第7話 薫風_2
「勝手に撮っちゃってごめんね。でも、航大くんの真剣な姿がかっこよくて。つい手が動いちゃった」
彼女はいたずらっ子のように、舌を出して無邪気に笑った。
色素の薄い瞳に、白い肌にそばかすのある細い鼻筋。肩に届く長さの黒髪に、抱きしめたら折れそうな華奢さ。地元では有名な女子校の古風な紺色のセーラー服。おそらく絶世の美女では無いけれど、朴訥で無垢で純真な容姿。愛想が良かったり真面目だったり、ころころ変わる、子猫みたいに捉えどころのない性格。
多分きっと本能的に、俺はたまらなく彼女の甘美な清純さに、恋に落とされてしまっている。
「いつからいたの? 唯ちゃん」
待ちに待った唯ちゃんの姿に、脈拍が加速し汗がにじみ、耳が赤くなっていくのを感じる。自分の頬が、意思に関係なく綻んでいくのも感じる。
「たった今着いたの。遅くなってごめんね」
ゆいちゃんは小走りで俺に近寄り、ぺこりと頭を下げた。心もとなさそうに両手を胸元で合わせた彼女は、申し訳なさそうに目を伏せた。
「航大くん、結構待ってくれた?」
「いや、待ってないよ。今、本当に今さっき来たところ」
「ほんと?」
「うん」
「でも、唯は結構遅れちゃったよ。だから、やっぱり待たせちゃったのかなって」
「俺も遅れたから。授業が長引いちゃって。だから、一切待ってない」
ぎこちなくほほ笑む。つまらない嘘をつくたびに、首の裏側の筋肉が緊張する。
「それなら、よかった」
上目づかいに俺の表情を見つめていた唯ちゃんが、満面の笑みを浮かべた。ほっとしたように胸の前で両手を合わせる。
祖母が毎日仏壇に向かってしている仕草でも、彼女がすると可愛らしく見えてしまうのはなぜだろう。
ぶりっ子が好きな訳じゃなくて、手間を惜しまずぶりっ子をしてくれるサービス精神を気に入っているのだと思う。