助けたお姫様が男だった
「男!?」
馬車の中にいたお姫様が男だった。
▫
「リリー、どうしたんだい?」
「気のせいだったら良いんだけど、近くの馬車が襲われてるかも」
「え」
外を見ていた私に話しかけてきたのは友人のルイファだった。
私は思わずその質問に答えてしまう。言った後しまったと思うがあとの祭りだ。
女にしては背の高い私よりも頭1つ分高いところにある顔が私の顔に近づく。私の国では珍しい黒髪が視界に入る。知性を感じる灰色の瞳が楽しそうにこちらを見ている。相変わらず腹が立つくらい整った顔だ。女子の多い宮廷魔法使いの間でえらく人気らしいのも当然のことなんだろう。
「良くないね!助けに行ってくる!」
「あなた……自分の仕事は忘れたの?まあいいけどさ。ほら、支援魔法かけてあげる」
「悪い、恩に着る」
そう言いながら颯爽と馬車を降りていく。援護魔法は……ギリ間に合ったらしい。全く、危ないことはしないでほしいものだ……。
「一応私もついてくか……」
▫
「リリー、リリー!馬車の中にお姫様がいる!」
大剣を背負いながらルイファが言った。馬車を覗いたらしい。状況的にお前が賊みたいだよ、とか思いながらため息をつく。
「全く無茶しないでよね」
それだけ言って魔法を自分にもかけながら後に続く。
「もしもし、無事ですか?」
どうやら護衛の騎手らしき人は瀕死で口がきけない状態のようだ。もう少し速く助けに行った方が良かったか。でもなぁ、時間が結構押してるんだよな。そもそも私が他国の人間を助ける義理なんてないし。御者は……死んでるな。最初に矢を射られて即死だろうか。中から声が聞こえないので瀕死の護衛らしき人物に応急手当を施していく。
「その、カイルは助かるんでしょうか」
中から、か細い声が聞こえてくる。少女の声のようだ。他にはいないのか?見たところ馬車も質素なもののようだし、ふむ。大方商人の妾の娘が本妻によって捨てられたとかそんなところだろうか。
「分かりませんね。とにかく近くの教会まで向かいましょう」
「あなたは魔法使いではないのですか?」
「私?……」
魔法使いだからなんだと言うのか。
そうか、もしかして回復魔法を施せないのか聞いているのかもしれない。少なくとも私は使えない。当然ルイファもだ。他に世話係の女中とか、御者とかいるけれど、全員使えない。そりゃそうだ。回復魔法が使えるのは才能あるひと握りの人間だけなのだから。
「……遅延魔法ならできるけど」
時間干渉の魔法は得意分野だから延命措置代わりに使える。でもなあ。
「してあげなよ」
「……ルイファがそう言うなら」
「ありがとうございます!」
中の声も嬉しそうだ。
遅延魔法はかけ続けなければいけない。時間は放っておけば元のように進もうとし始める。これが何を意味するのかと言えば、このままこの2人と一緒に行動しなくてはいけないってことであり……うーん。
まあいっか。
馬車の扉を開ける。
仕立ての良い白い生地で作られたドレスを纏った美しい少女が驚いたようにこちらを見ている。
顔を見て理解した。なるほどこれは確かにお姫様。
陶器のように滑らかな肌、大きくしかしバランスの取れた深緑色の瞳は長くカールしたまつ毛によって縁取られている。豊かな金髪はそのまま腰に流されているが、それが正しいとでも言うよう麗しくウェーブがかかり、外から漏れた光をよく反射し自ら光り輝くかのようだ。
歳の頃は13歳くらいだろうか?あと5年もすれば絶世の美女になるだろうことは想像にかたくない。
……すごく厄ネタじゃない?これ。
「これから私達と一緒に行動することになります」
「え」
壁越しでないとよく分かる。鈴のなるような声だ。
「遅延魔法はかけ続けないといけないんです。必要なことなんですよ」
「い、いえ。わたしもこのままだと心細いのでありがたいのですが、その、いいのかと……」
「いいですよ。ね、ルイファ」
「ああ!」
なんにも考えてなさそうな笑顔に内心ため息をつきたくなる。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
やはりあの状況が怖かったのか、安心したように泣き出してしまった。
「ハンカチあげます」
「え、はい」
▫
落ち着いてきたので話を聞くと、どうやら本当にこの国のお姫様で、父親が死んで後継者争いが激化し、母親が命からがら逃がしてくれたのだとか。
うーむ面倒くさそう。
「私達はこの国の人間ではないのでずっと面倒は見切れませんが」
「留学ってことにしてはどうだい?それくらいならいくらでもいるだろう」
「いくらでもはいませんが、まあそうですね……」
私達の同級生にもいたなぁ。西の方にある異国の王子だったっけ。
「って誤魔化されませんよ。王への謁見はどうするんですか。……死んだんでしたね」
本当にどうしようかな。
元々そのつもりで旅してきたのだ。
「王妃様はまだ生きてんだよね?」
「……この子の母親はもう生きていなさそうですが」
「そ、そんなことないです!」
「そうですね、すみません」
見るまでは確定しませんもんね。
少し早とちりしすぎたか。
「王妃様は私の母親とは違います」
「え?あ、そうなんですか」
ウチの国の常識で考えすぎた。確かに国によっては君主の妻が100人いることもあると聞く。
「なら大丈夫だ。元々王妃様が会いたいと言ってくれたのが始まりだったはずだろう?」
ルイファがウインクする。
「分かったよ」
仕方ないなぁ。
「えと、その……あなた達はどういう方達なんですか?目的とか」
「む。超大天才魔法使いのリテシティとその護衛、あとリラさんと御者のおにーさんって感じ?」
「あのさぁ、だ」
「わ、見て見て。この宝石めっちゃ高そう」
「おい、あんまり触るな!」
責任取れないだろ!?
私の言葉をさえぎりやがって。
「リテシティ!……や、リテシティさん、聞いたことあります。凄腕の魔法使いの女性ですよね。あなたがそうだったんですね」
「いやちが」
「そうそう。リリーはすごい魔法使いなんだよ?」
「……」
ルイファお前……。
ため息をつく。
とりあえず教会だ。宗派の違う私達を入れてくれるかは分からないが、とにかくこの怪我人を治療してそれから私達も水浴びしたいところだな。
「ここから1番近い教会はどこにありますか?」
「し、知りません……」
そりゃそうかお姫様だもんな。
「……。ここから街に出る道がありますが、街が見えて来たら右に回ると大きな教会があります」
「カイル!?」
護衛のお兄さん話せたのか。
言語が通じるのはありがたいことだ。王族はこちらの国の言語を使うと聞いていたが護衛まで使えるとはね。
「あまり話さない方がいいですよ。傷が塞がっているわけではないので」
「……」
黙った。
御者の人に指示を出す。
「さて」
教会、こっちのはずではあるけど。
刺客っぽい人がいるよね。
こんなに狙われるってことは本当にお姫様なのかもな。隣でのほほんと笑っている少女を見ながら思う。
私、は当然手は離せない。遠距離に遅延魔法をかけ続けながら戦えるほど器用じゃない。
とすると……はあ……。
「俺が行くしかないってことだね!」
「本当は絶対嫌なんですけど……今回は緊急事態です、いいでしょう。支援魔法できる限りかけるんで死なないように行ってきて」
「リリーを守るために死ぬ気で行ってくるよ」
ご丁寧にウインクまでしてくる。
こういう時はだいたい私をおちょくっている。現に顔を見るといい笑顔でめっちゃ笑ってる。長い付き合いの友人なので分かるのだ。
「バカ?あなたが死んだらどっちみち私も死ぬんだけど」
「そ〜だったね〜!ははは!」
「笑い事じゃない」
そう言いながら支援魔法をかけていく。
ルイファは弱いからあんまり前線に出したくないんだけど仕方ない、仕方ないのか本当に。はあ……。
馬車から飛び降りた後、背中から出した大剣で敵をぶん殴っているルイファを見る。隙だらけすぎる。今かけておいた防御魔法が反応した。ヒヤッとさせないでほしい。
まあでもそれも教会に着くまでの辛抱だ。……教会も敵だったらどうしよっかなー。1回帰った方がいいか?
「な、何が起こったのですか」
「教会前にあなたを捉えるつもりなのであろう兵が配置されていました。盗賊に見せかけてはいますが」
誤魔化し方が杜撰というかなんというか。盗賊にもかかわらず戦い方に統制が取れすぎている。コストをかけた兵士をこんなところで使うのはもったいなくないかと私は思ってしまうが。
全員倒すのは無理なのであくまで道を開けるよう戦えとルイファには言った。言ったけど聞いてるかは謎だ。
馬車は進んでるから一応上手くいってるのかな。
教会の人が外に出てくるのが見える。双眼鏡を見た後私達に手を振っている。
……良かった。味方と思って良さそうだ。
教会の人に助力を願えないか腕を使って聞いているが首を振られた。あーもう。真正面から行くべきじゃなかったなぁ!
「すみません危険に巻き込んでしまって」
「いいですよ。それより迂回しませんか。幸い距離が離れているおかげで敵に気づかれていません」
「なるほど」
ルイファは目立つからな。陽動として機能しているのかもしれない。
御者の彼……ビルさんがそう言うので、私が考えるよりよほど良さそうな案だ。
「馬車で通れそうですか?」
「厳しいですね。置いて行くしかないでしょう」
「ふむ」
背負って行くということか。
「馬車はこの辺りに停めましょう。この子は賢いので1日くらいは待ってくれるはずです」
少し道を外れ、木によって死角になった場所に馬車を停めている。私は許可していないが、まあ仕方ない。私と彼の立場はだいたい同等だから。
「じゃあ私がこのカイルさんを背負いましょう。姫様、歩けますね?」
「は、はい」
姫様がほっとしたように頷く。私に背負われたくない理由でもあったのだろうか。
「あ、でもカイル重くないですか。リテシティさんの細腕では」
「……リリーって呼んでください」
「はい」
細腕なんて初めて言われた。外行き用ってことで着込んでて腕の太さは分かりにくいかもしれないけど。
「私には魔法がありますから」
「そ、そうでしたね!」
そんなに焦ってどうしたんだ?
「私が背負いますよ。いざと言う時、守ってもらわなきゃ行けない立場ですからね」
ビルさんが手を挙げて言う。
「……分かりました。では行きましょう」
こうスリルのある現場は久しぶりだ。本国はあくびが出るほど平和だから。
腰に掛けている剣を握る。
音を立てないよう歩く。
大分歩いてきたが今のところ気づかれている様子はないか。
教会もすぐそこに見えてきた。ここからぐるっと1周すれば着ける。
「きゃっ」
姫様が木の根に足を引っ掛けて転んだ。
……手をつないでおけば良かったか。
教会の裏に張っていた盗賊がこちらに気づいた。
戦うべきか逃げるべきか。
「逃げましょう。どうやら裏口があるようです」
ビルさんがそう指さすので見ると、確かに扉があってそこから教会の人が心配そうに手を振っている。どうやら教会の中までは襲撃者が侵入していないようだ。随分信心深いことだな。つくづく詰めが甘すぎる。
「いざとなれば私が応戦します。このまま走りますよ。姫様は私が運びます」
腰の下に手を回して持ち上げる。
「え!?」
「揺れるので気をつけてくださいね!」
細いなと思いながら走る。ビルさんは……ちょっと遅れているがまあ良いだろう。
よし、滑り込みセーフ。ビルさんを襲いかけようとしている男の顔面に剣を投げる。
「はあ……はあ……」
よし、全員間に合ったな。
あとはルイファを回収しに行くか……。
「お願いします。カイルを、カイルを助けてください」
「もちろんですよ」
うん。こっちも大丈夫そうだ。
腕の良い回復術師がいそうで良かった。
「じゃあ行ってきます」
そしてそのまま敵に囲まれているルイファを掴んで表の入口に入る。
「うわーん、リリー達が見えなくなったから見捨てられたかと思ったー」
「弱いのに無理するからでは?次からやめてね」
「ちょっとは慰めてくれても良くない?」
「よくがんばったんじゃない」
「うん」
そう言ってルイファが崩れ落ちた。
さすがの私も動揺して揺する。……どうやら寝ているだけのようだ。そりゃあんだけ無理すれば疲れもするか。ビビらせないでほしい。
はあ、疲れた。
水浴びでもしよ。
ルイファを引っ張って回復術師のところに置いてきた後目的の人物を探す。いた。
「姫様、行きましょう」
「え、あの、どこに?」
「水浴びですよ」
「え!?」
「建物内にありましたよ。安全だと思います」
「いや、あの」
「いざとなれば私が守りますので」
そのまま入浴所に引っ張っていく。
なにやら慌てているが姫様は見知らぬ人と入浴したりしないのだろう。まあ緊急事態だ、我慢してほしい。
そして冒頭にもどる。
▫
「男だったんですね……」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「いえ」
考えてみれば一国の王子が逃げ出す時に女装するとか定番じゃないか。無理やり風呂に連れ込んだ私が悪いだろう。なんらかの罪に問われそう。
「まあやることは変わりませんから。お背中お流ししましょうか」
「いいです!1人でできますから!!」
長い髪はどうやら地毛らしく、絡まって上手く流せていない。
微笑ましい光景のようなそうでもないような。
私だって体に布を巻き付けているのでそんなに嫌がらなくてもいいと思うのだが。しばらく見ておくか。引っかかってまたコケるとも限らないのだし。
「なんで見てるんですか!?」
「……王子様はいつでも見られなれてるのでは?」
入浴中だろうと召使いがズラーッと並んでいるイメージなのだが。
「私は母様とずっと2人だったんです!」
「……」
なるほど……。あんまり聞いちゃいけなさそうな話だった。
どうやらあまり良い環境にはいなかったようだ。
背を向けておく。さっさと自分も洗おう。
「ひゃっ!?」
顔に手を当てている。どうしたのかよく知らないが、まあ気にするほどでもないだろう。
▫
「ご迷惑をおかけしました」
「良かったです」
護衛の男は問題なく回復したようだ。
「カイル、良かった、良かったよ……」
「申し訳ありません、今までお守りできず」
王子だからおつきの人が男だったんだな。なんか納得した。
カイルという男は、立っているのを初めて見たわけだが、背が高く堂々とした偉丈夫だった。王宮で働くに相応しい威容がある。
「目的は達成したのでこの辺でお別れになりますか」
ここで待っていても護衛は増えないかもしれないが、私達がこれ以上やれることもない。
どうやらこのカイルが昔教会に所属していたことがあるのでここの教会は受け入れてくれたらしい。まあどうとでもなるのではないか。
「い、いえ。その、頼みたいことがあるのですが」
「うん?」
「目的地は王宮でしたよね?」
「ええ」
「僕達は王妃様に用ができたのです」
「……復讐ですか?もう少し頭数を揃えるべきだと思いますが」
「え!?い、いや違いますよ。教会の近くに転がっていた襲撃者達の死体を調べたところ、どうやら王妃様とは敵対する陣営のもののようでして、もしかすれば力を貸してもらえるかもしれないんです」
なんだって?
……複雑なんだな。
「ルイファに話を聞いてきます」
「聞かせてもらったよ」
私の後ろから肩を抱き抱えてルイファが顔を出す。
「もちろんいいとも」
はあ……。
「仕方ありませんね。もうしばらくよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
愛らしい王子様がにっこりと微笑んだ。
▫
「もう少し人を集めた方が良いと思うのですが」
馬車の中で窓の外を見ながら言う。
「少数精鋭が良いかと思います。戦争をするわけではないので」
「そうですか、ざんね……いえ、その方がいいですよね」
危ない本音が漏れかけた。
「ビルさんはなにか意見がありますか?」
「公道を走るのが良いでしょう。王妃が本当に味方だと言うのなら、ですけど」
「辛辣ですね。私もちょっと疑ってますけど」
王妃が本当に味方なら母親が命からがら逃がす時に頼りにしろと言うはずじゃないか?と思ったりする。
「な……」
「まあ安心してください。いざとなれば貴方達は見捨てますので」
「それなら良いと思いますよ」
ビルさんが満足そうに頷いている。
ここまであまり話す機会がなかったが、いざ話してみると良い性格してるなあ。
この任務に選ばれるだけあって優秀なことは知っていたが私よりも頭が回る。
長い前髪から覗く目がどうした?とでも言うように私を見る。首を振った。
「“いざ”が無ければいいんですよ。私はカイルさん、貴方のこと評価していますから」
あの傷から生還できるのは並大抵のガッツじゃない。戦士として私は彼のことを尊敬している。少なくともルイファよりは強そうだし。
「少々上からでしたかね」
黙ってしまったので首を傾げる。
「いえ。……あのもしかして貴女は、」
「リリー!お姫様が男だったんだけど!?」
「今更すぎません?」
ルイファが騒いでいるのを冷ややかに見る。
あと狭い馬車で何をやってるんだ。
「公道を走りましょうか。何か言われたら同行してきた世間知らずのお嬢様と……その兄ってことにしますね」
▫
「何事もなく着い、た?」
「なんで貴方が驚いているんですか」
王宮にも問題なく入ることができるそうだ。私も剣を投げ飛ばしてから一応補充はしたものの心もとなさを感じていたので最終的には良かったかも。
「良かったですね王子様」
「それなんですけど……その、実は私娘ってことになってまして」
「え」
それは、どういうことなんだ?
「兄弟いっぱいいる王家は大変だねー。ねえリリー」
「そ、そうですね」
そうか、姫だと生存率が上がるのか。
相当立場が弱い母親だったのか?
「着替えておきましょうかね」
「リリー、その辺麻痺してるんだろうけど淑女が男のいる室内で着替えるのって俺どうかと思うんだよ」
「……確かに」
言われてみればそうだ。私は別にどうでもいいが、あと2人のことを考えていなかった。
「向こうで着替えられるよ」
「それもそうだね」
……着替えてる間、誰が王子いやお姫様でいいのかな、を見るのだろう。女中のグレースさんに頼むわけにもいかない。ビルさんか?頼りにはなるけど弱いのがなー。
「私は馬を預けなくてはいけないのでついていけませんよ」
外から声が聞こえる。馬車の中の私の考えを読んだってのか。
「ルイファ、ちょっと壁になってくれない?」
「ええー……」
ささっと着替える。早着替えはお手の物だ。
「じゃーん礼服です」
「わ、……ドレスとかではないんですね?」
パンツスタイルのスーツだ。
「ええ。ドレスだといざと言う時動けませんので」
「?」
▫
王妃様の前まで難なく来れたことに驚いている。
夫がつい最近死んだにもかかわらず随分元気そうだ。
肌ツヤが良い美しい顔が微笑んでいる。
「よく来てくれましたねリテシティ」
姫様達には一応顔を隠すよう言ってある。
……怪しい。近衛兵の中に不審な動きをしている者がいる。剣を手にかけた?
「ルイファ、剣を寄越せ」
「え!?」
慌てながらもルイファが手の中に大剣を出現させる。
礼服でもこの手袋をつけたままで良かった。
ルイファは昔マジックバッグを見て思ったらしい。
ちなみにマジックバックっていうのは無尽蔵にものが入る鞄のことだ。とても高価なので私は持っていない。
『中に何もないように見える、ということは表裏を逆にしても成立するのでは?』
そんなわけのわからないことを言ってルイファは表裏をひっくり返したマジックバックを作り出した。それがあの手袋。外に触れている方がマジックバックの中なのだ。だから虚空から大剣が取り出せる。それをカッコつけのためにやるんだからルイファは本当アホで天才だ。
ルイファの手から大剣を奪い取る。
相変わらず使うという視点が一切ない馬鹿でかい剣だ。小回りも効かないし使いにくすぎる。が、今はこれでも十分だ。姫様に襲いかかる曲者を上から叩き切る。避けようとしたらしいがこの質量を前にはどうすることもできなかったようだ。……なるほどこの剣はこうやって使うのか。
ふう。
こちらに近づいていたらしいカイルと目が合う。剣を持っている様子がないが、もしかして姫様を庇うつもりだったのだろうか。先に動いて良かった。
「失礼いたしました。ルイファ、挨拶を」
「あ、ああ。……後で剣返してね」
分かった分かった。頷いてハンドサインで急かす。
「お初にお目にかかる。俺の名はルフェル・ミネス・リテシティ。セーランド王国が誇る超大天才魔法使いだ」
「……申し訳ありません」
一応後ろでこっそり謝罪しておく。
他国の王妃様にもこの態度か。まあいいか。自分で言うのはどうかと思うけど失ったら世界の損失レベルの天才魔法使いなのは事実だし。王妃様より命の価値は高い。
「うふふ。会えて嬉しいわ」
王妃様も気にしている様子は無さそうだ。
後ろからお姫様が私の服の裾を引っ張ってくる。顔が青い。そりゃさっき襲われかけたのだから当然か。王妃様が驚いてないのがおかしいだけだね。さっきルイファが唖然としている間に笑顔で近衛兵に捕らえるよう指示していた。近衛兵達は完全に想定外といった感じだったので、カイルの言う通り王妃様とは別口なのだろう。
「安心してください。私が守りますから」
「ありがと。……ってそうじゃなくて!?え、あの、リテシティって女性なんじゃ」
器用に小声で叫んでいる。
「ルイファは女ですよ」
「え」
「姫様と同じ……と言うのは姫様に失礼ですね。彼女は男だと勘違いさせた後ネタばらしをするのが趣味なんです。それで男装しているのですよ」
「???」
「似合うのがタチ悪いですよね。女の園の宮廷魔道士団の中で王子様扱いされてますよ、あいつ。姫様が騙されるのも無理ありません」
王妃様の前で手袋から魔道具を出しているルイファを見ながら説明する。あの魔道具は確か周りの音を消す音が出る魔道具とかだっけ。完成した時に見せてもらった。もうちょい分かりやすいやつの方がいいんじゃない?歌が歌えるゴーレムとか。私はそう思ってしまうが、ルイファが判断したならきっと間違っていないのだろう。
と、このように彼女は天才故に奇抜な行動も許されているのだ。
まあルイファにかけられる黄色い声のことを考えるとそれだけでもない気もするけど。
「あなたがリテシティなんじゃ……」
「……あー」
そっかそこを勘違いしているのか。言われてみれば私が説明しようとする度にルイファの邪魔が入ってたな。あいつ……。めんどくさくなって途中で説明するのをやめた私も悪いか。
「私はルイファの護衛です。近衛騎士団所属のリリアナ・レッドベルト・オーティスと申します。どうぞお見知り置きを」
改めて礼をする。
驚いているのか口を開けたままわなわなしている。
「本国では2番目に強いことになっていますから、安心して背中を預けてくださいね。さあ姫様。王妃様にお願いするんでしょう?」
唖然としている姫様はなんとも可愛らしい。男だと分かっていても、だ。ルイファはこういうのが楽しみで人を騙したりするのかもな、と思った。
「あ、あの!」
姫様が意を決したように布を頭から取る。
「あら?」
王妃様は見覚えがあるが誰だか分からないという顔で首を傾げた。
「第14王女のマルシアです、王妃様」
じゅ、14王女。王の子はいったい何人いるんだ。
「思い出しました。離塔に暮らしていたマルシアね」
「はい、さっき王妃様にも見ていただきました通り私は何故か命を狙われております。どうか王妃様の庇護を受けたまわりたく……」
「ふむ。……あれはきっと第3王女の手のものね。何故あなたを狙うのかは分からないけど……でもそうね、あなたは王になる気はある?」
「ありません!……私なんかがその、務まるわけありませんから」
「そうですか。なら外の国にお逃げなさい。ちょうど王国の方もいらっしゃるしついて行くといいわ。私が庇護する旨を出せばある程度命の安全は保証されるでしょう」
王妃様はまるで姫様に興味が無いとでも言うようにすぐ目を逸らしてルイファの方を見ながら微笑む。
「その魔道具本当に面白いわ!他のも見せてちょうだい」
ああ、これは娘、じゃなくて息子を預けないのも分かる。
「いいよ、7色に光るライトとかどう?」
ルイファが得意げに他の魔道具を出して見せると、王妃様は俄然嬉しそうな声をあげた。
一応私の任務は成功、かな。無事に本国に送り届けるまでが仕事ではあるけど。
「良かったですね姫様。留学しちゃいましょう」
「……」
不安そうだ。
「あなたの未来は晴れやかです。学びたい学問とかないんですか?」
「……分かんない」
「じゃあこれから見つければいいんです。知らないことがいっぱいですよ。ほら、楽しそうな気がして来ません?え、しない?」
そう言えば男の子なんだけど寮とかどうすんだろう。お付きのカイルも男だし。女子寮には入れられないよなあ。まあいっか。私には関係ないし。
「王国に戻ったら手始めにルイファの魔道具を色々見せてもらいましょう、面白いですよじゃんじゃん期待してください。声高くなったりしますよ〜」
私が自分でも似合わないなと思いながら全力で励ましていると、下から小さく笑い声が聞こえる。
「そうですね。ええ、少なくとも私には背中を預けられる騎士がついているのですから」
その可憐な少女は……いや少年は、年相応にはにかみながら嬉しそうにそう言った。
───────国に帰った私が異国のお姫様の護衛をするよう命じられるのはまた後のお話。




