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第25話 フランソワーズ・サガン_4

 「へー、航大って本読むんだっけ? そんなイメージ、全然なかったけど」


 茶色っぽいロングヘアをかき上げた綾乃が、視線をスマホから俺に向ける。意味ありげな笑みを浮かべ、茶色で描かれた片眉を上げた。


 「う、うん。高校に入って読むようになったんだ」


 「例えばどんな本?」


 「えっと、マキャベリとベンサム」


 全くの出鱈目だった。今日の歴史の授業中、退屈しのぎに資料集をペラペラとめくっていた時に、たまたま目にした偉人の名前。本を出版しているかも分からない彼らの名前を、咄嗟に口に出した。


 隣に立っている宮瀬はすぐに俯いた。視界の端で、宮瀬の肩が震えている。


 「航大が古典? 思想強すぎて、全然似合わない」


 綾乃が首をひねり、再度スマホに視線を戻した。綾乃に茶化されてはじめて、彼らが古い思想家だと知る。


 顔を上げた宮瀬は、涼しい表情で俺の肩を軽く小突いた。小説どころか漫画さえ読めない飽き性の俺を知る宮瀬は、何も言わずに成り行きを傍観している。


 「そうなんだー! 航大くんも読書が趣味なんだ。唯と一緒で嬉しいな」


 唯が微笑み、俺に向き合う。風に揺れる髪を耳にかける指は、まだ遠い。


 「そう、好き。あ、あと、河津桜商店とか、ブラックモンブランとかも好き!」


 サガンのどういうところが好きか、最も印象に残っているのはどのシーンか、といった核心に触れる質問を避けたかった。取り繕うように、軒先を借りて立ち話をしているこの個人商店と、食べ終えた棒アイスの名前を挙げる。


 四人で立ち話をしながら食べた棒アイスは、四つともハズレだった。


 「え? ブラックモンブランも好きなの? 唯も大好きなの!」


 小柄な唯ちゃんがはしゃぎ、セミロングの髪とひざ丈のスカートが揺れる。気だるげに壁に凭れる綾乃に唯ちゃんが一歩近づき、綾乃の二の腕を馴れ馴れしく軽く叩く。


 「ねえ、綾乃。航大くんって、唯の好きなもので出来上がってるみたい」


 「はいはい、よかったね」


 綾乃が興味なさそうに、唯ちゃんに返事をする。


 「サガンもね、ブラックモンブランもね、河津桜商店もね。唯がすっごく好きなものなの」


 「最高じゃん。運命だよ。赤い糸で結ばれてた的な」


 「うふふ。そしたら綾乃が、キューピットになっちゃうね」


 「ふたり、付き合っちゃえば?」心底飽きたような綾乃は、憚らずに大きなあくびをした。


 身振り手振りで喜びを表現する唯ちゃんから、爽やかなシャンプーの匂いがした。天真爛漫にはしゃぐ唯ちゃんの指が、綾乃のセーラー服を二の腕や手首の部分を、行ったり来たりする。純粋な横顔も綺麗だと思った。


 「唯ちゃんはレトロなものが好きなんだね」


 微笑みを浮かべ、宮瀬が口を挟む。彼はスラックスのポケットからスマホを取り出してちらりと時間を確認し、再度ポケットに戻した。

青春ってほほえましい

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