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駅に向かい電車を乗り継ぎ、座ってひたすら待つこと約1時間、ようやく彼女の目的地に辿り着くことが出来た。
あの時のベンチには既に、薫の姿があった。
「どうして……貴女は」
戸惑いを隠しきれていない薫。彼は、ミヅキがパートナーを連れてくることはないだろうと考えていたようだ。いや、心の準備はしていたのだろうが、いざ目の前にして、動揺してしまっているのだ。
「これが私の答えです」
剣護の手を握り、しっかりと薫に視線を合わせる。彼女には、戸惑いも後悔もなかった。
「……分かりました。
ショウさん、場所の移動をお願いします」
「はい、畏まりました」
当然の様に薫の呼びかけに一瞬で姿を表したショウは、いつものように呪文を唱える。
風景が変わり、小さな町並みが広がる。それでも周りには人の気配は一切ない。ゲームの世界であることを再認識させられた。
「あれ、あいつはどこに行ったんだ……?」
剣護が辺りを見回す。どうやら薫とは別々の場所に送られたらしい。剣となっているミヅキを握りしめ、ゆっくり歩を進める。
刹那、寒気が走り、歩みを止めた。その判断は正しかった。
――バシュン!
「なに……っ!?」
どこからの攻撃なのか、剣護の肩に何かが掠めると同時に痛みが走り、服が切れ、小さな切り傷が出来た。何故、どうやって? 一瞬で彼は混乱し、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
剣護は今まで、喧嘩などとは一切無縁だった。そのため、痛みを受けることにも慣れていない。パニックになるのも至極当然だった。
もう一度、何かが高速で彼を射抜かんとばかりに飛んで行く。
「くっ……」
上体を僅かに反らす。すんでのところで飛んできた物体を回避する。その物体は勢い良く地面に突き刺さった。
「……なるほど。狙撃か」
足元に突き刺さっている物体を引き抜き、確認する。短めの、それなりに重量のある、鉄の矢だった。それを確認した彼の胸の内は、何故か冷静さを取り戻していた。数回の戦いで、彼も慣れたということか。
ヒュン、という一瞬の風切り音が聞こえ反応すれば、聞こえてきた範囲に向け、思い切り剣を振るう。
ガキィン! 甲高い鉄同士のぶつかり合う音が聞こえた後に、手に軽い痺れが伝わる。
足元に転がる砕けた鉄の矢を視認すると、剣護は胸を撫で下ろした。




