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「なんでだ……どうして!?」
驚いているのは、薫も同じだった。
クロスボウで最初に放った一撃は、必殺のものだった。いや、姿を確認されていない彼の放つ攻撃は、その一発一発全てが必殺だと言えよう。現に彼は今までの戦い、一撃……最低でも二撃で終わらせていた。それが外れてしまった。三度もだ。最初は偶然だったかもしれない。だが二発目は、確実にある程度の予測を立てられていた。そして三発目――。完全に弾き返された。
戦争などで経験を積んだ兵士なら理解できる。戦闘のプロフェッショナルであれば、飛来してきた方向から予測を立て、反撃することも可能だろう。
だが、彼は素人だ。それなのに何故、彼はこうも容易く対応することが出来たのか?
「やっぱり……、僕と似た能力を持っているのか」
即座に考察を始める。彼は相棒と共にいる時、何倍か分からないほどに耳が良くなる。そして感覚もある程度鋭くなる。動きも多少素早くなるし。普段はメガネを必要とする目も、今では全く必要がない。
彼女達はどうやら、主人である人間の力を高める能力があるらしい。それは、剣護も同様である。尤も、彼の向上した能力は薫と異なり、速度に重点が置かれているのだが。
それを考慮しても、彼の動きは見事の一言だった。
「マズイ……早く、仕留めないと……!」
一旦考えることを止め、急いで次弾を装填し、撃つ体制に入る。クロスボウは当然だが、遠距離用の武器だ。接近戦はほぼ不可能に近い。薫は、相手が遠くにいる内に、仕留めなければ勝機が一気に薄れてしまうのだ。
だが、剣護は気付いてしまった。彼の攻撃に。薫は気付いてしまった。既に彼は先程の場所にはいないことに。
「くそ、やばい……どこだ? どこにいる……っ」
神経を集中し、感覚を研ぎ澄ます。足音が聞こえる。それが本当に人のものなのか分からないほど、高速で移動している。
「これじゃ、捉えられない……っ!」
オリンピックに出るランナーよりも速いその動きに、薫は狙いを定められず、戸惑い、焦っていた。
剣護も戸惑っているのは同じだった。走り回っているのに、相手の姿を見つけることが出来ない。彼が4階建てアパートの屋上に居るため、見つけることが困難なのだ。そんなことも知らずに走り回っている為、幾らパワーアップしているとはいえ、体力は確実に消耗していく。
「どう、すれば……」
走りながら、ひたすら考える。相手は狙撃手だ。当然、狙いやすい場所から撃ったのだろう。そこが見つけにくい場所であっても不思議ではない。なら、探し出す方法は無いのだろうか?




