2
電車で30分ほどだろうか? 剣護が降りた先には、学生服の人間ばかりがいた。それもそのはず、ここは学校のすぐ傍の駅である。
挫けそうになる決心を、何とか保たせる。こんなところまで来たのに、帰るわけには行かない。
「あの頃の俺とは違う」
そう言い聞かせる。たった数日の出来事……それでも剣護は、自分は少しは変わったはずだと呟く。
事実、彼は精神的に多少なりとも成長している。それは揺るぎようがない。
周りの人間と同じように歩を進め、教室へと向かう。クラスは既に鞄の中に入っていた教科書類で確認済みだ。どうやらクラス自体は同じらしい。メンツも変わっていないように見える。
席に着き、溜息を漏らす。昔は何の苦労も無く、何も考えずに通っていたことを思い出して、剣護は苦笑してしまう。酷く滑稽だと。あの頃の自分とは、悪い方向に変わってしまったのだろうか。
「おい久しぶりだな、天城。美月ちゃんはどうした?」
ミヅキ、という名前を聞いて少し驚く。何故彼女の存在を一クラスメイトが知っているのか。しかも相手は、剣護の元居た世界では、適当に会話をしている名前も知らない男。
しかしその疑問も、すぐに解決する。
「ホント、なんでお前みたいなヤツに、あんな可愛い妹が居るのかねぇ?
家事全般オールオッケー、しかも兄貴にあんな優しい……はぁぁ! 信じらんねぇ。俺も妹が欲しいな~っ!」
剣護は溜息を漏らす。どうやらこの世界では、ミヅキが彼の妹ということになっており、一緒に学校に通っている設定らしい。
彼の本当の妹は……、家事全般オール駄目。少し気性が荒く、家ではギャーギャーと騒ぎ、三人目の男と付き合い中という……彼としては自慢し難い妹だった。別に仲が悪いわけではなかったが。
「な……っ!?」
物思いに耽っていると、唐突にアラームが鳴り始めた。咄嗟に手首を押さえ、音が漏れるのを防ぐ。だが、そんなことで音が消せるわけもない。
「ん、どうかしたのか?」
幸いだったのが、この音は同じバングルを持つ者同士にしか聞こえないことである。話していた男子学生は彼の動作に首を傾げている。
「悪い、ちょっとトイレ……!」
剣護は早々に立ち上がると、教室から飛び出した。まずはこの場を離れることが先決だと考えた為である。
何人かの教師が歩いている廊下を走る。
「おい、君……」
「すいません、トイレです!」
ある教師の静止も振り切り、トイレへと走る。走りながら、ちらりと教師の後ろ姿を見る。
――あの先生は、見たこと無いな。
この世界と向こうの世界では若干の誤差が有るのだろうか、それとも別の理由があるのか。色々考えながらも、剣護はトイレへ駆け込んだ。




