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翌日、二人は無言で支度を整え、食事をしてから外に出た。ミヅキの服を買いに行くことになったのだ。当の本人は僅かに表情を歪め外出を拒否したのだが、命令ということで渋々頷いた。
「さて、どんな服にしてやろうか」
嬉々として街中を歩く剣護とは対照的に、ミヅキは無表情というプレッシャーを彼に向けて発している。
「私は服なんてどうでもいいんですが……」
「女の子は、綺麗で可愛くないとな」
「………………くだらないですね」
剣護の何気ない一言は、彼女の心を微かに動かした。
言葉を投げかけた本人はそんなことに気付くわけもなく、店の中に入ろうとドアに手を掛けた。瞬間だった。
――ビビビビビッ!!
彼の手首に付けていたバングルが突如、小さな警報を鳴らした。
「ミヅキ! こ、これが鳴ったってことは……っ」
「はい……」
剣護は焦り気味に彼女の手を握る。彼女の姿が剣に変わり、剣護の手中に収まる。
一瞬、こんな街中で剣を握るのはマズイのでは? と考えた剣護だったが、周りの反応はなく、無視されていた。いや、無視というよりはむしろ、『剣を視認出来ていない』という方が正しいのだろうか?
剣護は内心ホッとしながらも、店の周りを歩き始める。
「どこだ……?」
キョロキョロと辺りを見てみるも、それらしき人物はいない。人通りが多すぎるため、見つけにくいということもあるか。
その間も、バングルからは早く相手を見つけろと言わんばかりに警報が鳴る。この音はそれほど大きくないため、聞かれていないだけなのだろうか? それとも、これもミヅキの剣と同じように、聞かれていないだけなのだろうか……、そんな考えが何故か、脳内をぐるぐる飛んでいる。
「とにかく今は、戦いに専念しないと……」
既に戦いは始まっている。こちらのバングルが鳴ったということは、相手の方にも鳴っているということなのだから。
「あれ……?」
微かに、剣護のバングルからではない警告音が、彼の近くで響いている。
耳を澄まし、発信場所を特定しようとする。何処か……一歩、二歩と後ろにさがって行く。
――ドン、背中に軽い衝撃が走る。
「あ、すいません!」
誰かにぶつかってしまう。慌てて振り返り、謝罪する。
「いえいえ、僕の方こそ……なっ……!?」
爽やかな好青年、という言葉を体現するような男が、剣護と同じように頭を下げる。
男の隣には女性が居て、彼の左手には、剣護が付けているのとほぼ同一のバングルがある……。そしてなにより、彼には剣護の剣が見えているようだった。




