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第34話 可憐さとシニカルの二面性_3

 それでも唯ちゃんは別の日には、イメージ通りのふわふわと地に足のつかない話を、あふれる笑顔で投げかけてくることもある。例えば、葉桜が新緑に移行し終えたある日。濃淡の緑が日よけになった日陰のベンチに、俺たちは適切な隙間を空けて座っていた。

 唯ちゃんは足をぶらつかせ、葉桜を見上げてほほ笑んでいた。いつものように隣に座る俺も、代わり映えしない景色を眺めるふりをした。そしてたまに、明るく笑う唯ちゃんの横顔や、セーラー服に阻まれて見えない胸元に目を向けた。

 「ねえねえ、航大くん。昨日何をしていたのか、お話しして」

 可愛くて繊細な女子はどういう理屈で、触りたくなる甘い匂いがするのだろう。

 「同じクラスの友達と、日が暮れるまでサッカーしてた。泥だらけになったけど、楽しかったな。宮瀬を誘ったら、最近付き合い悪いから断られたけど」

 「へえ。航大くんと宮瀬くんは、常に一緒に行動してると思ってた」

 「そんなこともないよ。彼女ができると、宮瀬は途端に付き合いが悪くなる」

 宮瀬は簡単に彼女を作っては、暫くすると別れるというサイクルを、飽きもせずにいつまでも繰り返す。

 「そんな頻繁に、好きな女の子って出来るもんなの?」と、以前俺は尋ねたことがある。

 「好きだから付き合うんじゃなくて、目的があるから付き合うんだよ」と彼は鼻で笑った。その〝目的〟が何であるかについて、質問はしなかった。宮瀬と俺は、その点の価値観がまったく違う。

 俺は、少なくとも初めて付き合う女の子だけは、好きな子がいい。それだけはどうしても譲れない。

 俺の幼稚な持論を黙って聞いていた宮瀬は、「応援してるよ」と俺の背中を優しく撫でた。その日の宮瀬は妙に重たい声で、いたって真摯な眼差しをしていた。

 「唯ちゃんは、最近何をしてるの?」俺は沈黙を恐れ、即座に唯ちゃんに質問を投げかける。

 靴下を整えるために上半身を倒した唯ちゃんの制服の胸元が、重力の法則に則って緩む。気づかないふりをして、散歩を楽しむ老人に視線を向ける。

 「先週はね、地底人と火星でランチしてた」

 唐突な話題の転換に驚き、唯ちゃんの表情を伺う。遠くの公演の遊具で遊ぶ小学生を、真っすぐに見つめる彼女の横顔は、一点の曇りもなく真剣だった。

 「え?」

 「地底人から昨日の朝に連絡が来たの。最近会ってないからご飯でも行こうって。それで、なかなかいい場所が決まらなくて、最初は土星で落ち合う約束だったんだけど、宇宙船の予約が取れなかったの。だから交通の便のいい火星にした。景色もいいしね」

 「そ、そっか。見に行きたかったな」

 「航大くん、ちゃんと信じてくれてる?」

 唯ちゃんは本当によく笑う。小柄な彼女の目線は、少しだけ下にある。瞬く睫毛が長い。色づく頬。テンションが上がると、俺の二の腕に触る白い手のひら。

 「う、うん。信じてる」

 「本当に? 馬鹿にしてないー?」

 「唯ちゃんの言うことなら、俺は何だって信じられるよ」

 視界からの情報が、唯ちゃんが異性である事実を強制的に意識させる。心臓や血管や首筋が無意識に疼き、落ち着かせるように前髪を撫でつける。

 「もう。航大くんってば。唯はちょっと嫌だなあ」

 「え、どうして」

 「そういう嬉しくなっちゃうこと、出会う女の子みんなに伝えているんじゃないかって、不安になっちゃうな」

 唯ちゃんが微笑み、肩までの長さの髪を耳にかける。そばかすのある薄い顔立ちが、あまりに綺麗だと思った。

 贔屓目に見ても、クラスの美人より整った顔立ちではない。性格だって、出会った日に想像していたほど完璧でもない。

 それでも確実に言い切れることがある。ひとつは、俺は彼女の可憐さや二面性のある振る舞いに、深刻に恋をしているということ。

 もうひとつは、近いうちに十七年の人生のクライマックスを迎える、そんな予感がするということ。


人生のクライマックスだ、これ以上の多幸感は二度と味わえないだろう。

いま人生が終わっても悔いはない。


みたいな淡い確信は若い頃によく感じました。

振り返れば、ほぼ勘違いばかりです。

自分本意に終わらせなくてよかったです。

地続きのありきたりな日常を携えて

今日も慎ましく生きています。

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