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「そう、なんでしょうか……?」
ミヅキはなんとか平静を装いながら、首を傾げた。彼女の態度を不思議に思ったのか、それともその発言に呆れたのか、マホは盛大に溜息を漏らす。
「別にあんたの恋なんてどうでもいいけどさ……、答えを用意してないと、相手が可哀想よ?」
彼女の言う相手とは、剣護のことだろう。ミヅキの頭の中で、色々な可能性がぐるぐる回る。彼は、実は自分のことを好きだったとか、好きは好きでも、家族や友達に向けるような感覚に近いものなのかとか。
――じゃあ、私は?
ミヅキ自身は、彼のことをどう思っているのだろうか? 主従関係? 家族? それとも、本当に恋人のような……。
ひとしきりマホと話し終えると、ミヅキは御礼を言って、家を後にした。頭の中は今でも、彼のことで埋め尽くされている。
家を出てすぐ、少し離れたところで、車椅子に座っている少年を見つけた。剣護より見た目が幼く見える。その存在が何故か、妙に気になった。
「え……っ」
自分の手首が光っている。正確に言えば、手首に付いているバングルが警報を鳴らしていた。ここは危険だと。だが、全てはもう遅かった。
少年は車椅子から立ち上がると、ミヅキを見て不気味な笑みを浮かべた。
「なんなんだよ、一体……」
剣護は意味がわからないまま、秀彦の家に向かっていた。少し前に彼のパートナーであるマホから連絡が入り、「もうすぐミヅキがそっちに帰るから、迎えに来なさい」と言われたのだ。何故俺が、と反論しようとしたが、ごちゃごちゃうるさいと一蹴された。その為に彼は今、タクシーで家の近くまでやってきたというわけである。
「……あれ」
手に付けているバングルが光っている。剣護は首を傾げた。剣護と秀彦の間では、こうして知らせることの無いように設定しているはずなのだが……。そして彼は、その理由を一瞬で理解する。
秀彦の家の傍で、戦闘が行われていた。
「ミヅキ!?」
声を荒らげ、叫ぶ。だが、彼女は彼の方を見向きもしない。いや、その余裕が無かったのだろう。彼女の表情が歪んでいる。攻撃を受けた形跡はなさそうだ。しかし、それでも彼女を圧倒する強さを、相手が持っているのかもしれない。
走り、急いでミヅキの傍に駆け寄る。
「大丈夫か、ミヅキ!」
「は、はい……なんとか」
隣まで来て、ようやく剣護が来たことを認識できたのか、頷いてみせる。だが視線は、相手の方を向いたままだ。
ミヅキの視線の先を見る。少年だった。前に戦った薫に比べると、多少は大人びて見えるものの、剣護と同じか、下くらいの年齢であるように見えた。




