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多額の借金を抱えた俺、マグロ漁船に乗る直前に『サーモン狂いの天才令嬢』に拾われました。 〜ミステリーは彼女が解く。俺は物理で死なないように頑張る〜  作者: @gamakoyarima
1章 黄金の鮭消失事件 〜その鮭、時価3億円につき(ただし生臭い)〜

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13/17

13笑

「……天井だ」


俺、赤城カケルは目を覚ました。 知らない天井……ではない。見慣れた西園寺家の、無駄にシャンデリアが輝く客室の天井だ。


体中が痛い。 昨夜の「時速200キロ・キッチンカー・ダイブ」の代償は大きかった。 全身打撲。筋肉痛。そして何より、精神的な疲労。


だが、俺の心は晴れやかだった。


(終わったんだ……。俺は源三を倒し、チップを取り戻し、西園寺家の危機を救った。きっと剛三お父様も感謝して、借金をチャラにしてくれるはずだ!)


「目が覚めましたか? 我が家の英雄さん」


サイドテーブルの椅子に座っていたアリスが、優しく微笑みかけてきた。 窓から差し込む朝日。 金髪がキラキラと輝き、まるで天使のようだ。


「アリス……。俺、やったよな?」


「ええ。貴方は素晴らしい働きをしましたわ。源三を捕らえ、チップを確保し、ついでに私の大切なリムジンを廃車にしてくれました」


「……ん?」


アリスの笑顔が変わらない。 変わらないまま、手元にあった厚紙を俺の顔にペタリと貼り付けた。


「これは?」


「請求書ですわ♡」


俺は震える手で紙を剥がし、内容を確認した。


リムジン(特注)修理費:5000万円


装甲キッチンカー弁償代:1億2000万円


高速道路ガードレール修繕費:3000万円


精神的慰謝料(アリス分):プライスレス(0円)


【合計:2億円(+消費税)】


「ふざけんなァァァッ!!」


俺はベッドから飛び起きた。激痛が走るが、それどころではない。


「なんで増えてんだよ! 1400万が2億になってるぞ!」


「あら、計算間違いかしら?」


アリスは小首を傾げた。


「源三の身柄確保とチップ奪還の報酬として、金一封(10万円)を差し引くのを忘れていましたわ」


「焼け石に水だわ! 誤差の範囲だわ!」


俺は頭を抱えた。 終わった。 マグロ漁船どころじゃない。これからは深海魚として、マリアナ海溝で光るしかない。


「……ま、冗談はさておき」


アリスはため息をつき、サイドテーブルから救急箱を取り出した。


「お父様には私から上手く言っておきますわ。『不可抗力だった』と。……だから、少しはじっとしてなさい」


アリスは俺の頬にある切り傷(鉄火巻きの破片で切ったやつ)に、消毒液を塗り始めた。


「しみるッ!」


「我慢なさい。……男の子でしょう?」


アリスの指先が、傷口に触れる。 意外と優しい手つきだ。 彼女は丁寧にガーゼを当て、その上から絆創膏を貼った。


「……はい、終わり」


「あ、ありがとう……」


俺が礼を言うと、アリスは顔を真っ赤にして、プイッとそっぽを向いた。


「勘違いしないでくださいね! 貴方は2億円の価値がある『高級奴隷』ですもの。傷モノになって価値が下がったら困りますから!」


「はいはい、わかってますよ」


(ツンデレかよ。わかりやすすぎて逆に安心するわ)


俺は絆創膏を触ってみた。 ……ん? なんか、絆創膏の柄がおかしい。


鏡を見る。 そこには、『ファンシーな鮭のイラスト(きりみちゃん風)』が描かれた絆創膏が貼られていた。


「ダサッ! 小学生か俺は!」


「あら、可愛いじゃありませんか。私のコレクションから一番高いやつを使ってあげましたのよ?」


「普通の肌色でいいんだよ!」


   ◇


「おーい、二人とも〜。イチャイチャしてないで、こっち来てくれない?」


部屋のスピーカーから、間の抜けた声が聞こえてきた。 兄・サーモンだ。


「解析の準備ができたよ〜。驚きの結果が出たから、早く来てね〜」


俺とアリスは顔を見合わせ、部屋を出た。


向かった先は、屋敷の地下にあるサーモンの私室。 通称『サーモン・ラボ』。


部屋に入ると、そこは異空間だった。 壁一面にモニター。 床には無数のケーブルと、空のカップラーメン、そしてバナナの皮が散乱している。 ハイテクなのかゴミ屋敷なのか判断がつかない。


「やあ、おはよう」


回転椅子でクルリと回って出迎えたのは、白衣を羽織ったサーモンだった。 そしてその横には、なぜかメイド服を着せられたポーラがいた。


「……なんでポーラがメイド服なんだ?」


俺がツッコむと、ポーラは真っ赤な顔でスカートの裾を握りしめた。


「くっ……! 見世物ではないぞ! 源三が捕まったせいで、私がその代わりに働かされているのだ!」


「人手不足の解消法が強引すぎる!」


「似合ってるでしょ? 彼女、銀髪だからクラシカルなメイド服が映えるんだよね〜」


サーモンはニヤニヤしながら、手元のキーボードを叩いた。


「さて、本題に入ろうか」


サーモンの表情が、一瞬で『科学者の顔』に変わる。 中央の巨大モニターに、複雑なバイナリコードが表示された。


「これが、源三から取り返した『目玉チップ』の中身だ」


「解析できたのですか?」


アリスが身を乗り出す。


「半分だけね。セキュリティが強固すぎて、僕の天才的な頭脳と『バナナ糖分』をもってしても、完全解読にはあと数時間かかる」


「半分……。それで、何がわかったんだ?」


俺が尋ねると、サーモンは一枚の画像データを画面に映し出した。


それは、DNAの二重らせん構造図だった。 だが、どこかおかしい。 らせんの一部が、赤く点滅している。


「源三はこれを『レインボー・サーモン』のデータだと言っていたけど……半分は正解で、半分は間違いだ」


「どういうこと?」


「確かに、ベースになっているのは魚類の遺伝子だ。古代魚に近い配列が見られる。……だが、ここに組み込まれている『赤い部分』を見てくれ」


サーモンが指差す。


「これは……『ヒト』の遺伝子だ」


「え?」


「しかも、ただのヒトじゃない。『凶暴化』や『服従』を司る脳内物質を、過剰に分泌させるように改造された遺伝子配列だ」


背筋が寒くなった。 魚と人。 そして、凶暴化と服従。


「兄様……。まさか、お父様の『全人類鮭化計画』というのは……」


アリスが震える声で呟く。


「ええ。単に労働効率を上げるだけじゃない」


サーモンは冷徹に告げた。


「このDNAを組み込んだウイルスを散布すれば、感染した人間は……理性を失い、上位者の命令に絶対服従する『ソルジャー・サーモン(鮭兵士)』に変貌する」


「ゾンビ映画かよ!!」


俺は叫んだ。 源三の言っていた「究極の食材」なんてレベルじゃない。 これは生物兵器だ。バイオハザードだ。


「源三は騙されていたんだよ。彼は『食材』だと思ってチップを盗んだが、本当の中身は『兵器の設計図』だった」


「じゃあ……お父様は、世界征服を企んでいるってことですか?」


「いや、父さんにしては技術が高度すぎる」


サーモンは首を横に振った。


「父さんは鮭を愛しているけど、人をゾンビにする趣味はない。……恐らく、父さんの研究データが、何者かによって『書き換え』られている」


「書き換え?」


「そう。誰かが西園寺家のサーバーに侵入し、純粋な『鮭化計画(労働力アップ)』を、悪質な『兵器開発』にすり替えたんだ」


(どっちも大概ろくでもない計画だけどな!)


「つまり……黒幕は別にいる?」


ポーラが口を挟んだ。 彼女はメイド服のポケットから、こっそりスルメを取り出して齧っている。


「我々『くまさん』のボスも、そんな話はしていなかったぞ。ボスはただ『世界をモフモフにするためにチップが必要だ』と言っていた」


「モフモフ関係ないじゃん! ゾンビになるじゃん!」


「くそっ、ボスも騙されていたのか……!」


状況は混迷を極めてきた。 剛三お父様も、源三も、くまさんも。 全員が何者かの手のひらの上で踊らされていた可能性がある。


「……ねえ、これを見て」


サーモンが別のウィンドウを開いた。 そこには、世界地図が表示されている。 そして、日本のある一点から、赤い線が世界中に伸びていた。


「このウイルスの『散布シミュレーション』データも見つかった」


「散布……?」


「計画では、今夜19時。西園寺家主催の晩餐会で、このウイルスを混入した『新作サーモン料理』が振る舞われることになっている」


「!!」


今夜19時。 それは、剛三お父様が言っていたタイムリミットだ。 『黄金の鮭をお披露目する』と言っていたあの晩餐会。


「そ、そこに世界のVIPが集まるんだろ? もし全員が感染したら……」


「世界の首脳陣が、一斉に『鮭ゾンビ』になり、黒幕の言いなりになる。……世界征服の完了さ」


「規模がデカすぎるゥゥゥッ!!」


俺は頭を抱えた。 たかが借金返済のために始めたバイトが、いつの間にか世界の命運を握っていたなんて。


「止める方法は?」


アリスが凛とした声で聞いた。 彼女の目は死んでいない。


「ウイルス自体はまだ完成していないはずだ。チップの中にあるのは『設計図』だけだからね」


サーモンはバナナの皮をゴミ箱に投げ入れた(ノールックで外した)。


「でも、晩餐会の料理に『試作品』が使われる可能性は高い。僕たちがやるべきことは一つ」


サーモンは俺たち全員を見渡した。


「今夜の晩餐会に潜入し、料理が配膳されるのを阻止する。そして……この計画を裏で操っている『真の黒幕』を炙り出すんだ」


「潜入って……どうやって? 招待状なんて持ってないぞ」


俺が聞くと、アリスがニヤリと笑った。


「カケル、忘れましたか? ここは私の家ですわよ」


アリスは扇子を開き、高らかに宣言した。


「正面から堂々と乗り込みますわ! 私と兄様は『主催者側』として。……そして貴方たちは」


アリスは俺とポーラを指差した。


「私の『エスコート役』と『専属メイド』として、会場に紛れ込みなさい!」


「俺がエスコート!?」


「嫌だ! 私はメイドなど……!」


「拒否権はありませんわ。2億円の借金と、世界の平和がかかっていますもの」


アリスは悪魔のような笑顔で、俺の肩を叩いた。


「さあ、準備なさいカケル。貴方には特注のタキシードを用意してあげますわ。……背中に『鮭』って刺繍が入ったやつをね」


「普通のやつにしてくれぇぇぇッ!!」


こうして、俺たちの最終ミッションが幕を開けた。 舞台は煌びやかな晩餐会。 敵は未知の黒幕。 そして俺の装備は、鮭の刺繍入りタキシード(予定)。


……不安しかない。

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