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彼には意味が分からなかった。唐突に人が現れたり武器に変わったり。アニメの世界かよと突っ込みたくなる。だが、剣護には考えをまとめる余裕すらも与えられない。
「どわっ!」
男が、巨大な剣を剣護に向かって振り下ろしたのだ。しかも片手で。男との距離はそれなりに開いていたために攻撃は当たらなかった――もしかしたら威嚇のつもりだったのかもしれない――が、剣護を萎縮させるには充分すぎる一撃だった。
動物の全てが持っているであろう、防衛本能。それが剣護の中で警鐘を鳴らす。あの男は危険だと。
「それでは、彼と戦い、勝利してください」
剣護をこの世界へと連れてきた張本人が、さも簡単そうに口を開いた。だがその一言で、はいそうですか、と言える剣護ではない。
「……はっ!? あんな、人類として明らかに差があるアイツに!?」
身の丈大ほどある大剣を片手で軽々扱う男に指差す。あんな光景を端から見ていれば、確かに男は人間とは呼べなかった。
二人が軽い口論をしている間に、男が走り始め、手に持っている分厚い板の如き大剣を剣護に向けて振り回した。
なんとか避けるも、地を深く抉るその威力に剣護は恐怖した。そのまま背を向け、全力で走る。逃げろ、あれには勝てない。逃げるしかない。
相手も全力で追いかけて来る、そのプレッシャーは計り知れない。だがスピードに差があるのか、みるみるうちに距離を離していく。このまま、逃げ続ければ良い。いつもみたいに……。
「このまま逃げ続けても、あなたの願いは叶わないままですよ?」
そんなショウの言葉に、剣護は足を止める。逃げろ、逃げないと殺される。目を瞑り、気持ちを落ち着かせる。幾らか余裕ができ、思考を始める。
ここが夢なのかそれとも別の何かなのか、彼は未だに判別できていない。
――それでも。手に持つ刀を見つめる。逃げることをやめるには、自分の願いを叶えるには良いタイミングだろう、と。
「おら、喰らいなっ!」
近付いてきた男は、再び剣護に向けて大剣を振るう。油断しているのか、彼も戦い慣れていないからなのか、かなりの大振りの攻撃だった。その攻撃が届く前に、小さくステップを踏むかのように、懐へと飛び込んだ。剣護の心中に、先程のような恐怖はなかった。あるのは、自分の夢を叶えるために、全力を持って立ち向かう為に振り絞られた勇気だけだった。
「うぉぉおおおおおっ!!」
「ぐぁぁぁぁっ!?」
腹部に刃を立て、そのまま体重を掛けて深く突き刺していく。剣護は、ただ必死だった。気付けば、男の脇腹辺りを貫通し、穴を開けていた。
鮮血が飛び散り、男の体から血液が滴り、漆黒の刃が赤く染まる。剣護も返り血を受け、生暖かい体液の感触に、人を刺したことが実感として伝わった。