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剣護が孝と戦っている最中、こちらでも戦いが行われていた。翔大は鉤爪を武器として両の前腕に装備して、それを振り回している。幾度もそれを繰り返して、今井も奮戦してはいるものの、押され気味であった。
「オラオラ、どうしたよ秀彦!?」
「くっ、う……!」
秀彦の両前腕にはガントレット、そして翔大には鉤爪。今は秀彦の方が分が悪い。なんとか鉤爪を受け止めてはいるものの、防ぎきれずに、腕に小さな切り傷をいくつも作っている。
「さて……と、そろそろ死んでくれると嬉しいんだけどな?」
攻めていた翔大が飛び退いて、二人の間に距離ができる。秀彦は肩で息をしているのに、彼は顔色一つ変えていない。
今の内に秀彦は握ったり開いたりして手とガントレットの調子を確かめる。
――まだいける。確認した秀彦が一歩踏み出し、間合いを詰めていく。
「僕は、友達だと思ってたよ」
「友達だと? ふざけるなよ!」
『友達』という単語に激昂し、翔大が叫ぶように声を荒げる。
「お前はそうやって上から見て、俺を貶して楽しんでたんだろ!?
成績優秀運動神経抜群で容姿端麗、しかも金持ちのお坊ちゃんときた! そんなお前が本当に嫌いだったっ!
俺は願った……何者も超える地位、名誉、財産! それを叶える第一歩として……お前を殺す。そのために、手にいれた力だ」
最早、彼は普通の人間としての精神を失っていると考えた秀彦は、溜息を漏らすと、自分の左肩に手を添えた。
「勘違いも甚だしいな……。悪いけど、僕もこんなところで立ち止まるわけにはいかないからね……、これで終わらせるよ」
一歩また一歩と歩みを進めていき、空いていた距離が更に縮まっていく。その最中に翔大は気付いた。彼の右手のガントレットは既に消えていることに。そして、左腕全てが堅牢な鎧を纏っているということに。
それでも翔大は、自分の勝利を信じて疑わなかった。絶対の自信と、自分の実力を加味してのことだった。
「これで、終わりだぁ!」
翔大が一気に距離を詰め、両手を振り下ろす。一瞬、秀彦の動作が速く、左腕の鎧で防御する。
「ふんっ!」
ガードした瞬間に、秀彦の右腕が翔大の腹部を抉るように殴る。
「ぐぁ……!」
油断していたところからの攻撃であった為、翔大は思わず相手から距離を取ろうと腹部を両手で押さえながら一歩、後ろに下がった。
だが、彼はそれを見逃さなかった。むしろ待っていたかのように一歩距離を詰める。
「うぉおぉぉぉっ!!」
「――――――ッ!?」
思い切り振りかぶって放たれる左拳。翔大は驚きながらその一撃を顔面で受けてしまう。堅牢な鎧を纏った殴りが、痛くないワケがない。
何メートルかふっ飛んで、翔大はそのまま気を失ってしまった。
呆気無い。だが、勝負とは案外こんなものなのかもしれないと、秀彦は思った。




