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おだやかなもの  作者:
1/8

クリスマスって?

 

 クリスマスというと、たいていは家族や友達なんかでパーティーをしたりだとか、恋人どうしであんなことやこんなことをして楽しんだりするのが、まあ一般的な傾向というものだろう。

 また、子供達にとっては一年に一度確実に、しかも安全な環境下で、夜の怪異に触れることのできる素晴らしい日でもある。それに加えて、プレゼントまでいただけてしまうというのだから、こんなにおいしいことはない。

 そういったもろもろの事どもというのが、いわば普通のクリスマスの光景であるはずだ。

 しかし、俺が子供のころに体験したクリスマスは、それらとはかなり掛け離れている。

 あれは小学校四年生のときのことだったんだが、どう考えても普通じゃないクリスマスだった。


   ◇◇◇


 俺には年の離れた姉貴がいる。姉は当時、高校生だった。

 その姉のつながりで、イギリスから向こうの女子高生がホームステイすることになった。はるばると海を渡って、俺の家へとやって来るということだったんだ。

 夏休みに、姉がイギリスへショートステイしに行ったとき、そのホストファミリーに姉と同い年の女の子がいた。

 それで、機会があれば是非その子も日本に来てみたいということで、今回のホームステイの運びとなったらしい。

 しかしよりによって、なぜクリスマスの時期を選んだのだろう。当時の俺は少なからずそういった疑いを心に抱いていた。

 しかし姉から聞いたところによると、彼女の家庭はそういったことに関してはわりと無頓着だったようで、むしろ異国の地でのクリスマスを楽しんでこい、ぐらいの感じだったみたいだ。

 今考えると学校が冬休みに入る時期なわけだから、まあいいのかなとは思う。ただ、どっかでなんかおかしいような気がするのも確かだ。

 まあとにかく、その子は我が家へとやってきた。クリスマスの時期に。

 俺はまだガキんちょだったけど、いざ彼女が家にやって来たら、ちょっと戸惑ってしまった。というか、実を言うと、かなりびびってしまった。

 生まれて初めて外国人が家に来るというのも、確かにその理由の一つではあった。だが真の理由は別にある。彼女は、いわゆる中世ヨーロッパ風ファンタジー世界から異世界転生してきたかのような、とんでもない美少女だったんだ。

 当時の俺の年齢からすると、はっきり言ってメチャメチャ綺麗というか、いやそれはもう、もはやハイファンタジーの女神の域に達するほどに高いスペックを持ち合わせてしまっていたんだ。

 なんというのか、彼女がいるだけで、俺の住んでいるいかにも平々凡々とした一戸建て住宅が、まるで王侯貴族の豪奢な館、いやそれどころか、いにしえにその存在をうたわれた聖なる神域であるかのような錯覚すら感じてしまったほどだ。

 とにかく彼女は、尋常ではない神的でキュートすぎる美少女だったんだ。

 その彼女がやって来て、まだ年端のいかない俺に対して「ハロー!」なんて声をかけた日にはもう、感動なんてもんじゃなかった。

 俺はその場で昇天した挙げ句、さらに天を音速で突き抜けていくような快感を覚えてしまった。おまけに、魂に縄をかけられて、ぎりぎりと縛り上げられ、心の中のどこかが苦しくなるほどの切なさすら感じていたんだ。

 今でもよく思い出すんだが、本物の金塊みたいな色をしたストレートロングヘアーと透き通るようにまっ白くみずみずしい肌、そして象牙細工のように端正な顔立ちで、魅惑に満ちた大きく青い瞳と雌しべのような長い睫毛。均整のとれたしなやかな身体には豊かに実った形の良い胸。甘い息をもらすさくらんぼ色の唇にはドキドキがとまらなかった。

 加えて濃紺色のブレザーにクリーム色のなめらかなセーター。V字に開かれた胸元には白いYシャツの上に乗ったやわらかそうなリボンネクタイが、上品に乗っている。目線を少しずつ下に降ろせば、プリーツの入った細めのクロスラインでチェックのミニスカートが、ひざのかなり上のほうでひらめいていて、そして白くまぶしいももをはさんで黒いニーハイソックスという、もはやテンプレとしか言いようのない制服を身にまとっていたと思う。

 なぜ制服姿だったのかはよくわからない。いや、理由は確かあったと思うが忘れてしまった。

 後になって姉から聞いたんだが、彼女は姉の通ってる高校にも顔を出したらしい。そして校内で、鬼モテ超リア女子先輩(逆ハーレム有り)が彼女を見そめ、のちに告白までしたそうなんだ(百合化?)が、これはまた別の話。

 ちなみに姉の外見はというと、これは十人並みだ。何かと小うるさいとはいえ、俺にとっては良い姉なんだ。この点はいちおう書いておくことにする。


    ◇◇◇


 そんなわけで、家では超絶金髪美少女を向かえて、クリスマスを祝おうってことになった。

 あ、彼女は名前をケイトっていうんだ。普通なんだけどね名前は。

 既に学校は休みになっていて、姉はケイトを街中へ案内してまわったみたいだ。

 ケイトは見る物全てに好奇心を抱いて、あれは何? それは何に使うものなの? と、姉に質問をしまくったそうだ。

 特に彼女が興味を引いたのは屋根のついた堂に入ったお地蔵様みたいで、「サンタクロースと同じだ」みたいなことを言ったらしい。あの頭にかぶった赤い頭巾と、体にかけられた赤い肩掛けが、サンタの帽子と赤いローブにそっくりだって。これは仏教世界での聖者みたいな方だと説明したらしいんだが、それを聞いてやはりサンタクロースじゃないかと返されたそうだ。

 姉は笑いながら、こうするとプレゼントがもらえるんだとか言ってケイトをうながし、お地蔵様の前で手を合わせたらしい。「いつもお守りいただきありがとうございます」って。

 我が家のクリスマスはそれまでわりと地味めのものだったんだけど、本場からお客さんも来たことだし、今年は本物のサンタさんに会えるかもねぇなんて母親が言うもんだから、俺のテンションはもう、いきなりクライマックスのさらに上を行くほどうなぎ登りだった。懐かしい言葉かもしれないけど、まさにヘブン状態だったね。……小学校四年生なりのだけど。

 家族はといえば、こちらもやはりみんなテンションが高かった。

 俺んちの家族は両親、姉、祖父母、そして俺、猫の六人プラス一匹構成。

 猫の名前はキャンディって言って、姉が名付けたんだけど、これがまぁその……。ここでは言えないんだけど、とんでもないやつでね。




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