エピローグ
「ん、んん……」
真っ暗で狭い部屋の中で、ボクは目を覚ました。
冷凍睡眠から覚めたばかりだからなのか、体がとても重い。椅子から立ち上がるのも一苦労だ。
けれどボクは、ここを出なければならない。みんなに会うために。ゲームクリアを祝うために。
なのにボクの身体はいうことを聞いてくれない。扉に手が、届かない。
(もう少し……もう少しなんだ……!)
もう少しだけ腕が伸ばせれば、扉を開けて、みんなを探しに行けるんだ。
それでも、手は届かない。小さめの体が、これほど恨めしく感じたのは初めてだ。
(ダメなのか……みんなに、会えないのか……)
全部終わったのに。また、離れてしまうのか。
そう、諦めかけた……そのときだった。
プシューッと、空気の漏れる音がして、ボクの前の扉が勢いよく開かれる。
その向こうには見慣れた――けれど、見覚えのない、4人の女の子たちの顔があった。
「ここにいたのね、カナタ」
「もう、探したんだよ! あたしたちだって体ガッチガチなのにさー」
「なんだか……頭が……くらくらします……」
「あとはあなただけ。さぁ、お目覚めの時間よ。王子様」
「みんな……!」
仲間たちに支えられて、ボクはようやく棺から抜け出す。
こうして、ボクたちの――ひと夏の冒険は、終わったんだ。
あれから、数か月。
短いリハビリを終えたボクは、その後、遅れてしまった授業を取り戻すことに必死だった。
それも一段落ついたころ、一通のメールが送られてきた。
そのメールで指定された大きな噴水の前で、ボクはメールの送り主を待つ。
待つこと数十分。その少女が、手を振りながらやってきた。
ボクたちと一緒に旅をした――アルナこと、東亜月那。
大きなポニーテールはそのままだが、髪色は少し暗めのブラウン。ゲーム内よりも、少し落ち着いて見える。
服装もゲーム内で着用していたものに似たジャケットとショートパンツだが、よりカジュアルなものになっている。
アルナはみんなのリーダーといった姿だったが、月那はどちらかというとお姉さんといった雰囲気だ。
「ごめんごめーん! 待った?」
「ううん、今来たとこ。みんなは?」
「アリスが寝坊したらしくて、美咲が迎えに行ってるわ。もうすぐ着くはずよ……って、話をすれば」
月那が手を振ると、遠くの方で金髪の少女が手を振りかえす。
そしてすぐに駆け足でこちらまでやってきて……キキーッという効果音がしそうなほどの急停止をした。
ウェーブのかかった長い金髪をツーサイドアップにした少女。
クロリスこと白崎アリスだ。
レースがふんだんにあしらわれた純白のブラウスと、スカイブルーのスカートは、趣味を全開に押し出しながらもどこか気品を感じさせる。
実際家はかなりのお金持ちらしく、一度招かれた自宅はとんでもない大豪邸だった。
ハーフだそうで、ゲーム内と同じ鮮やかな金髪。そのため、ゲーム内と一番印象が変わらない子だ。
「ほいっ! クロリスさん改めシロリスさんただいま参上! ……やっぱ遅刻?」
「大遅刻……って言いたいとこだけど、そうでもないわ。今回だけは、お咎めなし」
「やたーっ!」
「ま、待ってくださぁーい……」
アリスの後ろから、息切れしながら走ってきたもう一人の少女。
短く切りそろえられた艶のある黒髪と、プロポーションを引き立てるシンプルなワンピース。
名前はFLOで使っていたものと同じで、早苗美咲だ。
「アリスさん、置いてかないでくださいよぉ……」
「あははーメンゴメンゴ」
偶然にも、ボクの住む家からそれほど離れていないところに住んでいた、『四葉』の3人。
FLOクリア後に連絡先を交換してから、こうして頻繁に、一緒に遊びに行くようになったのだ。
「これで全員ね。それじゃ、今日は……」
「あ、待って!」
いつもはこの4人で出かけるのだが、今日は1人、ゲストを呼んであるんだ。
無事にここまで辿り着けるかどうかっていう、不安要素はあるけど。
……いや、どうやらそんな心配は無用そうだ。
「え? あれって……」
「うそーん!?」
「ど、どどど、どうしてですか!?」
噴水前に停められた、一台の黒いリムジン。
ボクたちとは住む世界が違うことを如実に表すその車から降りてきたのは、
「やぁ、梨乃」
「――おまたせ」
もう1人の戦友、天原梨乃だった。
月那たちが驚くのも無理はない。今、梨乃は父・天原雄一郎の跡を継いで、天原グループの会長を務めている。
若くして一大企業のトップに立った、正真正銘、本物のエリートだ。
一応連絡先は交換してあったのだが、地位が地位であり、当然そのスケジュールは多忙の一言。今までは、通話することすら難しいほどだった。
けれど、今日――スケジュールを無理やり調整して、ボクたちのために一日空けてくれたのだ。
そんなことをして大丈夫なのかと聞いてみたら、「問題ないわ」の一言だった。
梨乃のことだから上手くやるんだろうけど、心配はしちゃうな……
「か、か、叶汰!? こんなことして、本当に大丈夫なの!?」
「梨乃が大丈夫って言うんだから、きっと大丈夫だよ。それより、今日はどこへ行くの? 梨乃は……どこか行きたいところ、ある?」
「わたしが場所を知るわけないでしょう。あなたたちに、任せるわ」
「そういうことなら……今日は、あそこに行こうと思うんだけど、どうかしら?」
月那が指差したのは、市街地からは少し離れたところにある大きなビル。
あれは確か……女性服の、専門店……
「……え? あそこ?」
「あの店、なんか私たちのギルドホームに似ててつい入り浸っちゃうのよね。それに……叶汰の女の子姿も、久々に見たいし♪」
「おっ、それ賛成! 今日は軍資金もたくさんあるしね!」
「ま、また……楽しんじゃってもいいんですか!?」
「……悪くないわね」
「梨乃まで!?」
「多数決でけーってい。それじゃ『カナタ』、行きましょっか♪」
「いや、ちょっ、にゃああああああああああああああああああああああああっ!!」
彼女たちと一緒にいる限り、ボクのボウケンはまだまだ終わりそうになかった。
『Fantasia-Leap-Online』無事完結いたしました! どんどんぱふぱふ!
私自身この作品にはとても愛着があり、終わらせるのはとても惜しい気持ちになりますが……一つの転換点として、一度物語の幕を下ろすこととします。
ですが、カナタたちの冒険はまだまだ終わりません。きっと私の知らないところで、私の知らない物語を繰り広げてくれることでしょう!
次回作についてですが、すでに執筆に取り掛かっております。こちらのキャラも活き活きとしていて、FLO同様書くのが楽しい作品となっています。遅くならないうちに皆様にお届けできるよう頑張りますので、楽しみにお待ちください。
最後になりましたが、ここまで読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございます! ここまで書き続けることができたのは、ひとえに皆様のおかげです。感謝の気持ちでいっぱいです。
それでは……またどこかで、お会いしましょう!




