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剣護は一つだけ、気になっていることがあった。
自分の部屋のクローゼットの中に入っている学生服。この世界での自分も学校に通っていたのではないかと。
そして、考えた。これから学校に行ってみるべきなのかと。
「しかし、学校でもし敵に襲われでもしたらマズイよなぁ……」
彼の一番の懸念はそこだった。彼のようなことを考え、実行している学生もいるかもしれない。もしかしたら敵を倒すため、または自分の姿を隠す為に学校に紛れ込んでいる可能性さえある。
ミヅキを連れて行くわけにも行かないし、剣に変えれば関係のない人間には視認出来ないが、敵に喧嘩を売っているように思われるのもマズイ。そもそも剣護は、あまり戦おうという気はない。そんなことを言い訳にしながら、本当に行きたくない理由が他に有るのだが……。
「よし、一回だけでも行ってみるか」
考えた末に、剣護は学校に行くことにした。クローゼットに掛けてあった、綺麗な制服に身を包み、鞄を持ってリビングへ向かう。
「おはようござ……あれ、学校ですか?」
リビングに入ると、ミヅキがエプロン姿で朝ごはんを作っていた。この世界に来て、彼が見慣れた光景の一つだった。
「ああ、それでちょっとお前に話したいことがあってな……」
わざわざ料理を作るのを止めさせ、ミヅキを座らせる。
どうやって話すべきか。一瞬考える剣護だったが、特に隠すことでもないと思い、直球でいくと決める。
「俺は学校に行くよ。この世界と、俺の住んでた世界とで何か違いがあるかも知れないし。
その間は悪いんだが、今井さんの所にでも行っててくれ」
「……はい、構いませんが」
ミヅキは特に狼狽える様子もなく、普段のような無表情で答えた。そりゃそうだろうな。剣護は軽く安堵する。
「じゃあ後で連絡先と住所教えるから……それと、ご飯をお願いしていいか?」
早速と言わんばかりに剣護の腹が部屋に鳴り響く。ミヅキは溜息を漏らしながら立ち上がると、満更でもなさ気な表情で、作り途中の料理を再開した。




