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約束の日、剣護は来ていなかった。理由は分からないが、十分程前に入ってきた連絡で、少し遅くなります。との連絡が来たので、秀彦はさほど焦ってはいなかった。
彼の目の前には、三日前に出会った真治ともう一人、謎の男がいた。背が高いため、自分よりもガタイが良く見える。
「遅れる……ですか。今頃どう逃げるか考えてるんじゃないですか?」
「さあ、それは無いと思うよ?」
秀彦は首を横に振って否定する。剣護がそんな行動に出るはずがないのは分かっていた。付き合いは短いが、確かなことだった。
既にこの場にはショウも居て、後は彼を待つばかりだった。しかし、真治は退屈になったのか、溜息を漏らした。
「今のうちに、第一回戦をしておきましょうか。ショウさん、この二人をバトルフィールドへ」
「かしこまりました」
ショウが頷き、呪文を読んでからフィールドが変化する。何度も見てきた、いつも通りになりつつある流れに、秀彦はなんとなく慣れてしまった。場所は、草花の生えた草原。今までのような陰気臭い場所とは、どこか一風変わっているような気がした。
――そよ風が吹いた。眼前に立っているのは、少年と一緒に居たもう一人の男の方。
「俺の名前は滝山龍地、よろしくな」
肉付きは勿論、彼の身体は秀彦の肉体を上回るガタイの良さだった。龍地の左腕には、秀彦と同じような、けれども若干強度に欠ける鎧が装着されていた。が、特筆すべき点はそこではない。
真ん中がドーム状に膨らんでいる、肘の位置より少し上まで包む程度の大きさ――バックラーと呼ばれる種類に近いか――のシールドが取り付けられている。その強度が如何程の物か。
「ここは、一気に叩く」
「……りょーかい」
マホは秀彦の発言に一瞬戸惑った。彼は普段、そんなことを言うようなタイプの人間ではない。叩く、ということはつまり、間接的とはいえ『殺す』ことと同義なのだ。それでも、何となく秀彦の気持ちを察したマホは頷き、彼の手を握った。
両の前腕に、ガントレットが装着される。
「なるほど、そういうタイプか……俺と似てるなっ」
龍地が笑っているが、秀彦はそれに構わず突っ込み、腕を振りかぶる。
右腕の一撃が、シールドに叩き込まれる。だが、龍地はまったく動じない。むしろ、驚いていたのは秀彦の方だった。力で押し切れると思っていたのだろう。
「これは確かに、少し苦戦しそうだ」
秀彦は笑った。これまでの敵とは違う強さ。それが何故か嬉しくも感じた。




