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Fantasia-Leap-Online  作者: 水無月 静
第一章   四葉の友
22/37

ハプニングin洞窟探検

 ――ガラガラガラッ、ドスンッ!!

「いっ……たたた……」

 広場に突然空いた穴に落ちて、数秒。

 かなり深いところまで落下したはずだが、何かの山がクッションとなり一命を取り留めていた。

 それでも体力は大きく減ってしまっている。気を付けないと。

 見上げてみると、穴は遥か上にぽっかりと開いている。あそこまで登っていくのは難しそうだ。

「っとと」

 クッションになった何かに足を取られながら、壁の方まで歩いていく。

 それにしても、ここに散らばっているこれは一体何だろう。

 1つ拾ってみると、それはくすんだ白色の、細長い物体。両端は少し膨らんでいて、まるでバトンのような形状だ。

 どこかで見たことがあるような気もする。何だったか……

 ……まさか。

「ほ、骨!?」

 そう認識すると、途端にそれは骨にしか見えなくなった。

 実物は見たことがないけれど、間違いない。これは人骨だ。

 ボクと同じように、この穴に落ちた人たちのなれの果てなのだろうか……

 いや、NPCはダンジョンには入れないし、プレイヤーも本当の意味では死なない以上、これは最初からここに置かれていたもののはずだ。

 つまりは設定を強調するための、ただのオブジェクト。恐れる必要はない。

 そう自分に言い聞かせて、平静を取り戻した。

 落ち着いて、今度は骨の山の周囲を探ってみる。

 このどこかにアルナたちも落ちてきているはずだ。まずは合流しないと。

 けれど、付近を見回してみてもアルナたちの姿はなかった。もしかすると、もっと離れた場所に落下してしまったのだろうか。

 穴はかなり大きい。少し遠くに落ちてしまっていてもおかしくはないはずだ。

 もっと念入りに探すために、骨の山に沿って歩いていると……どこかから視線を感じた。それも複数だ。

 それが殺気だと気付いた瞬間、骨の山の裏側から、先ほどのゾンビたちが大量に飛びだしてきた。

 陰に身をひそめていたのか、後ろにも出現している。完全に取り囲まれてしまっているようだ。

 けれどここはタウンだ。戦闘は行えない。この群れをどうやって突破しようか……

 ダメ元で剣に手をかけ、引き抜く。すると、

「抜けた!?」

 広場ではびくともしなかった剣が、2本ともあっさりと引き抜けた。

 どうやら穴の下はダンジョンになっていたらしい。廃墟の地下にダンジョンだなんてよくある設定だけど、今回はその設定に助けられたかな。

 戦えるならこの程度の奴ら、どうということはない。

 早くアルナたちを探したいし、ここは一気に片を付けよう。

 群がってくるゾンビたちに背を向けるように、体を大きく捻る。

 そしてゾンビたちの攻撃が届く瞬間、ボクは溜めた力を開放し……

 高速回転とともに、飛び上がった。

「『閃空翔(せんくうしょう)』!」

 極限まで近づいていたゾンビたちは攻撃を止めることができず、逆に回転するボクの刃によって連続で切り裂かれてゆく。

 さらに跳躍して彼らを斬り上げ浮かせていることによって、回避行動もとらせない。

 トドメに、回転が途切れる寸前に剣を大きく振るって、巻き上げていたゾンビたちを吹っ飛ばす。

 これでほとんどのゾンビは戦闘不能だ。

 残ったゾンビたちもすぐに各個撃破していく。そうして数分と経たないうちに、周りのゾンビたちは全滅していた。

 ゾンビとはいえども所詮はモンスターだ。もちろんHPが尽きれば死ぬ。不死であったり、斬撃が効かないなんてことはない。

 このゾンビたちも、鼻の曲がるような腐臭を残しながらもすぐに消滅していった。

 急いだつもりだけど、少しは時間を取られてしまったはずだ。早くアルナたちを探さないと。

「アルナー! クロ! 美咲――――っ!」

 剣を収めつつ、大声でみんなの名前を呼ぶ。しかし声は壁に反響するだけで、返事は帰ってこなかった。

「おーいっ! みんなぁー!」

「…………カナタ?」

 それでも諦めずに何度も叫んでいると、かすかにだが、どこかからアルナの声が聞こえた。

 その声が聞こえたと思われる場所に近づき、もう一度声をかける。

「アルナ!」

「カナタ? カナタなのね!! よかったわ。無事?」

「うん。そっちは?」

「私たちも全員無事よ。HPも美咲が回復してくれたわ」

「そっか、よかった」

 アルナの声が聞こえたのは壁の向こうからだった。話を聞く限り、ボク以外の3人は全員壁を挟んだ向こう側に落ちてしまったようだ。

「どうやって合流しようかしら。テレポートは誰も使えないし……」

「この通路を進んだらどっかで合流できないかなぁ?」

「通路ねぇ……でも、危険じゃないかしら?」

 クロらしき声の提案にアルナが渋る。でも通路があるなら、こちらの通路ともつながっている可能性が高い。

 目が慣れてきたおかげで気付けたのだが、こちらにも通路がある。通路というよりは、壁に入口が開いた巨大な洞窟なのだけれど。

 アルナたちの言っている通路がこれにつながっていれば、必ずどこかで合流することができるはずだ。

「一度進んでみるのもいいと思います。行き止まりや、どうしても合流できなさそうなら『帰還水晶』で脱出すればいいんですし」

「……それもそうね」

 美咲の言うとおりだ。ボクたちは、使えば一瞬で最後に立ち寄った町に戻れる帰還水晶を全員有している。イザとなったらこれを使って脱出すればいいだけなのだ。

 安全策があるのなら、少しくらい冒険したって問題ないだろう。何より、ダンジョンを前にして何もせずに帰るだなんてつまらない。

 アルナもそれを理解してくれたのだろう。明るい声で応じてくれた。

「カナタ。私たちはこれから通路を探索するわ。カナタは……」

「ボクも進むよ。実は、こっちにも似たような通路があるんだ」

「わかったわ。なら、張り切って探索しましょ!」

「地下通路探検! れっつらごー!」

「灯りは私に任せてください!」

「絶対合流しましょうね、カナタ!」

「うん、絶対に!」

 かすかに聞こえたアルナたちの足音が遠ざかり、すぐに聞こえなくなった。通路の先に進んでいったようだ。

 ボクも進もう。真っ暗で数メートル先も見えない洞窟だけど、培った経験と五感を信じて。

 ……いや、灯りの代わりになる精霊を呼び出せるアイテム『スピリットランタン』を持ってるんだった。もし美咲とはぐれても灯りに困らないようにと、念のため買っておいたんだっけ。

 今回はこれを使おう。暗闇を進む覚悟を決めたばかりだけれど、やっぱり何も見えなければ戦闘すらできないからね。


 歩き始めて数十分。

 水晶の洞窟にいたのよりも巨大なネズミ型モンスター、ワーラットやトカゲのような亜竜型モンスター、リザードとの戦闘はあったけれど、大きなダメージを負うことなく洞窟を進むことができていた。

 アルナたちとはまだ合流できていない。どころか洞窟は曲がりくねっているものの一本道で、脇道の1つすら見つけられていなかった。

「わわっ、灯りが!」

 しばらく歩いていると、スピリットランタンの効果が切れ精霊が消滅してしまった。効果時間の30分が過ぎてしまったようだ。

 慌てて新たなランタンを使用し、精霊を召喚する。まだストックはあるけれど、この調子で使い続けていればすぐになくなってしまいそうだ。

 ランタンがなくなる前に、早くアルナたちと合流して脱出しないと。

「美咲がいればこんなことで困ったりしないのになぁ……」

 いないからアイテムを使用しているんだと分かっていつつも、そうぼやいてしまう。

 思えばFLOに入って以降、1人で行動するのなんて初めてなのだ。今までいろんな人に頼ってきたせいで、1人の不便さが際立ってしまっている。

 いつの間にか、誰かと一緒にいることが当たり前になってしまったようだ。

 今だって、振り返ればアルナたちがいるんじゃないかなんて思ってしまっている。らしくないな、ボク。

「そんな都合のいい話……って、えぇ!?」

 もちろんそんな都合のいい話なんかあるわけがなかった。

 ふと振り返ってみると、通ってきた道が何かによって塞がれてしまっていた。

 精霊を動かして確認してみると、それは赤黒い色をした、ぶよぶよとした大きな丸い物体。上部には口のような丸い穴が開いていて、そこからうねうね蠢く触手のようなものが無数に伸びている。

 まるで巨大な、イソギンチャクのような形状だ。

 調べたところ、名前はレッドローパー。元々は山賊の砦に出現する中ボスモンスターだったようだ。

 こんなものがどうやってここに入ってきたのだろう。脇道もない一本道なのだから、どこかから入り込んでくるなんてことはできないはずだ。

 ボクがいた骨の部屋からずっと追いかけてきていたのだろうか。いや、あの部屋にこんなものが隠れられるスペースなんかなかった。それにずっと追いかけてきていたのなら、気配や物音で気付くはずだ。

 となるとこのモンスターは、再出現する際にたまたまここに出現しただけなのだろう。もしそうならなんてタイミングの悪い……

 中ボスを1人で相手するのは無謀だ。ここはおとなしく逃げておこう。

「お前に構ってる暇はないんだ。ごめんね――――ッ」

 2、3歩後ずさり、振り向いてすぐさま駆け出した。

「あうっ!」

 ――べたーんっ!

 しかし、ローパーから伸びた触手に足を掴まれ、その場に顔から転倒してしまう。

「いたた……うわぁっ!?」

 起き上がろうとすると、今度は腰のあたりに触手が巻き付いた。さらに腕にも触手が絡み付いてくる。

 振りほどこうとするもそれ以上の力で引っ張られ、バンザイするような体勢に腕を伸ばされてしまった。

 こんなところで時間を取られるわけにはいかないのに……早く脱出しないと。

「んぅ…んん……!」

 しかしもがけばもがくほど、触手は強くボクの身体を締め上げてくる。そのせいで、ボクのHPも少しずつ削られてしまっている。

 しかもこの触手、ヌルヌルとした粘液を分泌していて非常に気持ち悪い。あまり長く絡み付かれていると頭がおかしくなりそうだ。

 このままじゃ二重三重の意味で大変なことになる。それはわかっているのに、抜けられない――!

「ひゃああ!?」

 ついに触手が――ふ、服の中にまで!?

 粘液を体中に塗りつけられて……き、気持ち悪い……!

「んっ――――くぅ、ぅん……や、やめ、ひぁ……!」

 身体をまさぐられるたびに全身に悪寒が走って、嫌悪感が止まらない。

 変な声も出てきてるし、本当に、このままじゃ……

「は……ぁぅ、あぁ……やぁぁ……」

 この粘液のせいだろうか……なんだかもう、意識が、遠く……


「切り裂け、暴風の刃――テンペスト・カッター!」


 そう声が聞こえた瞬間、ボクに絡み付く触手たちを風の刃が切り裂いた。

「――逃がさないわ。『短縮詠唱(コンセントレート)』発動、フレア・ボール!」

 さらに、触手を斬られ狼狽するローパーに向かって無数の火の玉が飛んでいく。倒しきるには至らなかったものの、深手を負ったローパーは骨の部屋の方へと一目散に逃げだしていった。

 今の魔法――誰かが助けてくれたのか。でもこんな洞窟の中に、一体誰が……

「大丈夫だったかしら」

「うん、ありがとう……って、君は!」

「あなたは……華姫(ペタルドール)?」

「その名前で呼ばないで!?」

 クスクスと小さく笑うその少女は、まぎれもなくリネットだった。

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