第4話 彼女が来るまで、あと二分_3
おじいさんのいう“ハンサムな男の子”は、いつも一緒に帰宅をしているクラスメイトの宮瀬のことだ。宮瀬はイケメンだし背も高いし、口も上手いし要領もいい。
それに比べて俺は、顔は多分普通で、身長も体重も平均的。勉強も運動も飛びぬけて出来るわけじゃないし、賞賛と羨望の喝采の中に生きているわけでもない。
それでも、別に悪くはないと思う。
普通って、悲観するような事じゃない。親は健在で友達もいる。この先もなんとなく進学とか就職とかして、普通の幸せっぽい人生を送れる気がする。そういう根拠のない自信を持てる楽観的な性格だって、やっぱりそこそこ気に入ってる。
背筋を伸ばして深呼吸をし、もう一度鏡に顔を近づける。とりあえず、目やにとかは付いてない。大丈夫、大丈夫。
スラックスのポケットからスマホを取り出す。ボタンを操作し、画面をオンにする。
彼女が来るまで、あと二分。
自分は普通であるという事実を笑って受け流せるようになったら、それはもう十分に大人になったという証拠だと思います。
少なくとも私は、ビールを初めて飲んだ時より、秋茄子の美味しさを初めて理解した時より、強くそう思いました。