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彼らがこの世界に来てから、実に二週間ほどが経過していた。剣護は薫と戦ってから約一週間、誰とも戦わない日常を送っていた。戦いを望まない者が剣護以外にいるのか、単純に人が少なくなってきたのか……。ともかく、今の彼の生活は平和そのものだった。
「このまま何事も起こらなければいいんだけど……」
一人だけのリビングで、そんなことを呟いた。ムリだと分かっていても、言いたくなってしまう。
現在、ミヅキは相談したいことがあるということで、今井秀彦の家に行ってしまった。誰も居ないのに、これ見よがしに溜息を漏らす。
「俺に相談できないことなのかよ……」
そんな言葉が、なぜか漏れてしまう。短い時間ではあるものの、二人はそれなりの仲であることは間違いない。にも関わらず、彼女は剣護ではなく、その友達である秀彦に相談しようとしている。良い気分にはならないだろう。
「そういえば……俺とミヅキの関係ってなんなんだろ?」
二人の関係……ふと気になってしまう。気になってしまったからには、答えを出したくなってしまう。
最初はただの主従関係だった。これは間違いない。だが今は? そう問われると、なんと答えれば良いのか迷ってしまう。
今も主従関係? それとも友達? まさか恋人というわけでは無いだろう。なんであれ、彼女の意見を聞かなければ、どうしようもないことだ。
「なーに考えてんだろ、俺……」
頬杖をついて、溜め息混じりに呟く。最近戦いが無いから、腑抜けているのだろうか? 戦いの全てが終わったわけではないのに。しかし、人間やることが無いと、どうでもいいことを考えてしまうものだ。仕方ないことなのかもしれない。
時刻は昼過ぎ、まだ昼食を取っていなかった剣護はおもむろに立ち上がり、カップ麺にお湯を注ぐ。
……彼女のいない一人だけの食卓は、少し寂しげな空気が漂っていた。
「……で、どうしたの?」
秀彦の家では今、ミヅキとマホの二人だけしかいなかった。秀彦はこの世界でも、休みの日以外は欠かさず学校に行くようにしているとのこと。こんなとこまで来て、バカみたい。とはマホの意見。
しかし、今のミヅキにとって、そちらの方が都合が良かった。元々、用事があるのはマホに、なのだから。今回の話ばかりは、幾らパートナーである剣護でもムリだった。というよりは、彼のことについての話なのだから、さすがに本人に相談することは出来ない。
ミヅキは話しにくそうにしながらも、ようやく小さな口を開いた。
「最近、妙にあの人……、剣護さんのことが気になるんです。なんというか、最初に会った時からもそうだったんですが、ここ数日は特に酷いと言いますか……」
言いながら、胸元をギュッと握り、服にシワを作る。身体の奥底が熱くなるような、でもなんとなく心地良いような、不思議な感覚。
彼女の態度を見て、言葉を聞いたマホはニヤリと笑った。
「それってさ……恋、なんじゃない?」
恋。こい――コイ? ミヅキは何も考えられなくなり、思考停止していまいそうになった。




