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第24話 フランソワーズ・サガン_3

 「個性的な考え方だね!」唯ちゃんは満面の笑みを浮かべ、話を続ける。「じゃあ、宮瀬くん。サガンだと、どの作品が一番好き?」


 「『ブラームスはお好き』が、一番好き」


 「へー! センスがいいね!」


 「年上の気の強い美人に弄ばれて、気まぐれに捨てられたいんだ」


 「あはは。唯はね、やっぱり『悲しみよこんにちは』が大好き」


 「どういうところが?」


 「全部かなあ」


 唯ちゃんがくすりと笑った。柔らかな髪が春風に静かに流され、表情が一瞬見えなくなる。


 セーラー服からのぞく白い鎖骨と細いふくらはぎが、セーラー服に隠れる華奢な骨格が、なんだか他の人より輝いて見えた。


 「『悲しみよ こんにちは』の特にいいところはねっ! 多感な十代の女の子が、若さからくる稚拙なコンプレックスに苛まれるところ。あと、恋愛ごっこと家族への執着心に揺れるところ。ありきたり過ぎて、読んでて楽しいの。流行りの少女漫画より共感できるもん」


 熱心に話し込む唯ちゃんは、無垢な丸い目で宮瀬を一心に見つめ続ける。大きな身振りで好きなものを力説するあどけない姿が、可愛いと思った。


 「深い考察だね。もう一度読んでみたくなっちゃった」


 宮瀬が愛想よく頷き、無難な感想を述べた。話の輪に入れずに前髪を触っていた俺に気づいた宮瀬が、さりげなく助け船を出す。


 「清楚な文学少女って男のロマンだよね。多分、男子はみんな好きだよ。航大もそう思わない?」


 「えへへ。たくさん褒めてくれて、宮瀬くん優しいなあ」


 高揚した唯ちゃんの手が、色白の細く長い指が、宮瀬の腕に軽く触れた。


 フランスなんて、ヨーロッパにある国という以外の知識は無い。文学なんて、国語か英語か道徳の教科書でしか読んだことはない。彼らの話には、正直一切興味が湧かない。


 けれど、唯ちゃんの太陽のような笑顔が見られれば、鈴の鳴るような声が聞ければ、話題なんてどうでもよかった。


 「お、俺も好き! サガン、めちゃくちゃ好き。大好き」


 気づけばそんな向こう見ずな言葉が、俺の乾燥した唇から洩れていた。


 誰からも期待されていないのに、教養があるように、勉学に励んでいるように見られたくて、小さな見栄いう名の嘘をついてしまった。男か女か、生きているか死んでいるかも分からない、フランス人の小説家という微かな知識だけで、あの繊細な指に触れる権利を手に入れたい。


 心臓が脈を打つのを感じる。春先にもかかわらず、額に汗が浮かぶ。純情で独りよがりな劣情が、身体の中心から四肢へ流れ出す。


 多分これが、恋だと思う。

恋!という衝撃を得られるのは若者の特権。

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