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「お前が敵か!?」
「くっ! まさかこんな出会い方をするなんてね……マホ!」
「うっさいわね! わかってるわよっ!!」
男がマホと呼ぶ女の子の手を握った。
瞬間、まばゆい光が辺りを包み、マホという少女は既に居なくなって、彼の両前腕には鎧のガントレットの様な物が装着されていた。
「………………」
「………………」
二人の間で、沈黙が続く。空気が張り詰め、重くなっていると錯覚するほどのピリピリとした緊張感が漂っている。
そのまま時が過ぎる。一瞬が永遠に続くかのような錯覚さえ覚える空間。
「ねぇお母さん、あそこの人達何してるの~?」
「しっ! 見ちゃいけませんっ!」
そんな二人の緊張をぶち破ったのは、名も顔も知らない家族の間抜けな声だった。
「……そっか、やっぱりこの武器は一般人には見えないのか」
男は溜息混じりに苦笑すると、武器を外して両手を挙げた。剣護もそれを見て、剣を地面に突き刺した。二つの武装は少女に変わり、お互いのパートナーの傍に寄り添う。
「一時休戦としないかい? 僕はそもそも戦う気は無かったんだ」
「そっか……俺もだよ」
互いの想いは一致していた。それに気付かせてくれた家族に一言礼でも言うべきなのだろうか? 剣護はそんなことを考えていた。
今井が何かバングルの操作をしている。すると、ついさっきまでうるさく鳴り響いていたバングルからの警告音が消えた。剣護が知らないことがまだまだ沢山あるようだ。
「僕の名前は今井秀彦、華の十八歳で彼女はまだ居ない。よろしく」
「は……はい、俺は天城剣護です。歳は……十六です」
名前も分からないような小さな公園。そこのベンチで四人は座り、語り合っていた。さっきまでの険悪なムードは何だったのか、今井と名乗る少年は爽やかスマイルで自己紹介をした。剣護は少し距離を取り、ミヅキは無表情。マホはやれやれと溜息を漏らしている。どうやら彼の根はこんな性格らしい。
「しかし良かったよ。君は僕が戦った人とは違って、おだやかな人みたいだ。
最初の人なんか、僕を見ただけでいきなり飛びかかってきたんだよ」
「それでもあんたはヘラヘラ笑って避けてたくせに」
「酷いなぁ、あれでも結構必死だったんだよ?」
二人の会話を、剣護はじっと聞いていた。
――同じだ、俺と。
立場が、全く同じなのだ。それもそうだろう。二人は自分の願望を掛けて戦っている、敵同士なのだから。
本当ならあの時、街のど真ん中で殺し合いをしていたはずなのに。それなのに、今はこうして楽しく会話している。
――あの時戦った男とも、こうやって話が出来たんだろうか?
そんな小さな可能性を、剣護はふと考えた。
「そういえば、君の夢ってなんだい?」
「え……? あの、親友を作ること……かな」
唐突の振りに戸惑いながらも答える。剣護の夢を聞いた今井は、驚きながらも関心するように頷いた。
「僕の夢もね、親友を作ることなんだよ」
彼の言葉に、剣護は困惑する。まさかここまで互いに共通点が有るとは思っていなかったからだ。
「僕はモテるんだ。いや、自慢とかそういうのじゃなくてね? 誰と話してても愛想を良くしようとして、そしたら……男友達はそれなりに、それ以上に女の子は沢山寄って来てくれた。
でもさ、僕が欲しいのはそういう関係じゃない。上辺だけの僕を見て、それを勝手に『僕』と認識して接して……」
要するに、もっと内面を見て欲しいということなのだろうか? 剣護なりに考えを纏めていると、今井は立ち上がった。
「お金なんていらない。この容姿だって……。そういうのは全部、上辺だけの僕なんだ。
僕は、本当の『僕』を見てくれる人が欲しい。その願いを叶える為に、僕はここに居る」
今井はポケットに入れていた財布から百円玉を取り出し、親指に乗せ、上向きに弾いた。百円玉は空高く飛ぶと、近くに座っていたマホの脳天へと落下し、見事に直撃した。当然彼女は怒るわけで、今井に笑顔で歩み寄っていく。
「いきなりなんで私の頭に百円玉が落ちてきたのかしら? ねぇ、今井さん?」
「もしかしたら、神様からのプレゼントかも……」
「あんたが飛ばしてきたからでしょーが! 待てこらーっ!」
唐突に始まる、二人の追いかけっこ。剣護は苦笑しながらその光景を眺める。傍に居るミヅキの顔も、微かに笑っているような気がした。




