5
「どうかしましたか?」
ボーっとしていたミヅキは、唐突に声を掛けられたことで反応する。
その声の主は、体型が彼女と同じくらい――要するに小柄で、フリフリのワンピースを身に付けて、髪はオレンジ色で背中を隠せるくらい長い。いつの間にかミヅキの隣に座っている。
声を掛けられたことで、今自分が道に迷っていることも思い出す。
「ここに行きたくて……」
「ああ、そこはこの時間の電車に乗って……」
相手の説明を聞いて何とか理解出来て少し安堵すると、ミヅキはジーっと相手の顔を不思議そうに見つめる。相手も少し戸惑っている。
「こういうことを言うのは失礼かもしれませんが……どうして女装なんてしてるんですか?」
「えっ?」
ミヅキが首を傾げながら素っ頓狂な発言をする。しかしその言葉を聞いた相手は動揺し始める。
手を伸ばし、オレンジ色の髪を掴み、上向きに引っ張る。通常なら毛根が離れまいと抵抗するはずなのだが、相手の髪の毛はあっさりと抜けてしまった。
いや、『取れて』しまった。この髪の毛はカツラで、本人の髪は短く切り揃えられていた。
「あ、あの、これは……っ!」
「別に隠す必要はありませんよ。本当に違うなら謝罪しますが……」
図星を突かれた少女……いや、『少年』は、うなだれるように俯くと首を横に振った。
「僕は男です。この服装なのは……簡単に言えば、ちょっとした病気ですよ」
病気と聞き、ミヅキの中でひとつの病名が思い浮かんだ。
――性同一性障害。軽く説明するならば、自分は男だと思っているのに身体は女だったりその逆だったり……ということである。その原因は脳にあると言われるが、根本的な解決方法は無い。何故なら既にこの場にそういう存在として、生まれ落ちてしまっているからだ。
ミヅキはバツが悪そうに俯いてしまう。
「ごめんなさい、軽はずみな発言をお許しください」
「いえそんな! むしろ嬉しいです……。僕を男として見てくれる人がいて。
僕は西条薫って言います、よろしく」
薫と名乗った少年は、おもむろに手を差し出した。それをミヅキは戸惑いながらもそっと握る。すると彼は嬉しくなったのか笑顔を浮かべて、彼女と一緒に立ち上がった。
「まだ時間はありますよね? 一緒に遊びましょう!」
「え、あ……」
突然な出来事に戸惑う彼女を余所に、薫は離さないように強く手を握る。
すると、ミヅキの片手に有る空き缶に気付いた彼がそれを取り、自動販売機傍にあるゴミ箱へ捨て、彼女と一緒に走り始めた。
ミヅキは抵抗することもなく引っ張られていった。一度だけ、ちらりと空き缶の捨てられたゴミ箱へ視線を送った。




