出会いと冒険の始まり
アルナに連れられてやってきたのは、大通りに面した小さな酒場だった。
酒場は回復アイテムの料理を購入したり、掲示板の閲覧、書き込みができる施設だ。人が多く集まるので、パーティなどのメンバー募集が盛んな場所でもある。
中に入るとアルナは迷わず奥のテーブルに近づいていき、そこに座っている女の子と軽く挨拶を交わす。
「やっほーおまたせー。連れてきたよー」
「おっかえりーアルナン。その子どれくらい可愛い? ぺろぺろしたくなるくらい?」
「実際に見る方が早いんじゃない?カナタ、こっちきてー」
呼ばれたテーブルに近づくと、さっきアルナと話をしていた少女と目が合った。
目を引く鮮やかな長い金髪は、緩くウェーブをかけて丁寧に整えられている。二重の瞳は大きくて、彼女の明るさを象徴しているかのようだ。
少女の大きな瞳に見つめられて、ボクは少したじろいでしまう。
「こ、これは……!」
「あの……何か変ところある、かな……?」
「かわいい!」
「え?」
「アルナン! あたしこの子欲しい! 嫁にする!」
「よ、嫁!?」
突然の謎宣言に驚くボクと目を輝かせる少女の間に、アルナが割り込んだ。
「何言ってるのよクロ。カナタは私が先に目を付けてたんだからね」
「にゃんだとー! 卑怯なりアルナン! こうなると見越してたから率先して勧誘行ったのかー!」
「そんなわけないでしょ。カナタと出会えたのはたまたまなんだから。ほら、冗談ばっか言ってないでさっさと自己紹介しちゃいなさい」
「あいあい、分かってる分かってる」
頬を掻くアルナは、適当な返事をする少女から顔を背けボクの方を見た。
「ごめんねカナタ。この子いつもこうだから、気にしないで」
「うん……そうするよ」
苦い顔のボクを気に留めることなく、先ほどの少女が勢いよく椅子から立ち上がる。
と同時に小柄な少女に不釣り合いな豊満な胸が大きく跳ねたので、ボクは赤くなりながら軽く目を逸した。
「そんじゃ改めてジコショーカイ! あたしはクロリス。クロって呼んでね。職業は弓術士やってるよん。趣味は女の子観察! しくよろ!」
「ボクはカナタ。職業は亜流双剣士だよ。よろしく、クロ」
目元でピースを作ってウインクしてくるクロに、ボクは微笑みで返しておく。
こういうタイプの子は一緒にいて飽きないと思う。趣味だっていう女の子観察にはちょっと恐怖を感じるけど。
「ふぉぉ! ボクっ娘だぁ! アルナン、やっぱりあたしこの子もらう!」
「ダメって言ってるでしょ。ほら、済んだのなら先に外で待っておいて。私たちもすぐ行くから」
「ぶー、アルナンのケチー。いいもーん、外でもっとかわいい女の子でも探してくるもーん」
文句を言いながら、しぶしぶといった表情でクロは酒場の外へと出て行った。
「あれ、ボクたちはいいの?」
「紹介しなきゃいけない子がもう一人いるから……ほら美咲! いつまでも小さくなってないであなたも挨拶しなさい!」
「は、はいぃ……!」
怯えるように体を震わせながら、奥の席から少女が立ち上がった。
アルナが呼ぶまで気付かなかったくらい、影の薄い少女だ。
前髪を綺麗に切り揃えた長い髪は、日本人特有の艶やかな黒色。タレ気味の目には少し大きい黒縁の眼鏡をかけている。普段運動しないのか、身体は筋肉のない女性的な肉付きだ。少し気弱そうな面を除けば、大和撫子と呼んでも遜色ない美しさを持っている。
「え、えと、その、あの、美咲と申します歳は16職業は白魔術師趣味は読書好きなものは紅茶嫌いなものはするめですよろしくお願いしますうっ!」
「よ、よろしく……」
一息に言い切った美咲は、よほど緊張していたのかすぐにアルナの背に隠れてしまう。
うーん、この警戒を解くには時間がかかりそうだなぁ……
「これで全員よ。それじゃ、あんまりクロを待たせるわけにもいかないし、そろそろ行きましょうか」
「うん、そうだね」
「ポーションの準備なんかは大丈夫? まあ、序盤だし必要ないとは思うけど……」
回復用のポーションか……最初に配布されたものがあるし、アルナの言うとおり序盤だから買い足すほどでもないはずだ。
「うん、大丈夫だよ」
「よしっ、じゃあ行きますか」
酒場の外でクロと合流して、ボクたちは最初のダンジョン『迷いの森』へと向かった。