3
「どうも、はじめまして」
彼の右手には銀色の鋭く伸びた武器がある。刺突用の片手剣、レイピアと呼ばれる物だ。
「まさか辺りをテキトーにぶらついているだけで会えるなんて、凄いですね?」
少年はヘラヘラと笑う。おもむろに剣護はミヅキの肩に手を乗せる。彼女の姿は一瞬にして漆黒の剣に姿を変え、そのままゆっくり敵へにじり寄っていく。
「おや、貴方も剣ですか。これはますます、運命を感じてしまいますね」
「……なにが目的だ」
剣を両手を使い、前傾姿勢を取って構える。いつでも前方へ飛び出せるようにするためだ。相手は臨戦態勢の剣護を見て、鼻で笑った。
「この戦いは最後の一人になるまで終わらないんですよ? 今更目的も何も……ないでしょう!」
ゆらり、少年は体を揺らしながらレイピアの刀身を剣護に向けて構えると、一瞬の内に間合いを詰め、刺突を開始した。
「うぉっ!?」
ヒュン、という風切音と共にキンッ、と金属音が響く。剣護がすんでのところではじき返したのだ。
だが、一度の攻撃で終わるはずがない。二発、三発四発と、次々と繰り出される攻撃を、ギリギリで剣護が避けていく。形勢は始めから、剣護が圧倒的不利だった。そんな彼の心情を知ってか知らずか、少年の攻撃の手は全く緩まない。
「何とか距離を……!」
「取らせると思いましたか?」
一歩、後ろに跳ぶ彼の動きに合わせ少年が一気に間合いを詰め、攻撃を繰り出す。着地する瞬間の不安定な位置での一撃は、剣護の脇腹を貫いた。
「ぐっ、あぁぁぁっ!!?」
叫び声にも似た悲鳴。彼が今まで敵から受けた攻撃は、全てかすり傷だった。だが、今回の一撃は、ワケが違った。
叫び、動きが止まる。あまりの痛みにパニックになる、涙が溢れ出そうになる。足が震え、今すぐこの場で膝を付きそうになる。少年は笑みを浮かべながら、ゆっくりと刀身を引き抜いていく。
ずる、ずるり……、永遠に続くのではないかと思われるほどの痛みが、剣護を襲い続ける。レイピアは超細身の剣であり、その一撃の攻撃力は、他の武器に比べ決して高いわけではない。しかし、身体を刃物で貫かれる。その感覚が、痛くないワケがない。
――俺は、こんな痛みを何度も……何も知らない相手に与えてきたのか。
ようやく刀身が引き抜かれると、剣護は糸の切れた人形のようにその場に座り込んだ。痛みはまだ続いている。小さく不自然に空けられたその穴から、少しずつ血が流れ出ていき、服を赤く染めていった。




