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そこが夢なのか現実なのか、判別が付く者はいないだろう。それでも少年はそこにいた。
目を開けた先に広がっていた光景は、夕暮れの荒野。何もない、地面と空だけの寂しげな空間。いつの間にか少年は一人立っていた。
「あ、あれ?」
首を傾げる。現状を全く理解できないのだろう。他に誰かいないかと、きょろきょろ辺りを見回す。
「おや、ようやくおいでですか?」
いた。目元が完全に隠れるほどに前髪を伸ばしている少年が、すぐ傍に。そんなに伸ばして不便ではないだろうかとも思うが、他人のセンスに口出しをしないのが彼の流儀だ。
「おっと、名乗るのが先でしたね。私の名前はショウ。貴方は?」
「え、いや、俺は……剣護だよ。天城剣護」
ショウと名乗る謎の少年にリズムを狂わされ、つい名乗ってしまう剣護。それより、聞きたいことは山ほどあった。この世界はなんなのかとか、そんなところ。だがショウは、そんなこともお構いなしだった。
「ほう、剣護さんですか。いいお名前ですね」
そう言いながら、ショウはパーカーの内ポケットに入れていたメモ帳を取り出し、ページをめくり始めた。せわしなく視線を動かし、とあるページで指をぴたりと止め、視線を剣護へ向けて、頭を下げた。
「おめでとうございます。貴方は幸せへの挑戦権を手に入れました」
「は?」
突然の宣言に首を傾げる。剣護はここに来てから首を傾げまくりだ。
それに対してショウは、口元をニヤリと緩めている。目は髪の毛で隠れて見えない。
「貴方の願いは、大切な存在の獲得……そうでしょう? それを叶えて差し上げましょう」
剣護は絶句してしまう。見ず知らずの少年が、誰にも話したことのない自分の願望を知っているのだ。無理もない。
ショウはメモ帳を開いたまま、ぶつぶつと呟き始めた。何を言っているのか、剣護には聞こえない。聞いたところで、理解も出来ないだろう。それは誰にも分からない謎の言語だからだ。
やがてメモ帳は光を放ち、辺りを包み込んでしまった。あまりの閃光に剣護は思わず目を瞑ってしまうが、それも一瞬で終わる。
「さぁ、どうぞ。それが貴方の望んだ願いの形です」
「え……えっ?」
剣護はゆっくり目を開ける。そして硬直。目の前にある光景が信じられないのだろう。
先ほどまで荒野しか無く、二人以外には誰も居なかったこの世界に、少女が現れたのだ。彼女の足元には、マンガでよく見る、丸の中に描かれた綺麗な星。魔法陣と呼ぶべきその中に座っている。
年は剣護と同じほど――少し下ほどにも見える。短めに切られた真っ黒な髪。整った……いや、かなり綺麗な顔立ち。外見から判断出来るのはそれだけで、後はローブに包まれていて分からない。
「はじめまして、ご主人様。私はシュベルト・シュトゥムヘイト……呼び方はご自由に」