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「………………」
時間は夜の8時くらい。ミヅキはようやく家に帰り着くことが出来た。今、彼女は玄関の前で止まっている。なんとなく、帰りづらいようだ。この時間まで遊びまわり、秀彦の家には結局行っていないからだ。少なくとも、叱責されることは間違いないだろう。そう考えると、あと一歩が踏み出せないらしい。
「……た、ただいま帰りました」
ドアの前で悩むこと数分、ようやく覚悟を決め、家に入る。当然のように、暖かな明かりがミヅキを出迎える。
「ミヅキ!」
少し遅れて、剣護が顔を出す。ミヅキは声に反応して微かに緊張を見せる。
「も、申し訳ございません! 今回は完全に私のせいで……」
勢い良く頭を下げる。連絡も何もせず、帰る時間もここまで遅くなり、弁解のしようもなかった為に、謝罪する他無いと思ったのだろう。
剣護は彼女の前に立ち、溜息を漏らした。。
「ホントに心配したんだぞ? 今井さんのところに連絡しても来てないっていうし、連絡したのにお前は出ないしで……」
彼の言葉に、ミヅキは慌ててバングルをチェックする。彼からのコールが、何度もあったという履歴が表示されている。その全てが、薫と遊んでいる時間帯だった。彼女の内にある罪悪感が大きくなっていく。
「ほ、本当に、何と言えば良いのか……っ」
必死になって謝罪を続けようとするミヅキを止めたのは、頭の上に置かれた、彼の暖かな手の平だった。
「悪いな、俺の勝手で……。もしかして、何かあったのか? ホントにごめん! 俺が学校に行きたいなんてバカなこと言わなければ……っ」
剣護は何故か、一人で騒ぎ始め、最終的に謝り出した。ミヅキはきょとんとして、次にはクスクス笑った。
そうだ、彼はそういう人間なのだ。自分のことでいつも手一杯でありながら、身近な人のことになると、その人の為に動き出してしまう。優しいというべきか、なんというべきか。ミヅキは笑いながら、涙を流した。たった数日、一緒にいただけのはずなのに、どうしてこうも彼のことばかり考えてしまうのか……。少しずつ分かってきたような気がした。
「貴方は面白い人ですね……ホントに」
「へ? そ、それ……どういう意味だよ」
いつまでも笑っているミヅキを見て、剣護が少し拗ねてしまう。そんな様子を見て、ミヅキはまた面白くなり、笑ってしまう。
「ふふ……ふ、ん…………」
ひとしきり笑い終わると、溢れ出ていた涙を拭い、剣護の真正面に立てば、ゆっくり頭を下げた。もう、迷いは無かった。彼が、ミヅキの相棒なのだ。
「今回遅れたのは、完全に私のミスです。申し訳有りませんでした。
それと、もう一つ……。明日、少し時間を頂いてよろしいでしょうか」
彼女の真剣な面持ちを見て、剣護はそれだけで悟ったようで、勿論、というように頷いた。
――この人は本当にお人好しだなぁ。
心底、そう思うのであった。




