6
家まで辿り着いた二人。だが、剣護は帰って早々に部屋に入ると、そのまま閉じこもってしまった。声を掛けようとしたが、彼女はこんな時、どう接すれば良いか分からなかった。彼のような人間に、彼女は会ったことがないのだ。
時計を見つめる。六時、もう夕ご飯の時間となっていた。とりあえず、手早く作っていく。さすがにこんなムードの中で、手の込んだ料理を作る気にはなれない。食欲もあまり無いが、ムリにでも食べないといけないだろう。
「剣護さん……」
ミヅキは彼の部屋の前に立つと、コンコンコン、とノックをした。だが返事がない。仕方なく、許可なしにドアを開けた。
……部屋は明かりも付けずに真っ暗。肝心の彼の姿が見えず、部屋の中に足を踏み入れる。
「…………………………」
居た。ベッドの隅っこで、小さく縮こまっていた。その様子は、何かに怯えているようだった。なにに? それは、今の彼女には分かるはずもない。
「あの、これ……」
音を立てないように、静かに彼の前に食事を差し出した。だが、彼は一瞥するだけで、手をつけるどころか、その場から一歩も動こうとはしなかった。
どうすれば良いのだろう。ミヅキは部屋を後にして、リビングに戻り椅子に座ると、一人考え込んだ。今の自分に何が出来るのか。決して良いとは言えない頭を、フル回転させる。考え、考えた。だが、そんなに早く思いつくはずもなく……。
――そうして、貴重な一日目は驚くほどあっという間に過ぎてしまった。
次の日、朝御飯を作ってからミヅキが部屋を覗くと、彼は昨日とまったく同じ場所で、ずっと縮こまっていた。一歩も動いていない。それどころか、寝てすらいないのだろう。
ミヅキは焦った。彼は今、悩んで傷付いて、苦しんでいる。だが、自分には何も出来ない。食事を持って行っても、彼は昨日と同じように、少し反応するだけで、手を伸ばすことさえしなかった。
「………………」
自身の無力さに、腹が立つ。彼は今までずっと、無愛想で弱い自分に話し掛けたり、これまでの敵に全て勝利してきた。
彼は強かった。だから、最初に抱いていた弱いというイメージをどこかへ捨てて、ただ彼に何も出来ず、何もせず、今まで頼りきっていた。何度もあったはずなのに。彼がツラく、苦しそうな時は、最初からずっとあったのに。




