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まったく手を付けていない、昨日の夕ご飯と今日の朝ご飯を、ゴミ箱へ捨てる。いつもなら、凄く美味しそうな表情を浮かべながら食べてくれていたのに、彼は拒否した。もう、どうしようもないのかもしれない。ミヅキが溜息を漏らした時、玄関からチャイムの音が響いた。それは一度では終わらず、繰り返し響く。
「はい……」
出まいとも思ったが、何度も鳴らされては迷惑なので、ミヅキは渋々と玄関に向かい、ドアを開けた。
「どうも、こんにちは」
大人の男性だった。背丈も高く、ガッシリとした体型。ミヅキにそんな知り合いは居るはずもなく。警戒を始める。だが、それは遅かったということに気がついた。
彼の手首に見えるのは、剣護達に付けられているバングルと酷似……いや、まったく同じ物だった。
「ちょっと、入らせてもらうよ」
男は笑みを浮かべ、家に侵入しようとする。ミヅキは咄嗟にそれを阻止しようと、相手を突き飛ばした。男は少し驚くように一歩二歩と後ずさりする。
「誰か知りませんが、帰って下さい」
扉を閉めようとする。だが相手も引き下がるわけにはいかない理由があるのか、ドアの隙間に足を入れ、閉めるのを阻止する。そして、手を使い、強引に少しずつ開けていく。ミヅキはなんとしても相手を家に上がらせるわけにはいかなかった。全力で抵抗し、何とかドアを閉めようとするも、力で大の大人に勝てるわけがない、
それでも、彼女は負けるわけにはいかなかった。
「帰って……! か、えれ……っ! 入って来るなぁっ!!」
「悪いね……俺にも、用事があるんだ!」
悲痛な叫び。だが男はそれに屈することなく、扉を開けて家の中に侵入していく。ムリヤリ入ってきたクセに、きちんと靴を脱ぐ様子は、どこか滑稽だった。
「お願い、します……。あの人には、剣護さんにだけは手を出さないでください。お願いします……っ」
涙を流し、少女は許しを請う様に頭を下げた。彼の為になるのなら。ここで自分が乱暴されようが何をされようが良い。彼を失うくらいならと、ミヅキはそう思った。
しかし相手はどうしたのか、動揺を見せ始める。
「あの、えっと……た、確かに、押し入って入ったことは謝るけど、何も泣かなくても……。
それに、俺は別に君らをどうこうするために来たわけじゃないんだよ」
「…………へ?」
ミヅキは泣きながら、予想だにしていなかった相手の発言に、素っ頓狂な声をあげ、首を傾げた。男は一つ咳払いをすると、自分の胸元をドン、と叩き、笑った。
「俺は大石一馬、天城剣護の担任教師をしてる。よろしくな」




