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二人が目を開けると、眼前に映ったのは、誰も座っていないベンチだった。ミヅキが近付いて膝を付き、薫が座っていた場所をそっと撫でた。もう温かみは残っていない。ついさっきまで、一緒にいたはずなのに、彼はもういない。
「あ、あのさ……ミヅキ。もしかしてお前……あ、あの子のこと、好きだったのか?」
剣護が聞きにくそうな表情を浮かべながら、問いかける。質問された当の本人は、口元に指を添え、考える素振りを見せる。
「……たしかに、あの人は優しくて気配りが出来て、容姿もなかなか良かったですし、何より……私の事を色々気遣ってくれていました。下心があったにしろ……魅力的だったかもしれません」
「そ、そうか……」
バツが悪そうに剣護が顔を背ける。ムリもない。ミヅキが本当に彼を好きだったなら、剣護が殺した張本人なのだから。
しかし、思い悩んでいる剣護を見ていた彼女の表情は、微笑んでいた。
「それでも、私は貴方をここに連れてきたことに……あの人と戦ったことに、何の後悔も未練もありませんよ。
私は、貴方の相棒……パートナーなんですから」
そのまま剣護に向かって歩み寄り、ふわりと彼の手を両の掌で包み込む。ミヅキの体温が伝わり、剣護は自分の心が暖かくなっていくのを感じた。比喩などではなく、本当に。胸の奥が熱くなり、全身が火照り、嬉しいという感情が抑え切れなくなり、笑みが零れる。
――これが、大切な存在を持つことなのだと、剣護は理解した。
「ありがとう」
優しく、しかし自分の感情を激しく吐露するように呟きながら、ミヅキの小さな体を抱きしめる。彼女は驚いているが、彼には溢れ出る想いを抑えることが出来なかった。
ただ殺し合うだけの日々。ただ、死ぬことを恐れるだけの日々。そうではないのだと、彼はこのたった数日で知ることが出来た。それを教えたのが、他の誰でもない、ずっと彼の傍に居たミヅキだ。
「別に……私は何もしてませんよ?」
彼女はただ首を傾げている。彼の行動がイマイチ理解できないでいるのだろう。彼女にしてみれば、彼と一緒に居ることは、至極当然なことなのだから。それでも、想いが伝わったのか、表情が少し緩み始める。
「……こちらこそ、ありがとうございます」
剣護は、目頭が熱くなった。それを堪え、彼女を見つめながら、頷く。
――守りたい。ずっと、守っていきたい。他人のことなど、どうでもいいと考えてきた剣護が、初めてそう願った。




