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多額の借金を抱えた俺、マグロ漁船に乗る直前に『サーモン狂いの天才令嬢』に拾われました。 〜ミステリーは彼女が解く。俺は物理で死なないように頑張る〜  作者: @gamakoyarima
1章 黄金の鮭消失事件 〜その鮭、時価3億円につき(ただし生臭い)〜

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15/17

15笑

「おいしそ〜う!」


「なんだこの輝きは! まるで宝石箱をひっくり返したようだ!」


「『サーモン・サピエンス』? よくわからんが、食べた者が新人類になれるということか? 素晴らしい! いくらだね!?」


会場は、狂気に包まれていた。 いや、違う。 こいつらは「金持ちすぎて危機感という神経が麻痺している」のだ。


モニターの不気味な犯行予告も、会場のロックも、彼らにとっては「西園寺家が用意した余興サプライズ」にしか見えていない。


目の前には、七色に発光する毒入りムニエル。 VIPたちは、よだれを垂らしてナイフとフォークを構えている。


「やめろォォォッ! それは毒だ! 食べたら鮭になるぞ!」


俺は絶叫しながら、最前列のテーブルにスライディングした。


「いただきまー……ぐべらっ!?」


石油王(推定)がフォークを口に運ぶ寸前、俺の回転蹴りがテーブルを直撃。 ガシャンッ!! 皿ごとムニエルが宙を舞い、シャンデリアに激突した。


「な、何をする君は!」


「命拾いしたな石油王! 礼はいらねぇ、とにかく口を開くな!」


「カケル! 右です! IT長者が口を開けていますわ!」


アリスがステージ上から指示を飛ばす。 彼女はマイクを奪い取り、演説をぶっていた。


『皆様、聞いてください! その鮭は腐っていますの! 賞味期限が3年切れてますわ!』


「嘘つけ! こんなに光っているのに!」


「発酵して光っているのです! お腹を壊しますわよ!」


(苦しい言い訳だ! でもそれしかねぇ!)


「ええい、邪魔だ小娘! ワシは新しい味に飢えているんじゃ!」


IT長者が強引にムニエルを頬張ろうとする。 その瞬間。


ヒュンッ!


銀色の閃光が走り、長者の手からフォークが弾き飛ばされた。


「なっ!?」


「食事のマナーがなっていないぞ。……『待て』と言われたら待つのが犬だ」


ポーラだった。 ドレスのスリットからナイフを取り出し、投擲したのだ。 彼女はテーブルの上に仁王立ちし、VIPたちを睨みつけた。


「全員、その手にある銀食器を置け! さもなくば、次はカツラを狙うぞ!」


「ひぃぃっ! 私の植毛が!」


「カケル、ポーラ! キリがありませんわ! ウェイターを止めて!」


アリスの言う通りだ。 洗脳されているのか、あるいは何も知らないのか、ウェイターたちは機械的に毒入り料理を配り続けている。 その数、50人以上。 多すぎる!


「くそっ、どけ! 俺の前を塞ぐな!」


俺はタキシードの袖をまくり上げ、ウェイターの群れに突っ込んだ。


「失礼します!」


ドゴッ!(ボディブロー)


「お客様、配膳は中止です!」


バキッ!(手刀)


「お皿、お下げしますねー!」


ガシャーン!(テーブルごとひっくり返す)


俺は会場を走り回り、配膳カートをなぎ倒し、VIPの手から皿を奪い取った。 もはやテロリストだ。 どう見ても俺たちが乱入者だ。


「警備員! 警備員は何をしている! この暴漢を取り押さえろ!」


VIPの一人が叫ぶ。 しかし、警備員たちは動かない。 彼らは壁際で直立不動のまま、虚ろな目で宙を見つめていた。


「……おい、様子がおかしいぞ」


俺はウェイターの一人の腕を掴んだ。 反応がない。 目が焦点合っていない。 そして、その首筋には……小さな**「赤いうろこ」**のようなものが浮き出ていた。


「嘘だろ……。こいつら、もう感染してやがるのか!?」


「カケル! 下がれ!」


ポーラが叫び、俺を突き飛ばした。 その直後、ウェイターが隠し持っていたナイフを振り下ろした。


ザシュッ!


俺がさっきまでいた空間が切り裂かれる。


「ギギギ……サーモン……サーモン……」


ウェイターが呻く。 その声は人間のものではなかった。


感染拡大パンデミックだ……! 料理を食べる前から、もう始まっていたのか!」


「空気感染!? いいえ、違いますわ!」


アリスが天井を指差した。 空調の吹き出し口から、薄っすらとピンク色の霧が噴き出している。


「スプリンクラーです! 霧状にしたウイルスを撒いていますわ!」


「料理はおとりかよ! 手が込んでやがる!」


会場に悲鳴が上がり始める。 霧を吸い込んだVIPたちが、次々と喉を掻きむしり、倒れていく。 そして、数秒後にはゆらりと立ち上がり――


「ギギ……サケ……サケ……」


虚ろな目で、まだ感染していない人間(俺たち)を見つめた。


「ゾンビ映画の開幕だ……!」


俺は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。 扉はロックされている。 会場は鮭ゾンビで溢れかえっている。 そして俺たちの武器は、空手とナイフと扇子だけ。


「お父様! お父様はご無事ですか!?」


アリスがステージ上の剛三ごうぞうに駆け寄る。 剛三はマイクを握ったまま、呆然と立ち尽くしていた。


「……アリスか」


「お父様! しっかりして! 息を止めて!」


「ああ……私は大丈夫だ。この『剛毛』がフィルター代わりになっているからな」


剛三は自慢の口髭を撫でた。 (鼻毛じゃなくて口髭で防げるのかよ!)


「しかし……私の可愛いゲストたちが……」


剛三の目の前で、長年の友人が、ライバル企業社長が、次々と鮭ゾンビへと変貌していく。 剛三の顔が、怒りで赤く染まっていく。


「許さん……。私の晩餐会を、私の鮭を……こんな化け物の宴にするとは!」


剛三がタキシードを脱ぎ捨てた。 その下から現れたのは、鋼鉄のような筋肉の鎧だった。


「アリス、カケル! 道を開けろ! 私が直々に『害虫駆除』をする!」


「お父様、無茶ですわ! 相手はゾンビですのよ!?」


「関係ない! 西園寺家に手を出したことを後悔させてやる!」


剛三がゾンビの群れに飛び込んだ。 ドゴォォォン!! 一撃で3人のゾンビが吹き飛ぶ。強い。強すぎる。 だが、数は圧倒的だ。ゾンビたちは痛みを感じないのか、すぐに起き上がって襲いかかってくる。


「くそっ、キリがない!」


俺もゾンビを蹴り飛ばしながら叫んだ。


「元凶を叩くしかない! あのマスク男だ!」


俺は会場を見渡した。 さっきモニターに映っていたマスク男。 奴のホログラムは、ステージの袖で俺たちをあざ笑うかのように手を振っていた。


「あそこだ! ホログラムの投影機があるはずだ!」


「行きましょうカケル! ポーラ、お父様の援護を!」


「任せろ! 爺さんの背中は私が守る!」


俺とアリスはゾンビの包囲網を突破し、ステージ袖へと走った。 そこには、一台のプロジェクターと……一人の男が立っていた。


黒いパーカー。 フードを目深に被り、片手にはバナナ。 そしてもう片方の手で、コンソールを操作している。


「……兄様ッ!!」


アリスが叫んだ。 男がゆっくりと振り返る。 フードの下から覗く顔。 それは間違いなく、西園寺サーモンだった。


「やあ、アリス。カケル君。……遅かったね」


サーモンはバナナの皮をむきながら、淡々と言った。


「兄様……どうして? まさか本当に、貴方が黒幕ですの?」


アリスの声が震えている。 俺も拳を握りしめた。 さっきまで一緒に解析して、世界を救おうとしていたじゃねぇか。 全部演技だったのか?


「黒幕? 人聞きが悪いなあ」


サーモンは一口バナナをかじり、ニヤリと笑った。


「僕はただ……『実験』をしたかっただけさ」


「実験……?」


「そう。父さんの計画が本当に世界を変えられるのか。そして……」


サーモンは視線を会場に向けた。 そこには、暴れまわるゾンビたちと、それをなぎ倒す剛三の姿がある。


「『最強の生物』は、鮭なのか、人間なのか。その答えを知りたくてね」


「ふざけるな!」


俺は怒鳴った。 そんな好奇心のために、これだけの人が犠牲になったのか。 2億円の借金よりも、俺はこいつの軽薄な悪意に腹が立った。


「許さねぇ……! 兄貴だろうが何だろうが、ぶっ飛ばして止めてやる!」


俺はサーモンに向かって踏み込んだ。 距離は5メートル。 空手の間合いなら一瞬だ。


「正拳突き!」


俺の拳がサーモンの顔面を捉える――その直前。


ガシッ!


「え?」


俺の拳は、サーモンのてのひらで軽々と受け止められていた。


「いいパンチだ。……でも、遅いよ」


サーモンが軽く手首を返す。 それだけで、俺の体は宙を舞い、壁に叩きつけられた。


「がはっ!?」


「カケル!?」


嘘だろ。 俺の正拳突きを、あんな細腕で? こいつ、ただのオタク科学者じゃないのか?


「言っただろう? 僕は『究極の鮭』を探して旅をしていたって」


サーモンはバナナを食べ終え、皮を床に捨てた。


「その過程で、熊とも戦ったし、滝も登った。……僕の身体能力は、すでに人間を超えて『鮭』の領域にあるんだよ」


「意味がわかんねぇよ!」


絶望的だ。 頭脳は天才。身体能力は人外。 そして会場はゾンビパニック。


「さあ、実験の続きをしようか」


サーモンがコンソールの赤いボタンに指をかけた。


「これを押せば、スプリンクラーの出力が最大になる。会場内のウイルス濃度は100%……誰も逃れられない」


「やめなさい兄様!」


アリスが扇子を構えて立ちはだかる。


「私が相手です! 西園寺家の恥は、私がすすぎます!」


「アリス、君に僕が止められるかい? 昔から泣き虫だった君に」


サーモンの目が、冷酷な光を放つ。 兄弟対決。 しかし、戦力差は歴然だ。


万事休す。 そう思った時だった。


『――ちょっと待ったぁぁぁッ!!』


天井の通気口から、聞き覚えのある野太い声が降ってきた。 そして、ドサッ! という音と共に、巨大な影が落下してきた。


「痛ってぇ……。着地失敗した……」


土煙の中から現れたのは、作業服を着て、スコップを構えた巨漢。 庭師の土門どもんだった。


「ど、土門!?」


「……穴を掘っていたら、ここに出た」


土門はむくりと起き上がり、サーモンを見た。


「……坊ちゃん。久しぶりだ」


「やあ土門。相変わらずモグラみたいな生活してるね」


「坊ちゃん……。悪いことは言わねぇ。そのボタンから手を離せ」


土門がスコップを構える。 その全身から、ただならぬオーラが立ち上っていた。


「俺の庭(屋敷)を荒らす奴は……たとえ坊ちゃんでも、埋める」


(こいつも強キャラだったのかよ!?)


役者は揃った。 鮭ゾンビ、最強の親父、裏切りの兄、そして穴掘り庭師。 カオス極まる晩餐会で、俺たちの最後の戦いが始まろうとしていた。

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