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多額の借金を抱えた俺、マグロ漁船に乗る直前に『サーモン狂いの天才令嬢』に拾われました。 〜ミステリーは彼女が解く。俺は物理で死なないように頑張る〜  作者: @gamakoyarima
1章 黄金の鮭消失事件 〜その鮭、時価3億円につき(ただし生臭い)〜

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11/17

11笑

「待てェェェェッ! 源三ォォォォッ!!」


「フハハハハ! 追いつけるものなら追いついてみよ! この『スーパー・スシ・ターボ号』にな!」


夜明け前の首都高速道路。 俺たちの乗るリムジンは、前方を走る奇妙な車を猛追していた。


それは、巨大なマグロのオブジェを屋根に乗せた、改造キッチンカーだった。 しかも、マフラーからは火を噴いている。


「なんなんだよあの車! 屋台のくせに速すぎるだろ!」


俺は窓から身を乗り出し、風圧と戦いながら叫んだ。 時速180キロ。 屋台がフェラーリ並みのスピードで爆走している光景は、もはや悪夢だ。


「当たり前ですわカケル! あれは西園寺重工が開発した、戦場でも寿司が握れる『全地形対応型・装甲キッチンカー』ですもの!」


「なんでそんなもん作ったんだよ! 需要どこにあるんだ!」


隣でアリスが優雅に(しかし必死に手すりを掴みながら)解説する。


「セバスチャン! 逃がしてはなりませんわ! あのキッチンカーには、お父様の秘密マイクロチップが載っています!」


「御意。ブースト点火」


運転席のセバスチャンが、シフトレバーの横にある『イクラ型のボタン』を押した。


ズドォォォォォン!!


リムジンがロケットのように加速する。 強烈なGがかかり、俺は座席にめり込んだ。


「ぐべらっ!?」


「きゃあっ!?」


またしてもアリスが俺の上に飛んでくる。 もはや様式美だ。だが今はそれを楽しんでいる余裕はない。


「くそっ、源三の野郎……! まんまと一杯食わせやがって!」


俺は歯ぎしりした。 ついさっきまでの「闇鍋パーティー」。 あれは全て、俺たちを厨房に釘付けにするための罠だったのだ。


「カケル君、気づいたかい?」


向かいの席で、兄のサーモンがバナナ(追走前にコンビニで追加購入)を食べながら言った。


「あの鍋の具材……タピオカがドロドロに溶けていただろ?」


「え? ああ」


「あれは『煮込みすぎ』の証拠だ。つまり、源三は僕らが席に着く1時間も前から鍋を火にかけ……自分はこっそり地下へ向かっていたんだよ」


「じゃあ、厨房にいた源三は?」


「あれはただの『ホログラム映像』と『録音音声』さ」


サーモンがニヤリと笑う。


「『うむ』『調理だ』『マグロだ』……。彼のセリフ、よく思い返してみなよ。定型文しか喋ってなかっただろ?」


「……ああっ!?」


俺は記憶を巻き戻した。 確かに。 俺たちが何をツッコんでも、源三の返答はのれんに腕押しだった。 あれは会話が噛み合っていなかったんじゃない。 最初から『会話機能のないbot』と喋っていたんだ!


「やられた! 俺たちは一時間も、ホログラム相手にハバネロこんにゃくを食わされていたのか!」


「悔しいですわ……! 私の舌も、まだ未熟ということですわね!」


「舌の問題じゃねえよ!」


その時、前方のキッチンカーからハッチが開いた。


「しつこい客だ……。これでも食らえ!」


源三(本物)が顔を出し、何かを投げつけた。 それは無数の黒い円盤だった。


「地雷か!?」


「いいえ! あれは『特製・鉄火巻き(鉄アレイ入り)』ですわ!」


「硬すぎるわ!!」


ガギンッ! ガギンッ!


鉄火巻きがフロントガラスに直撃する。 防弾ガラスにヒビが入るほどの威力だ。 食べ物を粗末にするな、というレベルを超えて、もはや兵器である。


「反撃しますわよ! ポーラ、やんなさい!」


「うむ! 任せろ!」


アリスの号令で、サンルーフからポーラが飛び出した。 彼女は風圧をものともせず、屋根の上に仁王立ちする。


「食らえ! 『くまさん流・鮭手裏剣』!」


ポーラが懐から取り出したのは、乾燥させた鮭の皮を星型にカットした、謎の手裏剣だった。


シュパパパパッ!


「ぬぅっ!?」


源三が包丁でそれを弾き落とす。


「甘いな小娘! そんな子供騙しで、この『心眼』は破れぬ!」


「くっ、さすが料理長! 鮭の扱いに慣れている!」


ポーラが悔しげに唸る。


「兄様! 何か発明品はないのですか!?」


アリスがサーモンに振る。 サーモンは「あるよ〜」と軽い調子で、足元のバッグを漁った。


「えーっと……『自動バナナ皮むき機』……『空飛ぶトースター』……あ、これだ」


彼が取り出したのは、バズーカ砲のような巨大な筒だった。


「名付けて『スーパー・ワサビ・キャノン』! 圧縮した粉わさびを噴射し、相手の視界と鼻腔を破壊する非人道兵器さ!」


「なんでそんなもん持ってるんだよ!」


「実験用だよ。カケル君、撃ってみて」


「俺かよ!」


俺はワサビ・キャノンを受け取った。 ずしりと重い。そして微かにツンとする危険な香りが漂っている。


「いいか、外すなよ俺! これで源三を泣かせてやる!」


俺はサンルーフから身を乗り出し、照準をキッチンカーに合わせた。 距離、30メートル。 相手は蛇行しているが、直線の今なら当たる!


「食らえェェェッ! 涙の味を知りやがれェェッ!」


ドシュゥゥゥゥンッ!!


緑色の粉塵が爆発的に噴射された。 ワサビの雲がキッチンカーを包み込む。


「グオォォォッ!? 目が、目がァァァッ!」


源三の悲鳴が聞こえた。 やったか!?


煙が晴れる。 そこには、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながらも、必死にハンドルを握る源三の姿があった。


「おのれェェェッ! 拙者は魚恐怖症ゆえ、常にゴーグルを装備しているのだ! 目にワサビは効かぬ!」


「効いてんじゃねーか! 泣いてるぞ!」


「これは感動の涙だ! 貴様らの成長にな!」


「嘘つけ!」


源三は充血した目でこちらを睨み、不敵に笑った。


「だが、遊びは終わりだ。……見せてやろう。このキッチンカーの『真の姿』を!」


源三が運転席の赤いレバーを引いた。


ガシャン! ウィーン……!


キッチンカーの側面が展開し、中から巨大なアームが出現した。 その先端には、回転する巨大なピザカッター……いや、『回転ノコギリ』が装着されている。


「調理モード・解体ッ!!」


「うわああああっ! 殺る気満々だ!」


「まずいですわセバスチャン! あのノコギリでタイヤを切られたら終わりです!」


「回避します」


セバスチャンがハンドルを切る。 リムジンが大きく傾く。 そのスレスレを、回転ノコギリが通り過ぎていく。 火花が散り、ドアミラーが切断されて吹き飛んだ。


「ひいいいッ! 俺の借金より怖い!」


「カケル! 泣き言を言ってる場合じゃありません!」


アリスが俺の胸ぐらを掴んだ。


「あのアームを何とかしないと、近づけませんわ! 貴方の空手で破壊なさい!」


「無茶言うな! 生身だぞ!?」


「大丈夫です。貴方は『ゴキブリ並み』の頑丈さですもの。信じていますわ♡」


「そのハートマークに騙されねぇぞ!」


だが、やるしかない。 このままじゃジリ貧だ。 俺は覚悟を決めた。


「ポーラ! 援護しろ!」


「うむ! 任せろ!」


俺はサンルーフの縁に足をかけ、身を乗り出した。 時速200キロの風が全身を叩く。 死ぬ。普通なら死ぬ。 だが、俺には1400万の借金という、死神すらドン引きする重荷がある。こんなところで死んでたまるか!


「源三ァァァッ! そのノコギリ、へし折ってやる!!」


俺は走るリムジンの屋根へと飛び乗った。 目指すは敵のアーム。 正気の沙汰じゃない空中戦が始まろうとしていた。

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