第28話 フランソワーズ・サガン_7
春の柔らかな日差し。SLの汽笛。名も知らない小鳥のさえずり。腹を見せて眠る白猫。
何のことはない一日。十七年間暮らし続けた片田舎のベットタウンの、昨日と同じ一日だった。
「じゃあ、今度から唯ちゃんと航大が、一緒に河津桜商店に立ち寄ったら?」
黙っていた宮瀬が眼鏡を押し上げ、名案とばかりにはきはきと提案する。彼は体裁を気にすることを止め、スマホを取り出して操作をしはじめた。メッセージでも返信しているのか、親指が高速で上下左右に動く。
投げやりに見える宮瀬の態度は、河津桜商店に頻繁に付き合わされる日課に飽き、冗長な立ち話の気だるさに耐えられなくなったからかもしれない。悪いことをしたな、と少し思った。
「綾乃ちゃんに用事があるなら、一緒に来れないのも仕方がないね。でもね、その点、航大は最高だよ。いつでも暇だから」
顔を上げた宮瀬が、俺と唯ちゃんを交互に見つめて続ける。窮屈な空間と無為な時間から解放されたと言わんばかりに、爽やかな笑顔だった。
「いいの? 航大くん」
唯ちゃんが俺を見つめる。唯ちゃんが少し飛び上がり、膝までの長さの紺のスカートも、一緒に少し浮いた。白い太ももが露わになる。
「いいじゃん。航大ならブラックモンブランくらい奢ってくれそうだし、節約にもなりそう」
綾乃が冗談っぽく、俺に笑顔でウインクをした。
「それはもちろん。百何十円くらい、航大も持ってるよ」と宮瀬が言い、「じゃあ、決まりだ。今日はそろそろ帰ろう。足が痛くなってきた」と綾乃が背伸びをしながら答えた。
上目遣いで、期待に満ちた目で見上げてくる唯ちゃんを、俺は直視できない。何も言えずに、前髪を無意味に直してしまう。視線を足元に逸らす。コンクリートに描かれた舗道の白線が、経年劣化で消えかけていることに気づいた。
「とりあえず連絡先でも教えてもらったら?」
押し黙る俺のふくらはぎを、宮瀬が靴で軽くつついた。
「嬉しいなあ。誰かと一緒に食べるブラックモンブランが、やっぱりすごく美味しいと感じるの」
唯ちゃんがはしゃぐ。もともとあどけない顔立ちは、笑うとさらに幼く見える。難しいことは分からないけれど、化粧をしていない丸い目と薄い唇が、なんか好き。
田舎の空気感が大好きです。
都会にいても、それは変わらず。




