソールはやけに気合が入っておるのう!」


「てや!」


 僕の掛け声に触発されてか、シシリーも大きな声を出した。


「うむ、よいぞよいぞ」


 おかげでヴォーデンがやたらとご機嫌になった。

 防具を着けての稽古が続き、動きにくさにもある程度慣れた頃、


「よし! では模擬戦を始める!」


 ついに模擬戦の時間になった。


「両者、距離をとって相対せよ」


 大体1mくらいの距離を空けてお互いへと向いた。


「これはあくまで模擬戦じゃ。実戦とは違う。相手が倒れたり、まともに剣が当たったりした場合はそこまでで試合を終えること。また、儂が止めるように言ったら、すぐさま動きを止めること。相手の目や首は狙わないこと。それから……」


 ヴォーデンが危険であるだろう行為を次々挙げていく。シシリーは真剣な目でそれを聞いていたし、僕も必要以上にシシリーを痛めつけたくはないので、しっかりと聞いていた。

 魔術を含めると僕が圧倒的に有利なんだけど、体力に関してはほぼ互角だ。

 腕力も敏捷性も反射神経も、訓練ではほぼ互角だ。強いて差を挙げるなら、僕のほうが少しだけ腕力があって、シシリーのほうが僅かに俊敏ってくらいだ。

 でもやっぱり20歳の中身としては5歳の女の子に負ける訳にはいかない。

 それにシシリーだって僕が守りたい対象だ。守るべき女の子に勝てないでどうする!


「おおしっ!」


 気合は十分入った。

 絶対に勝つ!


「ではお互いに礼。始め!」


 始めの合図と共に剣を構える。

 相手までの距離は1m。子どもの身体とはいえ、一足で詰められる距離だ。

 腕力では僕に分がある。ならば、


「せぇぇえい!」


 先手必勝。僕は真っ直ぐにシシリーへと向かった。

 シシリーは一瞬戸惑うような素振りを見せたが、すぐに立て直して僕を迎えうった。


「やぁぁあ!」


「はぁぁあ!」


 上段からの振り下ろしをシシリーが横へと弾く。


「なっ」


 僕の剣は体ごと横へと軌道を逸らされ、思いっきり体勢を崩した。

 好機とばかりにシシリーが僕の胴体めがけて斬り上げてきた。

 それをなんとか剣で受けてしのぐ。

 体勢を崩した勢いを利用したまま前へと進み、シシリーとの距離をとった。

 今度は2mくらいの間を空けての対峙となった。


(力押しで行けるかと思ったけど甘かった。シシリーが一生懸命訓練しているのを間近で見ていたのに、所詮子どもだと舐めてた)


 まさか全力で打ち込んだ初撃をあんな上手く逸らされるなんて。

 しかも一本取られるところだった。防げたのは運が良かったとしか言い様がない。次は防げるか分からない。

 まず落ち着いて、油断なく行こう。


「すー、はー」


 深呼吸をして気持ちを鎮める。

 よし、落ち着いた。


 とりあえずフェイントもなしに馬鹿正直に突っ込むのは危険だ。

 それに一撃で決めようとするのも危険だ。

 いくつかの手数の中に本命を混ぜる。そんな感じで行こう。

 色々考えているこの間にシシリーは攻めてこない。

 それは多分、習った型を使いたいからだと思う。

 ヴォーデンの教える型はなんとなく守りやカウンターのものが多い。

 さっきのもその中の一つだ。

 なら、型を崩すところからだ。


「せあ!」


 考えをまとめた僕はもう一度上段から攻める。

 シシリーはさっきと同じように迎撃の体勢を取るが、僕は直前で構えを中段に変えて胴を薙ぎにいった。


「くぅ」


 シシリーは慌ててそれを防ぐが、やや体勢が崩れた。

 僕は間髪入れず右から左から上から下から連続で攻撃を放つ。

 それのどれもが防がれるが、1回毎に目に見えて体勢が崩れていく。

 何度目かの剣戟でついに剣が大きく弾かれた。

 シシリーの剣は右手と共に身体を思いっきり後方に捻った先にある。そこから切り返しても防御には間に合わない。

 僕は容赦なくがら空きの胴の左を狙った。


 やった!


 そう思った時、何故か僕の視界の端に、僕のではない木剣が映った。


「え?」


 すでに振られていた僕の剣はその木剣に当たって弾かれた。

 なにが?

 そう思いつつも、依然として体勢が崩れていたシシリーの胴をもう一度狙い、今度はちゃんと脇腹に当たった。


「それまで!」


 そしてヴォーデンの合図で試合は終わった。

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