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名前は外国語――明確に表記するならドイツ語であるのだが、それほど頭の良くない剣護は、外国人の名前なのだと勝手に理解した。顔立ちがどう見てもアジア人なのだが、彼はそれすらも理解出来ない様子。そして彼は、そこではないあることに気が付く。
「え、ご主人様っ?」
日本、おそらく世界中の男達……もしかしたら女性でさえ、言われたいかもしれない呼び方で、初対面の人間に接している。剣護は動揺している。さっきから反応が似たり寄ったりである。
少女は戸惑うこと無く、無表情でジッと剣護を見つめている。その隣で、ショウがぺらぺらとページをめくりながら唸る。
「ふむ……。貴方の趣味は、少し子供っぽさを持つ同い年ほどの女の子。体つきも平均と同程度から少なめ、髪型は短め、性格は落ち着きがあり……」
「ちょっとちょっとっ! いいから、そんな情報はいいから!」
唐突の女性趣味暴露に、剣護も声を荒らげて止めに入る。ショウはクスクス笑いながらメモ帳を閉じた。
そんなやり取りを見ても、少女は全く表情を崩さない。というより、若干呆れているようにも見えるか。
「さて、そろそろですかね……」
「え?」
ちらり、ショウが視線を動かす。それにつられて二人も同様に視線を向ける。
そこにいたのは、ガタイの良い男。服の上から見て分かる程度には筋肉が付いている。だが決して、ボディビルダーのようなガッチリした身体というほどではない。その隣にはスタイルの良い女性。体をくねらせる度、長いピンク色の髪が靡く。男は少し不機嫌そうにしているが、女性は対照的にとても楽しそうにしている。
「ちっ、遅いんだよ説明がよぉ……!」
「早く済ませちゃおうかっ!」
テンションの高い女の頭に、男が手を乗せる。瞬間、メモ帳の放ったものと同じほどのまばゆい光が辺りを包んだ。
改めて見ると、女の姿はそこにはなく、代わりに男の右手には、身の丈以上の巨大な剣が握られていた。
「細かい説明はまた後にしましょう。とりあえず彼女に触れてください。どこでも構いませんよ? 胸でも太腿でも……」
「だぁぁっ! わざわざ俺の趣味を混ぜるなっての!」
更に趣味を暴露され、顔を真っ赤にして声を荒げる剣護。暴露した当の本人はまたクスクス笑っている。
そのままシュベルトの前に立ち、少し屈んでから手を伸ばした。
「えっと……、状況が全く分かんないし、どうすればいいかも分かんないままだけど、よ、よろしくな?」
「……はい」
少女の手が、ゆるりと剣護の手を取った。すると光が辺りを包み、気が付くとシュベルトの姿は消えていて、代わりに細身の長刀が握られていた。少女は、一点の曇りもない、綺麗な漆黒の刃へと姿を変えた。