オシャレな"女の子"になろう
「こ、これは……!」
「カナカナ……ヤバいよ……!」
「カナタさん、かわいいです……!」
「うぅ……そんなにじろじろ見ないでよぉ……」
今ボクが着せられているのはレースの付いた黒いドレスのような服。いわゆるゴスロリだ。
ボクが何かを着るたびに彼女たちはこうして瞳を輝かせている。そうして一通りボクの姿を眺めた後、新たな服を持ってきてボクに着させていた。
こんなことを続けてもう2時間が経過している。しかし完全に疲れきっているボクとは対称に、アルナたち3人はますます元気になっているようだった。
「よーし、次はこれいってみよー!」
「待って。こっちも可愛いんじゃないかしら?」
「いいえ! 断固この服です!」
「何でもいいから早く終わらせてよ……」
ボクの呟きなど耳に入っていないようで、アルナたちは自分が選んだ服を押し付け合っている。いずれはすべて着ることになるのだから、ボクにとっては順番など些細な問題だけれど。
「はい、次はこれね」
「わかったよ……はぁ」
諦めの溜息を洩らしながら、ボクは再び更衣室に入った。
「今度はなんだろう……」
カーテンを閉め、手渡された服を広げて確認してみると、それは紺のブレザーと真っ白なシャツ、そしてチェックのスカート。どこかの学校で使われていそうな学生服だ。
「着やすそうなのでよかった、と言うべきかな……」
服がかかったハンガーを壁に掛け、ボクは今着ているゴスロリ服の背中についたジッパーを下ろす。するとすぐに服は脱げ、折り重なるようにして床へと落ちた。
そうして露わになる、ボクの裸体……!
「~~~~っ!」
慌てて視線を壁に移し腕で胸を隠すが、真っ白な肌は脳に焼き付いてしまった。
これだけは何度着替えをしても慣れることはない。今は自分の身体であるとはいえ女の子の裸なのだ。それを見慣れるなど、この先もないだろう。
その上今のボクは下着……いわゆる、ブラを身に着けていない。昨日着替えた時、自分の身体を見ることすらできなかったからだ。
何とかパンツだけは穿けたものの、ブラは目を閉じたまま付けることができなかった。おかげで柔らかそうな胸が直接視界に入ってきて目の毒だ。
「……」
ボクだって男だ。こうなってしまった自分の身体に、何も感じないはずがない。女の子の身体になっているという背徳感はいつも感じているし、この身体への好奇心も止められそうにはなかった。
「少し、だけなら……」
でもそれ以上に、もっと黒い感情が今のボクの胸の内には渦巻いてしまっていた。着替えによって何度も身体を見ているせいで、若干精神が揺らいでいるのかもしれない。
「少しだけなら、いいよね?」
その感情に突き動かされるようにボクはゆっくりと視線を下に向け、ほどいた腕を胸元に持っていく。
そしてついに、ボクの手のひらが、胸に、触れた……っ!
「カナター? 時間かかってるみたいだけど、大丈夫?」
「ひゃうっ!?」
「あれ、どうしたの?」
そこにちょうど更衣室のカーテンからアルナが顔を出した。その視線の先にあるのは、自分の胸を触るボクの姿。
これは確実に、バレた。
「い、いやこれはその、何ていうか……!」
「んー?」
振り向いたまま硬直するボクを、アルナはじっと見つめる。そうしてボクの全身、主に胸の周りを眺めまわしたアルナは、カーテンの隙間から右手を出して親指を立てた。
「心配しなくても大丈夫よカナタ。きっとすぐ大きくなるからっ!」
「え、うん。うん?」
「それじゃ私たち待ってるから、早く着替えて見せてね」
そう言い残し、アルナはカーテンを閉じた。
どうやら妙な勘違いをされてしまったようだ。とはいえそのおかげでこの窮地を脱出できたのだから、アルナにはこのまま勘違いしていてもらおう。
しかし安堵したのも束の間、笑顔のアルナが残した言葉をボクは思い出していた。
「やっぱり、小さいんだよね……」
元々小柄で痩せ型な体格だからか、女の子になったボクの胸はそれ相応に小さい。こうして手で包めばすっぽりと覆えてしまうほどだ。
スレンダーといえば聞こえはいいし、このサイズなら行動にも差し支えないけれど……どうせ女の子になるならもう少し大きくてもよかったのに、と心のどこかで思う。
「はぁ……」
謎の敗北感を感じながら、ボクは着替えを再開した。
その後さらに1時間ほど経ち、ようやくボクはアルナたちから解放された。
ショップにあったサイズの合うアバターすべてを試着し終えたからで、彼女たちが満足したわけではないけれど。
「やっぱりこの服がカナタには一番似合うわね」
「よく似合ってるよ、カナカナ」
「はぁぁ……かわいいです……」
結局アルナたちが選んだのは、白を基調とした制服のようなアバターだった。
腕の当たりに青いラインが入った純白のブラウスと、群青色のプリーツスカート。首元にはスカーフと一つになった大きな青い襟が付き、胸元は逆三角形に開いている。いわゆるセーラー服だ。
しかし若干丈が合っていないのか、おへそがちらちら出てしまうしスカートもかなり短い。クロによると「だがそれがいい!」らしいけど。
ほかにも普段着となる服を何着か買って、ボクの分のアバター購入は完了した。
「次は私たちね。カナタのを選んでる間にある程度の目星は付けてるけど」
「あたしもー。でもサイズだけ合わせなきゃだから取ってくるね~」
「私はまだ迷ってます……急いで選んできますね!」
「カナタ、悪いんだけど少しだけここで待っててくれる?」
「構わないよ」
「ありがと。それじゃ私も選びに行ってくるわね」
ボクがうなずくと、アルナは先に行った2人を追って洋服コーナーへと入っていった。
「さてと……」
手持ち無沙汰になったボクは、改めて店内を見渡してみた。
日が暮れ始めてお客が少なくなっているけれど、それ以外には入ってきたときと大きな変化のない店内。そこにある服は当然すべて女性物だ。
男であるボクはここではすごく場違いだけど、今は女の子になっているため、外見的にはここにいたって何の問題もない。でもそれがかえってボクの背徳感を強めてしまっていた。
そんなことを考えていると、ボクの胸に以前も感じたことのあるチクリとした痛みが生じる。
「いつかは、言わなくちゃいけないよね……」
さっきはアルナの勘違いで難を逃れたけれど、何度もあんな風に逃れられるわけじゃない。いずれ必ずバレる時がくるはずだ。
それより先にボクの口から事実を伝えければならない。みんなを騙してきたことに対する謝罪と一緒に。
でもそれを行うための心の準備をボクはまだ整えられていない。
だからもう少しだけ、今のままの関係を続けていきたいと切実に思った。
「ごめーん! カナタ、おまたせー!」
「アルナ? もういいの?」
「うん、買いたい服は決まってたから。それよりもサイズを合わせるのに苦労したわ。私って身長はそれなりにあるけど、その、クロみたいに大きくないから……」
「そ、それは……」
確かにアルナは背が高いし細身だけど、身体の凹凸は控えめだ。それでもボクほど小さいわけではないのだから、恥ずかしがる必要もないと思うけど……それは乙女心の分からないボクが言うことじゃないだろう。
「とにかく! クロと美咲は今お会計してもらってるから、私たちは外で待ってましょ」
「そうだね」
アルナと一緒に外に出ると、ほどなくしてクロと美咲が店から出てきた。その腕には大量の紙袋が下げられている。2人ともインベントリに入りきらないほど服を購入したようだ。
「クロってば、またそんなに買っちゃって。無駄に買いすぎるなっていつも言ってるでしょ? 美咲も、かわいいってのはわかるけどほどほどにしておきなさい?」
「へーきへーき。製造の費用分くらいはちゃんと余らせてあるから」
「この服たちがかわいすぎるからいけないんですよぅ……」
「はいはい。何でもいいから、今度から気を付けるようにね。それよりも早く宿に行きましょ。私もうクタクタだわ」
腰に手を当てため息を吐くアルナ。ボクを着せ替えてる時は全然疲れた様子なんか見せなかったのに……女の子って、やっぱり分からない。
「あたしもー。みさきち、案内してくれる?」
「はい! 任せてください!」
うなずいた美咲が先頭に立って歩き出す……が、数歩歩いたところで手に下げた紙袋をいくつか地面へと落とした。
「あっ。ごめんなさい、すぐに……あ、あれ? あわわわっ」
落とした袋を拾おうとして、別の袋を落とす美咲。それが何度か繰り返され、ボクたちはとうとう見ていられなくなった。
「……どこかに、すべての町で出し入れが可能な倉庫があったはずだよ。まずはそこに2人の荷物を預けるといいんじゃないかな」
「カナタの言うとおりね。このまま美咲に荷物を持たせたままだと危なっかしいわ」
「すみません……」
先に町のはずれにあった貸し倉庫に2人の荷物を預けてから、ボクたちは改めて美咲の案内で宿へと向かった。




