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剣護が学校に行くために家を出た後、ミヅキは彼の言う通りに秀彦の家に行くため、準備を済ませると家を後にする。
事前に連絡は済ませてある為、あとは彼の家にお世話になるだけだったのだが。
「迷ってしまった……」
電車に揺られ乗り換えを繰り返して実に一時間、いつの間にか彼女は自分でもどこにいるのか分からないところに来ていた。
地図を確認してもさっぱりだ。
「どうしましょう……ご主人様か今井さんに迎えに……しかし迷惑をかけるわけには……」
ぶつぶつと呟きながら駅周辺を歩き回る。特に何か意味があったわけではない。そうしてなければ落ち着かなかっただけだ。しかし、彼女も生きている。動いていればお腹も空くし喉も渇く。
剣護から貰った財布と幾らかのお金を確認する。飲み物を買うくらい余裕の金額である。
近くにあった自動販売機の前に立ち、1000円札を入れる。飲み物を選ぶのに悩んでいると、以前に剣護から買ってもらったりんごジュースが視界に入り、なんとなくボタンを押した。
取り出し、ベンチに座って一口飲む。
「……ふぅ」
りんごの甘い味が口いっぱいに広がると同時に、喉の渇きが潤されていく。ミヅキは感嘆の息を漏らす。
ゆったりとした時を過ごしながら、彼女は忙しなく動いている人の群れを眺める。
――幾度と無く見てきた風景。飽きるくらいに、彼女は人という存在を見て、接してきた。次の主人こそは勝たせる為に。良い主人と巡り逢う為に。
今の主人である天城剣護のことを思い出す。彼は変だ。戦いをただの暴力と捉え、戦う度に後悔し、迷い、それでも自分の夢の為に突き進んでいく。そんなことを考えていたら、精神的に余裕がなくなり、最後には戦うことその物を放棄してしまうかもしれない。単純な話、そんなことは一切考えず、ただ戦えばいいのだ。なのに、彼にはそれが出来ていない。
「おかしな人です……」
両手で包むように持っている缶を見つめる。おかしいと思っているはずなのに。
何故だろう? 不思議と応援してしまいそうになるのは。何故なんだろうか? 心が暖かくなるような錯覚さえ受けてしまうのは。
最後の一口でジュースを飲み干す。飲み干したにも関わらず、ミヅキはその缶を捨てる気にはなれなかった。ただのゴミなのに、だ。




