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第26話 フランソワーズ・サガン_5

 「うん! 大好き!」唯ちゃんが、俺と宮瀬を交互に見つめる。 


 「歴史があるものが好きで、よく探索してるの。例えば、使い古された黒電話のある市役所とか、レンガ造りの銀行の本社とか、隣の市の古い教会とか、この河津桜商店とか」


 「私もよく付き合わされてる」


 綾乃が長い髪をかき上げ、辟易したように肩を竦める。


 「えへへ。古いものって、どうしようもなくノスタルジーを感じるの」


 「ノスタルジーは違くない? 懐かしい感情が湧いてくるほど、昔の事なんて知らないじゃん。私たち、まだ十七歳だよ」


 「もー、綾乃。意地悪言わないで」


 ふくれっ面の唯ちゃんに顔を近づけられ、綾乃が面倒くさそうに片手で払った。


 「綾乃ちゃんたちはよくこのお店に来てるんだね。若い女の子なのに、古いものにも優しい目を向けられるって、素敵だと思うな」


 静かに微笑んで話を聞いていた宮瀬が、穏やかに口を開いた。宮瀬は再度スマホを取り出して、ホーム画面で時間を確認した。フチなしの眼鏡を上げつつ、綾乃に目を向ける。


 「イケメンに褒められるなんて最高。今日死んでもいいくらい幸せ」


 綾乃が顔をあげ、宮瀬に社交的な明るい笑顔を向けた。声のトーンは、唯ちゃんや俺に向けたものより、格段に高く甘えた響きになっている。


 あんなにも熱中していたスマホを即座にポケットに入れた綾乃は、文字通り零れるような笑みで真っすぐに宮瀬を見つめる。


 「ねえ、宮瀬くん。浪人か留年してたりする? もう十八歳になってたら、この後役場によって、婚姻届をもらって帰ろうよ」


 「あはは。僕は綾乃ちゃんと同い年だから、まだ十七歳だよ」


 「それは残念。じゃあ、誕生日を教えて。次のお誕生日に籍入れよう」


 「彼氏がいるんじゃないの?」


 「宮瀬くんの誕生日までには別れるよ」


 「嬉しいな。僕、本気にしちゃうかも」


 綾乃と宮瀬は軽快に、軽薄で俗物的なジョークを交わす。


 長い髪を手早くかき上げる綾乃は、化粧の崩れを気にして、しきりに目元を触る。視線は宮瀬に釘付けで、口元には終始笑みが浮かんでいる。終始女子のイケメンに対する態度はこうも違うのか、と虚無感に似た脱力感を覚えた。


 唯ちゃんはぼんやりと、均等に並ぶ街路樹の葉桜と、その向こうの青空を眺めている。


 自由気ままな春風が、葉桜の合間をさらりと通り過ぎていった。踏切の遮断機の閉じる甲高い警報音が、春風に乗って遠くから届く。


 「綾乃も、商店の古い雰囲気が好きなの?」


 脈絡のない会話が、ふいに途切れた。目的も予定終了時刻もない立ち話で話が途切れてしまえば、「じゃあ、そろそろ帰ろうか」とお開きの言葉を誰かが口にしてしまう。


 だから咄嗟に、適切と思われる質問を口にした。

夢見がちなまま、逃げ切りたい。

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