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第31話 雲ひとつない青空_2

 「女子がみんな恋せざるをえないような一言とかないのかよ、宮瀬」

 「あったら男はみんな実践してるし、女は麻痺して効果なんてない」

 やるせなさとともに、宮瀬に愚痴をぶつける。宮瀬は眼鏡を上げながら、飄々と答えた。

 「それは否定できないけど」

 「それに、現状の課題の大部分は航大にあると思う」

 「え、俺?」

 「航大がリードしてあげなよ。女の子からは言いずらいでしょ」

 「リードって、どうやって?」

 見透かした口ぶりで笑う宮瀬に腹が立っている。それでも的確な考察とアドバイスをくれそうな友人は、宮瀬しかいない。

 優男め、と苦虫を食いつぶすような思いを宮瀬に抱くことは、勿論ある。

 クラスで一番かわいい佐藤さんは、野球部の先輩と付き合っているらしい。けれど宮瀬には何となく、隙があるように見せている気がする。適度に可愛く適度に手の届きそうな隣の席の牧田ちゃんは、宮瀬が歩いてくるだけでそわそわする。もはや幅広いハンカチではないかと見紛うほど短いスカートの秋山は、宮瀬にしきりにボディータッチをするし、何度も大げさに足を組みなおす。派手な女子も意外と下着は清純派なのだと知った。その節はありがとうと、感謝はしている。

 そんな百戦錬磨の宮瀬から、実用的で即効性のあるアドバイスをしてもらうこと。それが今の俺には、絶対に必要だった。

 俺が睨んでいることに気づいても、得意げに彼は続ける。

 「家に誘ったらいいじゃん。航大の家、近いし」

 「無理だろ。そもそも何て言うんだよ」

 「なんでもいいよ。女子はその男子に付いて行くのであって、耳障りの言い言葉について行く訳じゃないんだから」

 宮瀬が背伸びをしながら鼻歌をうたう。「そうだなあ。『うちでゲームでもしようよ。今日は家に誰もいないから、気にしないで』とかでいいんじゃない? みんなが一度は言ったことのある、無難で王道のセリフだと思う」

 「ムリムリ。絶対警戒されるだろ。というか、うちは常におじいちゃんがいるから、がちで無理」

 「おじいちゃんになら、ばれてもセーフでしょ」飲み終えた紙パックを潰しながら、宮瀬が笑う。「五十年前、きっと通った道だ」

 「アウトに決まってるだろ」

 「部屋のドアのカギをちゃんとかけていれば、たぶんセーフだよ」

 「お前、ふざけないで真面目に考えろよ」

 宮瀬は上機嫌に笑った。気にかけるべき他人の目が無いとき、彼は作り上げた外見に似合わず、低俗で下劣な笑い方をする。

 「こういうのは本当に何でもいいんだよ。シンプルでいいの。誰が伝えるかが、一番の問題なんだから」

 「そんなこと言ったって、前例が無いから俺には分からないんだよ」

 机に突っ伏して頭を抱える。初めての経験は、いつだって何だって、どうしようもなく難しい。

 「だからさ、素直に思ったことを言いなよ」

 「格好悪くてどんくさい言葉しか思い浮かばない。絶対ダサいって思われる」

 「ダサいかどうかを決めるのは、話す人じゃなくて聞く人だよ。航大じゃなくて、唯ちゃんが決めるの。だから、そんなの考えるだけ時間の無駄だ」

 「正論だけどさ」

 「何でもいいんだよ。そもそも、耳障りのいい言葉すら要らないことの方が多いしね」

 周囲の生徒が帰りはじめ、教室が徐々に閑散としていく。静かになる教室で、穏やかな宮瀬の声が、より大きくはっきりと耳に届く。

 「でも、何も思いつかない」

 俺は突っ伏したまま、駄々をこねるように頭を振る。達観したような宮瀬の声が、頭上から降ってくきた。

 「なんでもいいんだって。そうだなあ、例えば」

 俺は前髪をかきあげながら顔を上げ、宮瀬の話の続きを待つ。

 「今日はこんなに天気がいいんだから、自転車の後ろに唯ちゃんを乗せて、海までデートでもすればいいんじゃないかな。そしたらきっと、これまで以上に距離が近づくと思うな」

 宮瀬がぞんざいに窓を指さす。雲一つない青空が広がっていた。

今さらなのですが、1ページにどれくらいの文量だと読みやすいのでしょうか。

ストレスなく読んでいただきたいなあと思いながら、試行錯誤しつつ投稿しています。

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