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おだやかなもの  作者:
2/8

飾り付け

 

 まあ、見た目はかわいいんだが、とにかくどーしようもない猫だった。

 だった、というのは、一年前に死んじゃったからなんだけど……。ただまぁ、交通事故にもあわず二十年生きたわけだから大往生なんだろうね。

 で、その時のキャンディの様子はというと、こっちは逆に、異様な盛り上がりに対して、びびり気味だった。

 さすがに、歯を剥き出しにしたり毛を逆立てて威嚇するってほどではなかったんだけど、まあ見知らぬ人間が入ってきているわけだし、当然と言えば当然の反応なのかもしれない。

 そんなこんなで、クリスマスの日、家に帰ってきた姉とケイトに俺を加えて、玄関のすぐそばに植えてある柿の木に、飾りつけをすることになった。いわゆるクリスマスツリー作りってやつだね。これが楽しいんだ。柿も葉っぱも全部落ちちゃってたけど、これはしょうがない。きっと世界に一つしかない風変わりなツリーができるぞって、ワクテカしてた。

 話は変わるけど、遠足の楽しみというのは何かっていうと、実は当日ではなくて、お菓子とかそのほかに持っていく物をリュックに詰め込んで準備する前の日こそが、一番テンションの上がる時だったりする。あしたちゃんと晴れればいいなーとか考えながら、てるてる坊主を作ったりして、ちょっと興奮気味にそわそわとしてしまうあの感じ。夜が明ければ楽しい一日がやってくるという希望を存分に味わえた。

 そして、それはクリスマスにも同様のことが言えた。朝起きて、実際にプレゼントを枕元に見つける時はもちろん嬉しいんだが、それよりもその前の段階のほうがドキドキしたりしてね。

 まあとにかくそんなわけで、三人和気あいあいとしながら、小さい箱とか玉とか手袋とかの飾り物を結び付けていったんだ、枝が剥き出しの柿の木に。

 もともとツリーの飾り物ってのは家にストックしてあって、飾りつけは毎年の恒例行事だったんだけど、本当に楽しかったんだよね、あの時は。いろんな意味で。

 こう、木の枝に飾り付けの作業をやっていると、隣りに立つケイトが少しかがんだりする。すると、その豊満でやわらかそうな胸が、ちょうど自分の顔あたりに近づいてくるんだ。少し腕を伸ばせば、手の甲が触れてしまいそうなほどの位置に接近していたんだ。そうすると、俺の心の中ではエマージェンシーを告げる警笛が鳴り響くんだよ。言ったら、理性が命令して心の赤色灯のようなものが回転し始めていたかもしれない。

 ――自重、自重、それ以上……。

 って。

 俺の中で、顔面に向かってものすごく血が急上昇してくる感じだった。すると、彼女のキュートな顔のその下で、セーター越しの柔らかそうな膨らみが、まさに俺の目と鼻の先でプルンッ……。揺れたんだ!

 スラリと伸びたカモシカのような足がミニスカートの中から嫌でも視界に入ってくる。きれいだったなあほんとに。

 ひととおり飾り付けを終えた俺たちは出来上がったツリーを眺める。よくできたってケイトも喜んでたよ。そして三人で周りの後片付けをして家の中へ入ったんだ。

 その時にはもう空が暗くなりかけていた。雲もだいぶ出てきていたんじゃなかったかな。

 家の中では母親が夕食の準備をしていた。普段は台所に立たない婆ちゃんもなんか台所でがさがさやっている様子だったので、あれ、珍しいなと思った気がする。

 爺ちゃんは見当たらなかった。家には爺ちゃんと婆ちゃんの部屋が一つあったんでそこにいたのか、さもなければどっかに出かけてたのかもしれない。

 俺たち三人はとりあえず居間にあるテレビでゲームをやっていた。ゾンビを殲滅していくっていう、まあ流行りのゲームだったんだけど、クリスマスだってのに盛り上がったね。部屋の飾り付けは特にやらなかったな。

 そうしているうちに台所のほうから「そっち片付けてー」という声が聞こえてきた。料理が出来上がったみたいで、ゲームをやめて本体を片付けた。もう母親と婆ちゃんが料理の乗った皿を運び始めた。豪勢なメニューが並んだかというと、そうではなかった。いつもの料理と全然変わらない。ただ鶏のモモ肉があったのでそれらしい雰囲気はあった。あの足の先の部分がアルミホイルで包まれているやつだね。普段お目にかかるようなものじゃなかったから、クリスマスらしさは感じた。

 俺は「父さんいつ帰ってくるの?」と母親に聞いたんだが、どうも仕事で遅くなるって言われたと思う。




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