第27話 フランソワーズ・サガン_6
「好きっていうか、一種のイベントとして通ってる」
綾乃は考え込むように腕を組み、しばし天を仰いだ。何層にも重なった真っ黒の睫毛の束が、何度も瞬く。「商品そのものじゃなくて、特別な時間を買うイベントみたいな」
「イベント?」
「そう。コンビニもスーパーも溢れてる現代で、物を買いに商店に行く奴なんていなくない? お客さんはみんな、利害関係のない世間話をしたくて通ってると思うよ。勉強や仕事や家庭以外の何の生産性もないような、明日には絶対忘れてしまう話を、ただなんとなく、おじいさんやおばあさんに笑って聞いて欲しいだけ」
綾乃は清々しい笑みで伸びをして、電柱越しに広がる青空を見上げた。
「聡明で思慮深い知見だね」
宮瀬が優しい笑みを浮かべ、現代文の授業の解答例のようなセリフを口にした。
「綾乃も唯と同じくらい、ノスタルジックな考え方をしてるじゃん」
隣にいた唯ちゃんが、からかうような笑みで綾乃に抱き着く。横顔も欠点なくかわいかった。
「唯ほどじゃない」綾乃がむっとした表情で首を振る。
「えー。同じくらいか、唯以上だよ。綾乃も年相応に、お花畑の世界に生きてるんだね」
「うるさいなあ」
唯ちゃんは心底嬉しそうに笑っていた。演技でもいいと思った。こんなに瑞々しく清純な笑顔に、一生騙されていたいと思った。
「でも、来週からしばらく一緒に帰れないから」
首に巻きつく唯ちゃんの白い腕を、綾乃が煩わしそうに払う。髪の毛の乱れを気にしながら、唯ちゃんを見つめる綾乃が話を続ける。
「だから、河津桜商店とかカラオケとか図書館は、当面ひとりで楽しんで」
「えー、なんで?」
綾乃より目線の低い唯ちゃんが、上目遣いで首をひねる。
「インターハイの予選が近いから。少なくとも来月までは無理」
「でも、綾乃ってバドミントン部でしょ。バド部、そんな強くないし、そもそもそんなに練習してないじゃん」
「失礼な奴だな」綾乃は首を振り、ため息をつく。「強くても弱くても、インターハイ間際だけはしっかり練習すんの。で、みんなで肩を組んで試合に向かうの」
「いつも練習しないのに、大きな試合前だけ頑張るってこと?」
「そうだよ。その無計画さが青春って感じじゃん」
「えー。唯と一緒に、放課後の建物探訪する方が、きっと楽しいのに」
唯ちゃんが大げさに頬を膨らまし、綾乃の持つスクールバッグを揺すって気を引こうとする。綾乃はスマホを取り出してスクロールをはじめながら、唯ちゃんの不満を適当にあしらう。
学生時代の記憶を引っ張り出して創作した物語なので、現代の高校生と感性は一致していないと思います。
なのできっと、現実の少年少女から見れば異世界ファンタジーみたいな物語。




