第七話 「タマ」
僕たち何でも屋だけどさぁ!こんなの、聞いてないよォォォォッ!!!―(byワトソン)
第七話 「タマ」
「ドタマぶち抜かれたくなければ黙って俺の言うことを聞いてくれ」
黒豹の頭に銃口。額に縫い傷、顔の中央にばかでかい傷と十字傷のいかにも危ない男。えちょっと待って。これマジでヤバいんじゃないの!?え、警察呼んどく!?いや、でも僕たち裏稼業バレたらマズいし…!待って何が正解なの!?そもそも何でも屋ってこんなにキケンな職業でしたっけ!?違うじゃん!僕たち何でも屋ってさ、ほら…いなくなった飼い猫探したりおばあちゃんの荷物持ちしたりとかさぁ!もっとほのぼのした仕事のはずだったじゃん!!どうしてこうなったんだっけ!?ああああああ、さっき「僕たち何でも屋じゃん」とかちょっとカッコイイめのセリフ言わなきゃ良かったァァァァ!!ちょっと、ねぇ誰かァァァァ!!今から退職届出しても間に合うかなァァァァ!?
ワトソンはもはや口から泡を吹いて倒れる寸前である。さっきまでの威勢は塵のようにどこかに消し飛んだようだ。いやー、なんてイジリがいのあるキャ…おっと失礼。
「イヤァァァァ、痛い、痛い、痛いよォ!俺タマ無しになっちまう!神様、俺まだ男でいたいんですゥゥゥゥゥゥゥッ」
黒豹が股間を押さえながら叫ぶ。コイツ、この危機的状況を理解していない…。ワトソンはもう泣いていいのか笑っていいのか分からなくなっていた。
「騒ぐなァァァァ、そしてそっちじゃねェェェ!バァン!」
銃を持った男が叫ぶ。
…「バァン!」?ワトソンは恐る恐る男の方を見る。なんで頭に銃を突き付けておいて銃を撃たずに口で律儀に「バァン!」とか言ってんの…?子供の遊びじゃないんだからさぁ…。
「いやー、悪ィ、悪ィ、弾ァ切らしててよォ」
長い赤茶色の髪を後ろでポニーテールにしている男は銃をおろし頭を掻きながら大口開けて笑った。さっきの凶悪な雰囲気とうって変わって今度はイタズラ好きな少年のような雰囲気をのぞかせている。
いや、弾切れじゃなきゃ撃ってたんかい!ワトソンは心の中でツッコミを入れる。
「ったく、そんなことだろうと思った」
たまたま撃たれなかったのに対し黒豹はあっけらかんとしている。なんかさぁ…言っていいかな…アンタなんか撃たれてしまえ…。
「それにしてもひっさしぶりだな、お前老けたな、雲豹」
「まァな」
黒豹と雲豹とかいう男は何やら親しげに話している。見た目は似てこそいないが、その姿はなんだか兄弟のように見えなくもない。なんなの、アンタら…。もう僕、疲れた…。
「で、なんだよ?なんか用があるんだろう」
「それがさぁ」
そう言って雲豹は黒豹に何やらルービックキューブのような大きさの直方体を手渡した。その中にはどうやら何かが入っているらしい。ワトソンの方からは見えないが黒豹はその中身を理解したらしい。ちょっと持ち上げてその物体を見ると、ニヤリとからかうような笑みで「あぁ、」と言った。
「詳しいことは説明できないが察してくれ」
出たよ!また厄介なことに…!もう僕ヤダよ!?
「とにかく死なせるな、誰にも渡すな、いいな」
そう言って雲豹は上着の裾を翻して去ろうとする。するとすかさず黒豹がその腕をガッチリ掴む。
「なぁ、雲豹クン?」
「何だよ、」
「それが人に物を頼む態度かな?」
「わぁったよ、カネなら払うさ」
そう言って雲豹が渋々、懐から袋を取り出し黒豹に紙幣を渡した。
「毎度あり!」
「チッ、今月金欠なんだけどなァ」
いや、お前もかァァァァ!!どうやら僕の周りにはロクな奴はいないらしい。
「で、黒豹。なに預かったの?」
「知りたいか?この世の神秘だよ」
「は?」