紡いだ絆
「みんな、今日は集まってくれてありがとう」
「姉さんたちのためならお安い御用さ!」
「何でも言ってよ。アタシたちは姉さんたちを信じてついてってるんだからね」
夜が明けてから、ボクと『四葉の軌跡』のメンバーたちは、揃ってホーム11階のホールに集結していた。
もともとはダンスホールだが、今日に限ってはテーブルなどが片付けられて集会所として機能している。
そのため、100人近くも在籍している『四葉』のメンバーがほぼ全員ここに集まれていた。
「チームリーダーから聞いてすでに知ってるとは思うけど、今回のクエストは『竜の渓谷』の攻略よ。参戦するのはチームAからEの精鋭メンバーだけだけど……みんなの気持ちは、一緒に持っていくから。ここで、心を一つにしていきたいの!」
アルナが声に力を込めると、周りのみんなから「ウォォオオオ!」と大きな歓声が上がる。
「……アルナ、かっこいいね」
「カナカナも気付いた? 惚れちゃった?」
「うん。そうかも」
「えっ!?」
「冗談だよ。でも……アルナを見てると、頑張らなきゃって思えてくる」
「――あたしも。元気とか勇気とか、くれるよね。アルナンってさ」
そう。アルナの声は、士気を盛り立てる力を持っている。
きっとそれが、アルナのカリスマに結びついているのだろう。
「このクエストが成功すれば、FLOから脱出できるかもしれないわ。私たちは今、閉じ込められた3000人の命運を握っている。絶対に、成功させるわよ!」
再び大きな歓声が上がり――
ほどなくして決起集会は終了。定時に竜の渓谷に現地集合ということになった。
「用事もないし、あたしは先に行ってレベリングしてよっかなー。カナカナはどうする?」
「ボクは……少し、寄るところがあるから」
「ういうい。それじゃ、向こうで待ってるねー」
クロと美咲を見送ってから、ボクは一度ルームを出る。
目指すのは……彼らのところだ。
「カナちゃんも無茶言うよ。こんな朝早くにフレチャ飛ばしてきたと思ったら、作業を3日早めてくれだなんてさ」
「あはは……ごめん」
「まぁ、頼まれた仕事は何があろうと完遂! が、ウチのモットーだから気にすんな。……できてるぜ。例のアレ」
「――ありがとう」
まだ日も昇りきらない時間にやってきたのは、ファルたちが営む武器商店。
ここには以前獲得した武器を、強化してもらうために預けてあった。
フィルシュ鍾乳洞や酸の湖に行ったのも、その武器を強化する素材を集めるためだ。
最終強化は急ぐものでもなかったけれど、渓谷攻略の日程が早まったため、無理を言って今日中に仕上げてもらった。
とはいえ、まさか半日とかからずに完成してるとは思わなかったけど。
「ハッキリと言える。こいつは俺たちの最高傑作だ。こいつを託すんだから……絶対に、勝ってこいよ」
「もちろん」
「そして俺たちをこんな惨めな生活から解放してくれ。どっちかというとこっちが本音だ」
「ふふっ……まかせて!」
金槌を持ったまま奥の工房から出てきたロレンスと、親指を立てあい――
「じゃあ、行ってくる!」
「おう! 頑張れよ!」
ファルとハイタッチして、商店を出た。
その先に、腕を組んで木にもたれかかる青年が1人。
「まったく。僕1人にだけ挨拶もなしとは。貴女の人間性を疑いますよ」
「ごめんね。忙しいと思ったから」
「……貴女のためなら、仕事の1つや2つサボってみせますよ。ですから……僕からも、激励の言葉をかけさせてください」
「ありがとう、アラン!」
「その名で呼ぶのはやめていただきたい! ですが、今回だけは許しましょう。とにかく……無茶だけはしないでくださいよ」
「気を付けるよ」
「では、これを」
アーランドがトレード機能で送ってきたのは、インベントリに入りきらないほど大量の回復アイテム。
それも、性能が高く高級なものばかりだ。
「餞別です。貴女は特に消費が激しいですから、この程度では足りないでしょうが」
「十分すぎるってば。……ありがとう。アランの気持ち、確かに受け取ったよ」
「よ、用が済んだなら早く行ってください! 僕にだって、その、仕事がありますから!」
「うん。行ってくるね!」
アーランドと、店から顔を出していたファルとロレンスに見送られ、ボクは竜の渓谷が位置する山岳へ向かった。
「おまたせ!」
「カナタ、遅いわよ! ……これで全員ね」
山岳入口にはすでに、完全武装の『四葉』精鋭メンバーが揃っていた。
人選はアルナが行ったらしく、マルチパーティを前提にした極端なパーティ編成となっていた。
チームAは、アルナを中心にした前衛職特化型。槍術士、大剣士、戦士という前衛職3人に、回復役1人を加えた形だ。
チームBはクロがリーダーを務める美少女弓術士部隊。4人とも弓術士で構成されていて、後方支援を一手に引き受けるようだ。
美咲が中心のチームCは、回復特化の白魔術師3人+補助役の木霊術士という支援パーティ。
チームDとEは2人ずつしかいないけれど、どちらも魔術師系職業のみで構成された火力特化パーティだ。
アルナの指揮によって、さらなる力を発揮するマルチパーティ。彼らとなら、どんな敵とでも戦えそうだ。
「カナタ、本当によかったの? 私たちとパーティ組まなくて」
「うん。ボクはあくまでも『四葉』の攻略戦に同行するだけだから」
本音をいえば、もう一度アルナたちとパーティを組みたかった。
けれど、今アルナたちの横にいるべきなのはボクじゃない。
アルナたちにそのことを話すと、渋々ながらも了解してくれた。
今はみんな『四葉』のパーティ――チームAからCに分かれて参戦している。
「――頑張ろうね」
「あなたに言われなくても」
そしてボクは、今回もリネットとパーティを組ませてもらった。
レッド・ドラゴンに前回の借りを返すため。そして、必ず2人とも最奥に辿り着くために。
再びこの2人で、挑む。
「さぁ、行くわよみんな。ここが最後の正念場……になるかもしれないんだから、気合を入れなさい!」
「「「おぅ!」」」
アルナを先頭に、一行はゆっくりと渓谷の細い道を歩んでいった。
再び辿り着いた、竜の渓谷・中腹。
今回もここまで、リネットの『異分子』を一度も使わずに進んできた。
そのため消耗は激しかったけれど、代わりにリネットの余力は十二分に残されていた。
「……開けるわよ」
この先に、ボクたちが徹底を余儀なくされたレッド・ドラゴンが待ち構えている。
息を、準備を整えた後――アルナが、慎重に重い扉を開いた。
――GYAAAAAAAAAA!!
足を踏み入れると同時に、耳を劈くような2匹の竜の雄叫び。
しかし誰一人としてその咆哮にはひるまず、燦然と武器を構えた。
「行くわよ! チームB右翼、C左翼展開! チームD、Eは扉前! チームA……私に続きなさい!」
『FIGHT!』の文字が視界に表示されるよりも先に、アルナは全体の指揮を執る。
メンバーたちも、アルナの声とほぼ同時に行動を始めており――戦闘が開始されるころには、すべての準備が整っていた。
「……行こう!」
そして――ボクたちの再戦が、始まる。
「はぁぁああ!」
天井に張り付いて待機しているレッド・ドラゴンBは放置し、今まさにブレス攻撃を仕掛けようとしているレッド・ドラゴンAに急接近。
「特技連携――閃空翔! 三日月!」
上昇からの斬り上げによって顎を攻撃し、ブレスを中断させた。
「Bチーム必殺のぉ……じゅうたん爆撃ぃ! いっちゃってー!」
そこにクロ率いるチームB後衛の一斉攻撃が集中し、あっという間にレッド・ドラゴンAのHPを4分の1ほど削る。
すると――やっぱり、来た。レッド・ドラゴンBによる、空中からの強襲。
「させないわ。地を割りし蒼き奔流よ、その猛き意志を天へと注げ! 『スプラッシュ・ガイザー』!」
それを読んでいたリネットが、地面を割って噴き出す水流を召喚し迎え撃つ。
完全に止めることはできなかったが、レッド・ドラゴンBの加速はかなり抑えられた。
「くぅ!」
「ぐわぁ!」
レッド・ドラゴンB着地の衝撃により、前衛に立っていた『四葉』メンバーが大きく隊列を乱す。
レッド・ドラゴンAはその隙を見逃さず、バランスを崩した前衛たちを尻尾による攻撃で吹き飛ばした。
「問題ありません! 万物に宿りし生命の息吹よ、勇ある者たちに光の加護を! 『リザレクション・サークル』!」
部屋の床全体を埋め尽くすほどに広がった魔法陣が、限界まで削られた前衛たちのHPを急速に回復していく。
そしてすぐに前衛たちは再び立ち上がり、レッド・ドラゴンたちへと向かっていった。
白魔導師の回復術『リザレクション・サークル』。本来は対象者を中心に半径5mほどの範囲しかないはずだが、美咲が放ったそれは常軌を逸した大きさだった。
これほどの範囲をカバーするためには、相当数の使用による熟練度の上昇が必要なはずだ。
戦闘を怖がっていた美咲でさえ、こんなに強くなっている。ボクも負けていられない――!
「やぁぁああ!」
着地直後のレッド・ドラゴンBに接近し、怒涛の連撃。
一定数攻撃を受け、のけ反らない状態――スーパーアーマー化したレッド・ドラゴンBからは離れ、今度はレッド・ドラゴンAに連撃を叩き込んでいく。
その攻防が十数回に及ぼうとした時――
「前衛! どきなさい!」
アルナが張り上げた声によって、レッド・ドラゴンAに攻撃を仕掛けていた前衛たちが一斉に後退する。
つられてボクも後ろに下がると――
「王者の咆哮、大地を揺るがせ! その爪と牙で、立ちはだかるものすべてを切り裂け! 奥義・『獣王烈衝閃』!」
「うぉぉぉおおおおお! 奥義! 『轟天滅牙斬』!!」
「万物を叩き潰す神の鉄槌! 奥義・『神滅剛烈破』!」
チームAのアルナ、大剣士、戦士による、強力な奥義の連撃がレッド・ドラゴンAを直撃する。
どれも一撃必殺級のスキルを一身に受けたレッド・ドラゴンAは――
まだ安全域だったHPゲージを、一気に散らした。
「よぉし、倒したぁ!」
「まだもう一匹いるぞ! 気を抜くな!」
派手なエフェクトを放って消滅するレッド・ドラゴンAから即座に離れ、前衛たちはレッド・ドラゴンBの討伐へと取りかかる。
「どーよ!」
「アルナ、すごい!」
「私たちだってこの2か月遊んでたわけじゃないわ。カナタにだって負けないんだから!」
「ボクだって、負けないよ!」
槍を構えなおして突撃するアルナに次いで、レッド・ドラゴンBへと接近する。
そのまま、スーパーアーマー化する直前のレッド・ドラゴンBに攻撃しかけたところで――
「カナタ! パターンチェンジ!」
「! しまっ――」
片割れを倒したことで行動パターンを変えたレッド・ドラゴンBの攻撃を避けきれず、上方からの噛みつき攻撃をなんとか剣で受け止める。
この状態では『枝垂桜』も使えない。残された手段は攻撃が止まるまで粘るか、剣を捨てるか――
ボクは迷わず、剣を捨てる方を選んだ。
2本の剣を噛み砕くレッド・ドラゴンの眼前からバックステップで抜けだし、腰に残ったままの鞘をレッド・ドラゴンBの目元に投げ時間を稼ぐ。
「カナタ、大丈夫!?」
「なんともないよ」
「でも、武器が……!」
「――問題ない」
インベントリを開いたボクは、その『装備』欄にしまわれた2振りの剣を呼び出した。
腰に装着された、純白の鞘から――
「――はっ!」
迫るレッド・ドラゴンBの鼻先を弾きつつ、目にもとまらぬ速さで剣を引き抜いた。
「カナタ、それ――」
ボクの手に握られた、白銀に輝く刀身を持つ2振りの日本刀。
――妖刀『白桜』と『朧月夜』。
ファルとロレンスの意思が込められた、ボクが持つ最強の剣だ。
「ちょっ!? カナカナのそれ『日本刀』分類中最強のやつじゃん! どこで手に入れたの!? てか売って!」
「こらクロ! 今は戦闘中よ!」
「うー……でも、コレクター魂が騒ぐ……!」
クロがはしゃぐのも無理はない。この刀は、どちらも市場には出回っていない最高ランクの武器だ。
『白桜』は、王都で受注可能な最強武器獲得のクエストを達成して手に入れたもの。
『高レベル推奨』『片手剣を扱える職業以外は受注不可』『ソロのみ達成可能』というすさまじく難易度の高いクエストだったが、なんとか達成して現在に至る。
『朧月夜』はとあるダンジョンのボスが超低確率で落とす、MVPドロップアイテム。
クロが言っている『日本刀』分類最強はこちらの刀だろう。
調べたところ、どこで手に入るのか、どのモンスターが落とすのか、などの情報が一切出回っていないようだ。
わかっているのは、この武器が現在入手可能な『日本刀』の中で、最もレアリティの高い武器であることだけ。
それも、誰かが1度でも入手した武器がリストアップされる掲示板の『装備図鑑』で、一番下に表記されているからというだけの推測にすぎない。
その圧倒的な性能から、ゲームクリアの賞品とされている『最強武器』の1つであるとも考えられており、法外な値段で取引を募集するプレイヤーが少なからずいるそうだ。
ボクはファルとロレンスに頼んで、この2振りの剣を限界まで強化してもらった。
この武器なら間違いなく、ボクが期待している以上のダメージを叩き出すことができるだろう。
「ぐぬぬ……せめて! せめて1回だけ触らせて!」
「ダメって言ってるでしょ! ほら、来るわよ!」
ボクを噛み殺せていないことに気付いたレッド・ドラゴンBが、こちらに気付き顎を大きく開いた。
――もう一度、来る。
「ぎにゃー! やばーっ!」
「――大丈夫。任せて」
慌てて回避行動をとるクロたちの前に立ち、ボクはゆっくりと剣を構えた。
「枝垂桜――」
巨大な顎を開き、正面から迫る大敵。背後には守りたい人たち。
しかし圧倒的な質量を前には、避けることも、防ぐこともできない。
――水晶の洞窟と、同じシチュエーション。
前回はアルナたちを突き飛ばし、敵をギリギリ逸らすことで事なきを得た。けれど、今回もそれで上手くいくとは限らない。
だから今回は――受け流さない。
この場で、受け止めてみせる!
「『半天』!」
迫りくるレッド・ドラゴンBの牙に、ボクは右の剣『白桜』をピッタリと合わせる。
そして、牙と剣がぶつかり合う刹那――
ボクは右半身を、レッド・ドラゴンBと同じ速度で後ろに引いた。
これによって、ボクとレッド・ドラゴンBの衝突による衝撃は一瞬だけ0になる。
その間にボクは、今度は左腕を、同じ速度で前に出した。
これこそが反撃技『枝垂桜』の進化した姿――『枝垂桜・半天』。
受け止めた一撃をそっくりそのまま、同じ重さで――
――相手に、返す!
ズンッッッッッ!
鈍器のような音を立て、左手の剣『朧月夜』がレッド・ドラゴンBの額に直撃する。
頭蓋を割るほどの強力な一撃を受けたレッド・ドラゴンBは、HPゲージを派手に散らし――
地面に叩き付けられ、気絶した。
「あとは、任せたよ――!」
痺れて動かない左腕を庇いながら、ボクはその場を離れ――
本命の2人のため、道を開ける。
「待ってましたぁ! 神聖纏いし輝きよ! 我が前にその名を示し、悪しきを穿つ光となれ! ちょーひっさーつ……『アルテミス・ライン』!」
「冥府より生まれし氷の刃よ、断罪の剣となりて降り注げ! 『アイシクル・スプレッド』!」
クロが放った矢がレッド・ドラゴンBに突き刺さり、盛大に光をまき散らしながら破裂する。
さらに上空からリネットの放った無数の氷塊が落下し、レッド・ドラゴンBを直撃。
スタンにより防御ができないレッド・ドラゴンBは、2人の攻撃を一身に受け――
ついにHPを失い、消滅した。
「やった……!」
「うおおお――っ! レッド・ドラゴンを倒したぞぉー!」
周囲から大歓声が上がり、部屋は戦勝の空気に包まれる。
しかし、これはまだ中ボスを撃破しただけにすぎない。本当の戦いは、この先にある。
気を抜いてはいられない。でも今くらいは、勝利の余韻に浸ってもいいだろう。
「やったね、アルナ」
「えぇ、ひとまずはお疲れ様。休憩したら先に進みましょう」
ほどなくして勝どきの声も止み、再び戦闘ムードに。
全員が先に進む準備を整え終わると――レッド・ドラゴンが守っていた、奥の扉が開いた。
「ここから先はまた戦闘になるわ。みんな、気を引き締めていくわよ!」
アルナを先頭にして、みんな一斉に扉をくぐっていく。
しかし、その時。
――GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!
三度部屋に響く、レッド・ドラゴンの咆哮。
見上げると、天井を突き破って3匹目のレッド・ドラゴンが顔を出していた。
「再出現!? こんな早くに、嘘でしょ!?」
普通なら全員が部屋を出るまで行われないはずの、モンスターの再出現。
それが今、まだ部屋に人が残っているにもかかわらず、強引に行われようとしている。
明らかに異常だ。そして、こんなことを可能にするものは1つしかない。
「リネット! こんなことができる『異分子』は!?」
「……『No.10・刻限』。クールタイムなんかを操る『異分子』だけれど、応用すれば可能かもしれないわ。わたしが管理していたはずだけれど……悪い冗談みたいね。悔しいことに、起動してるわ」
「そんな! どうして!」
「わたしが手に入れるより先に、細工が施されていたようね。わたしがこの部屋を突破すると、この現象が発生するように。苦労せず手に入れられたと思ったら……お父様に、してやられたわ」
「……っ!」
リネットが『刻限』を手に入れ、ここに来ることが読まれていた。完全に天原の思う壺だ。
でもそれは、リネットがこの先に進めば天原に不都合が生じることを意味する。
この状況を何とか切り抜けられれば――FLO脱出に、大きく近づけるかもしれない!
(まずは、外に出た人の数を――!)
レッド・ドラゴンの再出現に連動して、部屋の出口が閉じられ始めていた。
このまま扉が閉まってしまえば、中に閉じ込められた人間は再びレッド・ドラゴンと戦う羽目になってしまう。
先の戦いのためにも、全員でここに残るべきではないだろう。
幸い、アルナを含め何人かは部屋を脱出している。あとは可能な限り、戦力を外に逃がすんだ。
「みんな! とにかく、急いで外へ!」
事態を飲み込めていない『四葉』メンバーたちだったが、ボクがそう叫ぶと、みんな無我夢中で扉へと駆けこんでいった。
あと中に残っているのは、ボクとリネット、そしてチームEの2人。計、4人。
しかし扉はもう完全に閉まろうとしており、全員が潜る時間はない。抜けられたとしても、おそらくあと1人。
「行ってください、カナタさん!」
「この先の戦いには、あなたが必要です!」
「――わたしなら1人でも勝てる。だから、早く行きなさい」
「くっ……」
武器を構えなおした3人が、そう言ってくれる。
でも、ボクは――!
「なっ――!?」
気が付けばボクは、リネットの服の襟を後ろから掴み、扉へと強引に放り投げていた。
床を転がりながらも扉にはぶつからず、なんとかリネットを扉の外に逃がすことに成功する。
「痛っ……あなた、何考えて!」
「ごめん。でも、最奥のボスに対抗できるのは、ボスの『異分子』を知っているキミだけだ。だから――あとは、キミに託す」
「ふざけ――」
リネットが言い終わるよりも先に、重い石の扉は、ズンッ! という重い音を立てて閉じ――
「そうは、させるかぁ――ッッ!」
――る前に、棒状の何かが回転しながら一直線に飛び、閉まろうとする扉と扉の間に横一文字に挟まった。
よく見るとそれは、鞘に収まったままの刀だ。
それに今の声。まさか――
「――タクト!?」
「よっ! 待たせたな!」
振り返った先にいたのは『侍』の少年、タクトと『踊り子』の衣装を身にまとったサナだった。
「ど、どうしてここに!?」
「アルナさんに、増援としてみんなを助けるよう頼まれたんだ。ピッタシなタイミングで駆けつけられたようでよかったぜ」
「立ち話してる余裕はないわよ。上からデッカいのが睨んでるし、タクトが投げた刀ももう限界。誰でもいいから、さっさと出てっちゃいなさい!」
「つーわけだ。ここは俺たちに任せて、お前らいっちょブチかましてこい!」
サナの言うとおり、すでにレッド・ドラゴンCは臨戦態勢に入っている。扉をせき止めている刀も、いつ砕けてもおかしくない状態だ。
「カナタさん!」
「行ってください!」
チームEの2人が笑顔を向けてくれる。もうこれ以上、彼らの厚意を無下にするべきではないだろう。
「……わかった。でも、その前に」
ボクは扉へと駆けながら、インベントリを開きとあるアイテムを呼び出した。
そしてそれを、サナを庇いつつレッド・ドラゴンCを睨むタクトに向かって投げる。
「タクト!」
「ん? うぉっ!」
「――使って!」
タクトに投げたのは、簡素な鞘に納められた寸詰まりの刀。
ボクが刀系の武器を使うようになったきっかけであり――タクトとの、思い出の武器。
「『アカバネ』……なんだよ、これ。レベル1でも使えるようなゴミ武器なのに……俺のメイン武器より強いじゃねーかよ! 強化しすぎだバカ!」
「いつかキミに返すために、できる限りのことをやっただけだよ。それがあれば……負けないよね?」
「ったりめーだ! こんな赤トカゲなんざ一刀両断してやんよ!」
「それじゃ――あとは任せたよ、みんな!」
「おう!」「任せなさい!」「了解しました!」「頑張ってください!」
部屋に残る4人と笑顔を交わし――
ついに刀が砕け、再び閉まり始めた扉へと駆け込む。
「間ぁ――にぃ――合ぁ――えぇ――ッ!」
膝を擦りむきそうなほど、勢いよくスライディングし――
ズンッ! という音が聞こえる直前、なんとか扉の先に抜けることができた。
「……もう。遅いわよ、カナタ!」
「ごめん。でも、セーフだよね」
涙を湛えながら抱きついてきたアルナの背中を、優しくなでながら――
「――行こう。この先に、ボクたちの望むものがある」
ボクたちは再び、険しい道を歩きはじめる。




