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「もらった!」
「ばーか! テメェばっかりが強いと思うなよっ!」
剣護が懐に飛び込んだ瞬間、背後から高速でチャクラムが戻ってくる。剣護は横っ飛びしてなんとかそれを回避する。
「まだまだ! このチャクラムなら接近戦だって出来るんだぜ!?」
両手に戻ってきたチャクラムを構え、剣護に向かって振り下ろされる。剣護は容易く受け止めると、火花が散り、鉄のぶつかる音が響いた。
「接近戦じゃ、あんたに勝機はないっ」
「ほざけ!」
孝は構わず武器を振り回すも、実力の差は見て明らかだった。大型のチャクラム二つはかなり取り回しが悪い。近接戦闘も可能ではあるものの、扱いにくく、それなりに重量がある。
なにより、元々チャクラムは投擲を目的とした武器だ 懐に入られた時点で、彼の負けは必至である。
「俺は、こんな……ところで、負けられねぇんだよっ!!」
剣護の剣を弾き、両手を掲げ、振り下ろすモーションに入る。
「悪い……俺も、負けるわけにはいかないんだっ!」
しかしその大振りな攻撃を、彼が見逃すはずはなかった。剣護は剣を突き出し、腹部を一瞬で貫いた。
漆黒の刃が鮮血を纏い、手には肉を貫く気持ちの悪い感触が走る。それでも、以前より気にならなくなったのは、彼が慣れてしまったからなのだろうか?
「そ、んな……、嘘、だろ?もう、終わりかよ……。
俺の、チャンスが……、こんなにあっさり……」
あまりの痛みに孝の声が、身体が震える。血はドクドクと流れ出ていき、やがて感覚は麻痺し、何も感じなくなっていく。
剣護と同い年ほどの彼はその感覚を前に恐怖するどころか、悲しんでいた。何も出来なかった自分自身の弱さに。
そして剣護は思い出す。彼もまた、自分や今井と同じ存在だということに。
「あ、あんたの夢は、何だったんだ……?」
勝利したはずの剣護の声が震える。
意識が遠のき始めている孝は、小さな声でその問いに答えた。
「か、ぞくの……、母親の、為に……。
頭が、弱くて……不器用な俺を、今まで……面倒を見てくれた、お礼に……俺は………………」
それだけ言うと、彼は動かなくなってしまった。身体はとても冷たくなり、何故か軽くなっていた。
剣護は剣をゆっくり引き抜くと、彼を地面にそっと寝かせた。
身体の震えも、後悔の念も、前ほどではなかった。やはり慣れてしまったのか……。何故か消えていく孝の死体を、剣護は憮然とした表情で見下ろしていた。




