S字フックを引っ掛け回る女
世の中には、理解できない趣味を持つ人々が存在する。
理解されたいのか。
はたまた、理解されたくないのか。
それとも、ただ見てほしいだけなのか。
ここは——
変わった趣味を持つ者たちが集う場所。
『カワシュミの館』
「司会は私、館主の——」
「黒岩です!」
「そしてアシスタントの——」
「はい!!
それではぁあ?
今回ご紹介するのはこの方!!」
軽やかな足取りで現れたのは、
小柄な女性だった。
首からカメラを提げている。
ポケットには——
無数のS字フック。
「汐川刹那と申します。」
年齢不詳。
笑顔は明るい。
だが目が、どこか落ち着いていない。
「んでわぁ?
あなたのー?
変わった趣味、ワッツ!?」
「はいっ!」
元気よくうなずく。
「わたしはですね、
S字フックを引っ掛け回るのが趣味です!」
「ほぅ」
「いろんな場所にですね、
かけてみるんです」
「例えば?」
「電車の手すり」
「公園のフェンス」
「自転車のカゴ」
「信号機の支柱」
一拍。
「そして——」
彼女は、
少し誇らしげに言った。
「かけては、写真を撮るんです。」
黒岩、静かに目を細める。
「……それは、
何が楽しいんですか?」
「ままならなーい、
って思うんです」
「ままならない?」
「はい」
「まぁーまならなぁーい♡きゃはっ」
彼女は、
遠くを見るような目をした。
「人生って、
思い通りにならないじゃないですか」
「でも、
S字フックは」
一拍。
「だいたい、かかる。」
スタジオ、沈黙。
……
……
黒岩、ゆっくりとうなずく。
「なるほど」
「なるほどねぇ…うーん」
そして——
深く息を吸う。
……
……
「……かっはぁー…」
カメラ目線。
ゆっくりと寄る。
「クソビッチアンビシャスだな。これ。」
スタジオ、凍る。
「えっ?どういう意味ですか?どう湯呑みじゃなく」
刹那、少しだけ困惑する。
「川口」
「はい」
「つまみ出して。」
「どうぞ!!」
川口が、
合鴨ローストを差し出す。
「だから違うって!!
人をつまみ出せと言ってるんだよ!!」
「つまみだせと…今回ばかりはこっちかなと…」
「鴨は好きだが、今じゃない!!!」
刹那、
静かにカメラを構える。
カシャ。
「……今の、
かかりました」
——ここでCMが入る。
*
CM明け。
川口が、
口を尖らせている。
腕を押さえている。
「……刺すって…っすぅ…」
小さくつぶやく。
黒岩、何事もなかったように進行する。
「はい!!ねえぇ、いかがだったでしょうか?」
カンペを見る。
「次回は——」
一拍。
「様々な標識を音読して歩く男」
「おおおお!!」
「楽しみですなーー!!」
「また来週!!」




