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「さてと、折角だから飲み物でも買ってくるよ。なんか要望は有るか?」
剣護は立ち上がり、持っていた財布の中身を確認しながら、ミヅキに尋ねる。
「おまかせします」
彼女は普段通りの無表情で呟く。予想通りと言わんばかりに肩を竦め、直ぐ傍においてある自販機へと足を運んだ。
剣護が飲み物を選んでいる間に、今井とマホの追いかけっこは終わっていた。
「まだまだ、僕には追いつけないみたいだね」
「くっそ……! 逃げ足だけは、早いんだから……っ」
結局、マホの体力負けだったようだ。彼女は肩で息をしているが、今井はまったく乱れていない。そこから、彼の身体能力の高さが窺えた。
「お疲れ様です。はい、テキトーに買ってみました」
二人がベンチに腰を下ろすのと同時に、剣護が両手にジュースを持って戻ってきた。
「とりあえず好みが分からなかったので、マホさんにはオレンジジュースで、今井さんにはスポーツドリンクです」
「あ、ありがと……」
「ありがとう。でも折角だから、次の機会にはコーヒーか炭酸系をお願いするよ」
今井の注文に苦笑する。こういう部分も受け入れてくれる人が欲しいんだろうな。剣護は、そう思いながら頷いた。
そして、最後にミヅキの方へと歩み寄っていく。
「はい、俺とお揃いのりんごジュースだ」
「………………」
自分と同じラベル柄のジュースをミヅキに手渡した。ミヅキは無言で受け取ると、プルタブを開け、一口飲む。
「おいしい、ですね」
「そっか、良かったよ」
剣護はホッと胸を撫で下ろすと、彼女の頭を優しく撫でた。意味などは無かったのだろう。ただなんとなく、撫でたくなっただけ。妹に接するのと大差ない。
「ん……」
ミヅキは目を閉じ、小さく声を漏らした。その瞬間、剣護は胸を締め付けられるような感覚に陥った。
――な、なんだろう、これ……。
頭から手を離し、胸を抑える。すると落ち着いたのか、締め付けられるような感覚は消えていた。剣護はホッとしたような、残念なような……複雑そうに表情を歪めた。
「さて……、そろそろ僕達は帰ろうかな」
どれほど話していたのだろうか。陽は西へと傾き始めていた。今井とマホは帰り支度をして、ベンチから立ち上がる。
「剣護君、良かったら……また明日、ここで話さないかい?」
手を伸ばし、微笑む今井。その姿は夕焼けと相まって映えるように見えた。
「ええ、また明日」
断る理由はない。剣護も同様に手を伸ばし、握手を交わした。
「こんなことになるとは思ってませんでした」
去っていく二人の後ろ姿を見ながら、ミヅキがポツリと呟いた。彼女の手の中には、少し前に買ったジュースの空き缶がある。何を思いながらそれを持っているのか、何を思ってそんなことを呟いたのか、剣護には理解できるはずもなかった。
「行こうか?」
「……はい」
二人並んで、歩き始める。これからの戦いのことで憂鬱になるも、今井やミヅキのことを考えると、なんとかやっていけるような気がする剣護であった。




