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「くそ……」
トイレの一室に入り、便座に蓋をして腰を下ろす。汚いとか、そんなことを考える精神的な余裕はなかった。それだけ必死だったのだ。そして、今現在もである。いつ戦いを挑まれ、殺されるか分からないのだから。恐怖を促すように、手首のバングルからはビープ音に似た音が繰り返し流れている。
「ショウ……って、ここでも大丈夫なんだろうか」
「はい、ここに」
唐突にショウが剣護の真正面に現れた。驚きのあまり声が出そうになるのを堪える。
「コイツを少しの間でいいから、音が出ないようにすることは出来ないのか?」
要件を手短に言うとショウにバングルを見せ付ける。するとショウは何故か首を傾げた。
「ミヅキさんから説明は受けてないのですか?」
剣護は首を横に振った。彼女から受けた説明は、このバングル同士の距離が100M以内に近づくと鳴ることしか教わっていない。
その話を聞いたショウはくくっと笑みを零した。
「それは違いますよ。それよりも貴方にはまず、基本的な操作の説明をしなければいけませんね」
ショウは剣護の手を掴むと、人差し指でバングルを触った。すると剣護の目の前にモニターが出現した。ホログラムと似たようなシステムなのだろうか? 詳しいことは剣護には分からなかった。
「こちらの画面をタッチしてみてください」
Welcome to GAMESHOW!! という文字と共にロゴが出ている画面を、そっと指でおしてみる。すると幾つかの項目が現れる。
「こちらの音量調節を押してみてください。すると設定画面が出ますので、音量を0にするを押すと、それで調整完了となります。相手が近くに現れた際には、光ってお伝えします」
それからバングルの説明が始まった。どうやら名前を入力すれば、その相手との連絡も可能になるらしい。その他に様々なことが出来るようだ。この手首に収まる大きさで、家庭用のPC並み……それ以上のスペックがあるから驚きである。これがあれば、携帯などの通信用端末は、あまり必要なさそうだ。
「それでは、また何かありましたらお呼びください」
説明が終わるとショウはそう言い残し姿を消した。一体どうやって姿を消したり、この場所に一瞬で来ることが出来たのか、全く分からない剣護であったが、考えるのをやめた。時間のムダだろう、と。
早速、先程の説明で教えてもらった通信機能を使ってみる。相手はミヅキ。
「…………あれ?」
何コールか待ってみたが、彼女が出る気配がない。それから何度かコールしてはみたのだが、授業終了のチャイムが鳴っても、彼女が通信に出ることはなかった。




