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Fantasia-Leap-Online  作者: 水無月 静
第一章   四葉の友
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いきなりのハプニング?

 人目もはばからず街中で叫んでしまったボクは、周囲からの好奇の視線を避けるために路地裏へと逃げ込んでいた。

 こんなところまでよく作りこんであるなぁ、なんて気を紛らわせてみるけれど、ボクに起こった異常が修正されるわけでもない。

 そう、ボクの身体は完全無欠に女の子になっているのだ。

 アバター生成の時までは、間違いなくボクは男の姿だった。しかしFLOにログインした瞬間、ボクの体は女の子のそれになっていた。

 服の下がどうなっているのかは確認していないから、まだ確証があるわけじゃない。でもわずかに胸が膨らんでいるし、履いているのもズボンではなくスカートなのだから、ボクが女の子になっているのは間違いないだろう。

 ひとまず建物の窓ガラスで自分の姿を確認してみると、そこにはボクではなく、ボクによく似た女の子の顔があった。

 風に靡く栗色の髪は若干肩にかかるくらいのショートカット。大きな瞳は青みがかっていて、見つめていると吸い込まれそうになる。小顔で鼻や頬のラインもすっきりしているので、低めの身長と合わさって小動物のようなイメージが醸し出されていた。

「これが今のボク……」

 小さく呟いたボクの声は、女の子らしいちょっと高めのアルトボイス。自分の声のはずなのにまるで別人だ。

「どう見ても、女の子になってる……」

 何度身体を見直しても、その姿が変わることはない。これはもう、諦めた方がよさそうだ。

「仕方ない、一旦おちてバグの報告をしてこよう。ちょっと出遅れちゃうのは残念だけど……」

 背に腹は代えられない。こんな身体じゃまともにゲームを楽しむこともできないし。

「えーと、ログアウトは……」

 指を横にスライドすると、視界に横に並んだメニュー画面が表示される。そこからログアウトを選択……しようとしたけれど、どこを探してもボタンがない。

 悩んでいると、このゲームのログアウトは各町にいくつかある転移水晶からしか行えない、と開始前に説明されていたことを思い出した。

 ここからだと一番近いのはログインした場所の近く、町の入口に置かれた水晶だ。でもそこに行くためには、どうしても大通りに出る必要がある。

 この姿で人前に出るのはすごく恥ずかしいけれど、こうなったらもう覚悟を決めるべきだ。おかしなことをしなければボクが男とバレることもないだろう。

「よし、行こう」

 白く細い女の子の足で、ボクは大通りへ静かに踏み込んだ。

 ――若干スカートの中がスースーするけど、今は考えないことにする。


「つ、着いた……」

 気付かれるのではないかとビクビクしながら、大通りを歩くこと数分。ボクは無事に転移水晶の前に辿り着くことができた。

 ほんのわずかな時間だったはずなのに、気を張っていたからか随分と長く感じてしまった。

「でも、これでようやく元に戻れるんだ……」

 水晶に手を触れると、視界にメニューと同じような画面が表示される。そこにあった『他の町へ移動』や『課金ショップへ移動』などの項目をスルーして、目当てのログアウトを……あれ?

「ろ、ログアウトがない!?」

 何度もメニューをスクロールさせてみるが、そこにログアウトのボタンはない。でも説明通りなら、ここで確かにログアウトできるはずだ。

「もしかして、バグ……?」

 ボクにこんなバグが起きてるんだ、ほかの部分にバグが発生していてもおかしくはない。むしろ、ボクなんかよりこっちの方がよほど深刻だ。

 とはいえゲームの中(こっち)からじゃ不具合の報告をすることもできないし……外の人が気付いてメンテナンスが入るまで、おとなしくしているしかなさそうだ。

「先延ばしかぁ……」

「ねえ君。ちょっといいかな?」

「へ?」

 肩を落とすボクの後ろから、誰かが話しかけてきた。振り向くと、そこにはボクより少し背が高い女の子が立っている。

 ポニーテールにした髪は、アバター作成時に色を変更したのか鮮やかな赤色だ。切れ長の目も、髪に合わせて瞳の色をカメリアにしている。身長から見てそう歳は離れていなさそうだ。

「え、えーと……何か用、かな?」

「うん、実は今パーティ募集してるんだけどね。君も一緒にどうかなって」

「うーん……」

 FLOでは4人までパーティを組むことができ、3人以上だと経験値や入手するアイテムにボーナスが入る。彼女はおそらく、それを狙ってるんだろう。

「その、どうしてボクに?」

 言ってから一人称がそのままだったことに気付いたけど、もう遅い。でも『ボク』が一人称の女の子もいないわけではないし、彼女も気にしていないようなので、一人称はこのまま通すことにしよう。

「んー、ほんとは誰でもいいんだけどね。やっぱり女の子同士が気楽かなーって思って、近くにいる女の子に片っ端から声かけてるの。でも収穫なくて。そこでちょうど君を見つけて話しかけたってだけなんだけど……それで、どうかな?一緒に来てくれる?」

 よかった。ボクの正体に気付いて話しかけてきたわけじゃないみたいだ。むしろ女の子だと思われてるようで、男としてはちょっとショック。

 でもそういうことなら、しばらくは一緒にいてもいいかもしれない。どのみちメンテが入るまでやることはないし。男だってバレないように気をつけなきゃいけないけど。

「……ボクでいいなら、構わないけど」

「ほんと?やったぁ!それじゃあフレを待たせてるから、一緒に来てくれる?」

「う、うん。わかった」

 ほかにも人がいるのか……

 あまりこの姿で関係を増やしたくないんだけど、今更断るわけにもいかない。

 バレないように気を付けるしかないか。

「あ、自己紹介を忘れてた。私はアルナよ。よろしくね」

「ボクはカナタ。よろしく」

「よし、それじゃあカナタ、いこっか!」

 手招きしながら大通りを進んでいくアルナを、ボクは小走りに追った。

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